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第18話

そして翌朝。


チュンチュン

ベッドの上で布団にくるまるユイトの耳に鳥の鳴き声が聞こえてくる。


「……んっ?もう朝か…」


目が覚めたユイトは、横になったまま大きく背伸び。

そしてベッドから起き上がると、まずは窓へと向かう。


「今日もいい天気だな」

その日も昨日と同じく、雲一つない晴天。


「……そういや雨降りの日ってあったけ?

 ずっといい天気のような気がするな……」


(まぁ、魔獣の森や洞窟の中にしかいなかったから、気づかなかっただけかもな)


そんなことを考えながら、ユイトは椅子に掛けて乾かしていた布を手に取った。

そして、昨日と同じく水魔法で布を湿らせ顔をふく。


「…ふぅ、さっぱり。

 よし、じゃあ今日は獣狩りにでも行こうかな。

 昨日、ティナと約束したもんな」


ユイトは早速身支度を整えると、宿屋1階の食堂へ。

初の異世界料理に胸を躍らせるも、その味は可もなく不可もなく。


(…ま、こんなもんか)


その後ユイトはすぐに、昨日ティナと出会った森に向けて町を出発。

森に着くと早速、狩りの準備に取り掛かった。


「昨日狼がいたのは、確かこの辺だったよな…。

 もう少し奥の方まで見てみるか…」


感知サーチ


感知サーチとは、自分を中心にして非常に薄い魔力を球状に放出し、その魔力に触れた生物を感知する魔法だ。

地球でいうところの、ソナーやレーダーみたいなものと思ってもらえればいい。

感知サーチでは、数キロ以内の生物の存在を確認できる。

慣れてくると、魔獣なのか獣なのかも区別できる。

これまでユイトは魔獣の森にいたため人で試したことはなかったが、昨日町で試してみたところ、どうやら人間の区別もできるようだ。

ユイトは今、その魔法で近くにいる獣を探しているというわけだ。


「…おっ、いくつかいるな。

 結構奥の方だけど、念のため全部狩っとくか…」


ユイトは反応を示した場所を順次回っては、サクサク獣を狩っていく。

そして、獣狩りを開始してから、およそ1時間。


「これで全部かな。けど一応、念のため…」


感知サーチ


………。

だが、しばらく待っても反応は何もない。


「よし、大丈夫だな」


今日の収穫は、狼5匹と猪3頭。

森の安全も確保でき、金にもなる。まさに一石二鳥。


「さてと…どうすっかな……。まだ時間も早いし、風呂でも入ってくかな。

 少し汚れちゃったしな」


そう言うとユイトは早速、魔法で風呂作りを開始。

魔獣の森にいた頃から魔法で風呂を作っていたユイトにとって、風呂作りなど造作もない。

土魔法で浴槽を作ると、土が溶け出さないよう、しっかり圧縮。

そこに水魔法で水を注ぎ込むと、最後は火魔法を豪快にぶち込んで出来上がり。

ものの1分で完成だ。


ユイトはすぐに、装備と衣服を脱ぎ捨て風呂へと飛び込む。


ザブーンッ

なみなみと張られたお風呂の湯が勢い良く溢れ出る。


「ふぅ~~気っ持ちいい~~♪」


そこは森の中。木々の間から陽光が差し込む。

少しひんやりした空気に森の香り。そして心地良い鳥のさえずり。

なんて贅沢な入浴だ。

そして誰かに見られていたら間違いなく変態だ。


(よし、次からは衝立も作るとしよう)


風呂に入って、きれいさっぱりリフレッシュ。

ユイトは装備を装着するとすぐに町へと向かい、町に着くと早速昨日の肉屋へ足を運んだ。


「おぅ兄ちゃん、今日はどうした?」

「いやー今日も買い取って欲しくてさ」

「…悪いな兄ちゃん。狼肉は今ある在庫でしばらくは十分なんだ」


(なんと!?……まぁ、9匹も売ったかっらな……)


