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第176話

「ここが僕が住んでる街ガデラ。グレア・ネデアで一番大きな街だよ」

「ここが獣人族の街……」

例にもれず、そわそわするユイト。


「じゃあ、中に入るね」

ジークに連れられ、すぐに街の中へと足を踏み入れる。

するとそこには、所狭しと道を行き交う多くの獣人たちの姿があった。


「すごい…すごいぞっ、ティナ!!獣人がいっぱいいるっ!!」

「……そ、そうだね」

獣人族の街なのだからそんなことは当たり前。

ちょっぴり返答に困るティナ。


その後ユイトたちは、よそ者らしく、きょろきょろしながら街の中を進んでいく。

ジークはそんなユイトたちに向け、色々と街の説明をしてくれた。


しばらくするとそんなジークの前に、知り合いらしき少年たちが現れた。

その途端、ジークは急に黙り込み、顔を下へと向けた。

なんだかジークの様子がおかしい。


「おい見ろよ。ジークの奴、人間族と一緒だぜ」

「ほんとだ。出来損ないのあいつにはぴったりだな」

「はははは。3カ月後の大会が楽しみだな」


「………」

明らかにジークを馬鹿にした言動。

その言葉にジークは歯を食いしばり、ぎゅっと手を握りこむ。


「……ジーク君」


その後、先ほどまでとは一転、黙り込んだジークとともにジークの家へと向かう。

連れていかれたのは街の端。

むしろ街の外と言ってもいいぐらいの場所だった。


「ここが僕の家だよ。せっかくだから寄ってって」


ジークに案内され、家の中へと入る。

「ただいま。お母さん」


「………。そういうことか……」


そこにいたのは人間族の女性。

ジークは獣人族と人間族の間に生まれた子供だった。


「おかえり、ジーク。そちらの方たちは?」

「ユイトさんとティナさん、そしてユイトさんたちの仲間のユキだよ。

 森で僕を助けてくれたんだ」


「ジーク…、あなたまた森に行ったの?

 危ないから止めなさいってあれだけ言ったのに……」

「大丈夫だよ。僕、絶対お父さんみたいに強くなるから」

「ジーク……」


ベッドから立ち上がるジークの母。

「この度はジークを助けていただき、どうもありがとうございました」

そう、ユイトたちに向かい頭を下げる。


「気にしないでください。ジークが無事で何よりです」

「本当にありがとうございます。この子はいつも無茶をして…。

 ごめんね、ジーク。私のせいで…」


「…何で謝るのっ。謝んないでよっ!お母さんは何も悪くないだろっ!

 悪いのは僕だ!弱いままの僕がいけないんだっ!!」

そう言ってジークは家を飛び出していった。


「ジーク君…」


「すみません。お見苦しいところを…」

「いえ、気にしないでください」


「あの子も昔はもっと笑う子だったんです。

 友達ともよく一緒に遊んでいました。

 ですが成長するにつれ、周りの子たちと力の差が出始め、

 だんだんと1人でいることが多くなっていきました。

 見かねた主人がジークに訓練をつけるようになったんですが、その矢先、

 主人は遠征先で亡くなりました」


「そんな…」


「それからあの子は、1人で森に行き、無茶をするようになりました。

 周りともなじめず、強くなろうと必死なんだと思います。

 なんとかしてあげたい。

 ですが私にはあの子を守ってあげられる力もない。

 あの子にこんなつらい思いをさせて私は、私は…」


涙を流すジークの母を見て、ユイトとティナに熱い感情が込み上げる。


「……ところで、お母さん。

 先ほどベッドで横になってましたが、どこか体の具合でも?」

「はい。元々体の弱い体質で、起きているとすぐに調子が悪くなってしまい…」

(病気だったら世界樹の雫で治るかもしれないな…)


「…んっ?」

その時、ジークの母からかすかに漏れ出る魔力にユイトが気が付いた。

(ちょっと待てよ…これって、ひょっとして…)


「取り敢えず、お母さんは休んでてください。

 ジークは俺たちで見てきますから」

「ですが…そんなご迷惑を…」

「大丈夫です。俺たちに任せてください」

「…分かりました。

 それでは申し訳ありませんが、ジークをよろしくお願いします」


すぐに家を出て、ジークを探すユイトとティナ。


「…いた!ユイトさん、あそこ」

家から少し離れた場所にある大きな石の上に座り、遠くを見つめるジーク。


「ジーク君、ここにいたんだ」


「ティナさん、ユイトさん。…ごめん。急に飛び出しちゃって。

 もう…分かったよね。

 僕は獣人族と人間族の間に生まれた子供。純粋な獣人族じゃないんだ。

 だから僕はみんなより頑張んないといけない。

 危険だったとしても頑張んないといけないんだ」


「でも…お母さん、心配しちゃうよ?」


「…嫌なんだ。

 お母さんは何も悪くないのに…、お母さんが謝るのなんてもう見たくないっ!」


「……ジーク君は優しいね。

 ねぇ、ジーク君。ジーク君は人間族のお母さんは嫌い?」

首を横に振るジーク。


「ジーク君の体にお母さんと同じ人間族の血が流れているのは嫌?」

再び首を横に振るジーク。


「だったら、みんなに教えてやろうよ。人間族は凄いんだぞって」

「できるなら僕だってそうしたいよ。でも一体どうやって…」

悔しさを滲ませるジーク。


「…なぁ、ジーク」

そんなジークにユイトが問いかける。


「獣人族って魔法は使えるのか?」

「魔法?僕は魔法を使う獣人族は見たことないよ。

 獣人族は”気”っていうのが得意で、みんなそれを使ってる」


「そっか。だったらジークがやるべきことは決まったな」

「…?」


「ジーク。ちょっと付いてこい。

 お前に見せたいものがある」


ユイトに連れられ家へと戻ってきたジーク。


「お帰りなさい、ジーク」

「ごめん、お母さん。急に飛び出しちゃって」

「いいのよ」

優しい笑みをジークに向ける。


「ユイトさん、ティナさん。

 ジークを連れてきてくださり、どうもありがとうございました」

「いえいえ、いいんですよ。

 それより、お母さんにお願いしたいことがあります」


「私にお願い…ですか?」

「はい。これはジークを救うきっかけになるかもしれない大事なことです」

「ジークを?

 …分かりました。私にできることでしたら何でもします」


そこには何としても子を守りたいという母の顔があった。

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