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第180話

再び闘技場の上。

そこには見事、優勝を飾ったジークの姿があった。


ジークが未だ闘技場にいるのは何も表彰式のためではない。

それは優勝者への特典、グレア・ネデア騎士団との手合わせがあるからだ。

優勝特典が戦いとは、いかにも戦士の国グレア・ネデアらしい。


ちょうどその頃。


闘技場裏手にあるグレア・ネデア騎士団待機場。

そこから聞こえてくる騎士団員たちの声。


「おい、お前が行けよ」

「いやいや、ここはお前に譲るよ。遠慮せずに行って来いよ」

「いやいや、お前こそ遠慮するなって」


「何をやってるんだ、お前たち?まさか怖気づいてるのか?」


「ちゅ、中隊長!?

 いや、だってさっきの試合見ましたよね?

 騎士団が出て、もしものことがあったらシャレになんないじゃないですか?」


「はぁ…情けない…。

 お前らそれでも、栄えあるグレア・ネデアの騎士団員か?

 もういい。お前らは外でも走って精神と体を鍛え直してこい。ここは私が出る」

「ちゅ、中隊長が出るんですかっ!?」

「そうだ。何だ?やっぱりお前が出るか?」


ブンブンブン

扇風機のように首を回す騎士団員。


「はぁ…」


そしてついに、ジークとグレア・ネデア騎士団の手合わせの時間がやってきた。


「さぁ、今大会の優勝者ジークの対戦相手が出てきました。

 …こ、これはなんとっ!?騎士団中隊長のバーナードです!

 騎士団中隊長のバーナードが出てきましたっ!

 それだけ騎士団もジークのことを認めているということでしょう!


 …さて、この優勝者特典の手合わせでは剣の使用が認められます。

 もちろん騎士団側の剣の刃は潰されていますのでご安心ください。

 さぁ、今大会、圧倒的強さで優勝を掴んだジーク。

 その力が、騎士団中隊長にどこまで通用するのか見ものです!」


闘技場の上。

ティナから譲り受けた剣を手にするジーク。

そしてその向かいに立つのは騎士団中隊長バーナード。


「君は剣も扱えるのか?」

「はい。少しだけですが」


「きれいな剣だな」

「はい。先生からもらいました。僕の宝物です」


「そうか。

 …では始めるとしよう。来いっ!」


そこで繰り広げられたのは、誰も想像しなかったであろう熾烈な戦い。

11歳の少年が現役の騎士団中隊長と互角に渡り合う。

それは、にわかには信じがたい光景。

一進一退の攻防に会場からはどよめきの声が上がる。


バーナードとジーク、お互い、剣術、体術を駆使し、そこには一切の手加減などなかった。


「凄いな…。想像以上だ」

「自分でも驚いてます」

「じゃあ、これならどうだ」


フェイントを織り交ぜたバーナードの攻撃。

ジークの反応が一瞬遅れ、剣での防御が間に合わない。

すぐさまジークは、左腕の身体強化を一段と強化。

その左腕でバーナードの剣をはじくと、同時に、右手に持った剣をバーナードに向け振り下ろした。


バーナードもまた、ジークに剣をはじかれ、剣での防御が間に合わない。

すぐさま甲手を纏った左手を突き出し、なんとかこれをしのぎ切る。


「…参ったな。あれを素手で防ぐか」

「人間族の力です」

「ふっ。そうか」


その後も闘技場の上では、両者一歩も譲らず、一進一退の攻防が続く。

そして結局、決着がつかぬまま試合は引き分けとなった。


この日、人間族を母にもつ11歳の少年は、グレア・ネデア騎士団中隊長と引き分けるという快挙を成し遂げた。

その快挙に会場を埋め尽くす人々からは、惜しみない拍手と歓声が送られた。


そして迎えた武闘大会閉会式。

壇上に立つのは獣人国グレア・ネデア 国王ガナード。


「皆の者、今日はご苦労であった。

 存分に力を出し切り、今の己の実力、そして課題を知ることが出来たであろう。

 今後は今日の経験を活かし、更なる研鑽を積んでくれることを切に願う。


 ……そして今日、1人の少年が我々に新たな可能性を示してくれた。

 獣人族と人間族を父と母に持つ少年が、我々に大切なことを気付かせてくれた。

 皆もその目で見たであろう。彼の少年の雄姿を。

 現役の騎士団中隊長と引き分けたあの戦いを。


 他種族の血が流れているから弱い?

 他種族の血が混じらないよう他種族とは交流しない?

 そうではないだろう?


 弱かったのは我々の心だ。

 そこに秘められし可能性を見ようともせず、諦め、何もしてこなかった

 我々の心が弱かったのだ。

 それを彼の少年が教えてくれた。


 私は、ここに宣言する。

 グレア・ネデアは、他種族との間に生まれし子を蔑むことを断じて許さないっ!

 グレア・ネデアは、他種族との交流を今後一切禁じないっ!

 今この時より、グレア・ネデアは生まれ変わるのだっ!!」


長年の時を経て、ついに果たされた国王ガナードの誓い。

その言葉に、獣人族が埋め尽くす会場は興奮の坩堝と化した。


この日、ジークの想いが、ジークの努力がグレア・ネデアの歴史を変えた。

新たな歴史のページを開いた獣人国グレア・ネデアは、この日を境に徐々に他種族との交流を広げていくこととなる。

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