「じゃあ狼以外だったら買い取ってもらえるか?猪なんだけどさ」

「おぉ、猪か!猪だったら買い取るぜ。ありゃあよく売れるからな」

「よかった。じゃあ、今取り出すから少し待ってくれ」


異空間収納から猪を取り出そうとするユイト。

しかし、今回の猪はそこそこでかい。


(ここじゃ、ちょっと無理かもな…)


「結構大きい猪なんだ。ここより広い場所ってないか?」

「んっ?それじゃあ解体場に置いてくれ」


店主の後に続き、店の奥にある解体場まで移動する。

広めの空間、そして様々な解体道具が置いてある。

(確かにここなら大丈夫そうだな)


「じゃあ、出すぞ」


ズドンっ

まずは猪を1頭取り出したユイト。


「おぉっ!こりゃあグレートボアじゃねぇか!!

 しかもかなりの大きさだ。

 すげぇぞ!これなら小金貨1枚出すぜ」


(おぉ!小金貨1枚!!じゃあ残りの2頭も売れば…)


ほくほく顔のユイトは、あと2頭あると店主に申し出る。

が、さすがに売り切る前に傷んでしまうということで、店主は丁重にお断り。。


(ま、いっか。1頭だけでも10万。コンビニバイトの2か月分…)

(異空間に入れときゃ傷んだりしないしな)


その後、再び店内へと移動したユイトと店主。

買取代金は、昨日と同様、小金貨ではなく銀貨10枚にしてもらう。


「じゃあ兄ちゃん、買取代だ。またよろしく頼むぜ」

「あぁ、分かった」


お金を受け取ったユイトは店を出て、ルンルン気分で宿屋へと向かう。

その途中、ユイトは偶然遠くにティナらしき少女を発見。

昨日約束した通り、森の獣を狩ってきたと伝えようと、ユイトはティナの方へと向かっていく。


(ティナ、喜んでくれるかな)


と、その時、ティナの近くを通りがかった女性の買い物かごから何かが落ちた。

しかし女性は、ものを落としたことにまったく気付いていないようだ。

ティナは女性が落としたものを拾うと、すぐに女性のあとを追いかける。


(やっぱ、いい子だよな……)

そう心の中つぶやくユイト。


だがこの後ユイトは、まったく予想だにしなかった光景を目にすることになる。


落としものを手に女性を追いかけるティナ。

ほどなくして女性に追いついたティナは、拾ったものを渡そうと女性に声をかける。

ティナの声に反応し振り向く女性。

するとその瞬間、女性の表情が一変。すぐさまティナの手から落としたものを乱暴に奪い取ると、何も言わずにそのまま立ち去った。


「…なっ、何だよあれっ!?あれはないだろっ!?」


ユイトが何かされたわけではない。しかし、ユイトは怒り心頭だ。

うつむき立ち尽くすティナに早く声をかけようと、ユイトは歩くスピードを速くする。


コロコロコロ


すると今度はティナの方に向かってボールが転がってきた。

どうやら付近の家に住む子供が遊んでいたボールが転がってきたようだ。


ティナはボールを拾い上げると、ボールを返そうと子供の方に向かって歩きだす。

と、その時、1人の女性がもの凄い勢いで家の中から外に飛び出してきた。

そしてその女性は、キッとティナを睨みつけると、まるで我が子に近寄るなと言わんばかりに、子供を抱え家の中へと戻っていった。


バタンっ


拾ったボールを抱えたまま、その場に立ち尽くすティナ。

そこには、昨日ユイトに見せた、あの愛くるしい笑顔はなかった。


(……何なんだよ、あれ……)

(さっきの女性が非常識だったってわけじゃないのか?)

(何でティナがあんな……)


その後ティナは、子供がいた家の玄関付近に拾ったボールをそっと置き、その場を立ち去った。

1人うつむき帰っていくティナ。

結局この後ユイトは、そんなティナに声をかけることができなかった。

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