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第174話

翌日。


紙と筆記用具を受け取ったユイトは、早速イーファに宛てた手紙をしたためる。

エルフへの協力依頼、新たに入手した悪魔の情報、そしてゼルマ王への伝達依頼。


「いやーしっかし、まさか日本語以外で手紙を書く日が来るなんてな。

 2つの世界の言語を扱う男。なんか俺って凄いかも」

自画自賛しつつ手紙を書き進めるユイト。


「…これでよしっと」

「もう書き終わったの?」

「あぁ、ばっちりだ」


「じゃあ、手紙を渡して出発だね」

「そうだな」

書き上げた手紙を手に、ユーリネスタの元へと向かったユイトとティナ。


「…そうですか。もう発たれてしまうのですね」

「はい。少しの間でしたがお世話になりました。

 それではイーファ女王への手紙、よろしくお願いします」

「承知しました。我々エルフの歴史の新たな一歩です。

 間違いなくブレサリーツの女王様にお届けします」


その後、ユイトたちはユーリネスタとともにリシラの入り口まで移動する。

族長、ルーナ、シアードたちも、ユイトたちの出発の知らせを聞き、すぐに入り口へとやってきた。


「ユイト殿、ティナ様。どうぞこれをお持ちください」

リシラを発つ2人にユーリネスタが手渡したのは2つの指輪。


「これは?」

「それは”迷わずの指輪”。

 その指輪を身に着けていれば、ルクペの森で迷うことはありません。

 ぜひそれを身に着け、再びこの地へとお越しください」


「いいんですか?こんな貴重な物」

「はい。あなた方にぜひ持っていていただきたいのです」

「…ありがとうございます。大切にします」


エルフの友好の証というべき”迷わずの指輪”。

皆の想いのこもったその指輪を、皆の前ですぐに身に着けるユイトとティナ。


「そしてこれは世界樹の雫。世界樹の葉の朝露を集めたものです」

「こんなにたくさん…」

「ユイト殿たちがいつ出発してもいいよう、今朝、ここにいる皆で集めました」


「みんな…」


皆、まだリシラに帰ってきたばかりで十分な休息もとれていない。

そんな中、朝早くから集めてくれた皆の想いが詰まった世界樹の雫。


「ありがとう、みんな。大切に使わせてもらうよ」

「皆さん、本当にどうもありがとうございます」


心からのお礼を皆に伝えるユイトとティナ。

そんな2人を、手をぎゅっと握りしめたルーナがじっと見つめる。

するとティナがそんなルーナの方に体を向ける。


「ルーナちゃん。ルーナちゃんもどうもありがとう」

「…はい」

ルーナが小さく頷く。


「………。

 …ティナさん、絶対に…絶対にまたリシラに来てね」

「うん。また、いっぱいお話ししようね」

「絶対だよ」

「うん。約束」


唇をかみしめ、今にも泣きだしそうな表情を浮かべるルーナ。

ティナはそんなルーナに向けて両手を広げた。

その瞬間、ルーナはティナの元へと走り出し、その腕の中に勢いよく飛び込んだ。

寂しさから涙を流すルーナ。

ティナはそんなルーナを包み込むように優しく優しく抱きしめた。


「それでは皆さん、お世話になりました」

「ユイト殿、ティナ様、神獣様。どうかこの先もお気をつけて」


こうして、皆との別れの挨拶を済ませたユイトとティナは、新たな目的地 獣人国グレア・ネデアを目指し、エルフの国リシラを後にした。


「…では、我々もユイト殿から預かった手紙をブレサリーツ王国へ

 届けねばなりませんね。

 いくつもの偶然が重なってできた人間族との繋がり。これも何かの縁です。

 シアード、イサイア、ネイミス、クライト。せっかくなので、

 あなたたち4人で、この手紙をブレサリーツ王国へ届けてもらえますか?」


「はい。承知いたしました」


「では私もすぐに書簡を準備します。

 それが出来次第、あなたたちには出発してもらいます。

 今のうちに準備を済ませておきなさい」


ユーリネスタの指示を受け、ブレサリーツへ発つ準備を急ぐシアードたち。


彼らに不安がないと言えば嘘になる。

エルフの歴史に新たなページを刻むことになるであろう人間族との交流の第一歩。

そしてそれは世界樹を維持できるかどうかをも左右する重要な役割。

彼らの肩にプレッシャーが重くのしかかる。

そして何より、里の外に出ることへの恐怖。

シアードたちの脳裏にあの時の記憶が蘇る。


「…あいつらは北へ行ったとユイト殿は言っていた。

 我々がこれから向かうのは南だ。だから何の心配もいらない。

 我々は贖罪の機会を与えてもらったんだ」


シアードはまるで自分に言い聞かせるように、イサイア、ネイミス、クライトの3人に向け、そう語りかけた。


そしてその少し後、そんなシアードたちの元にユーリネスタの書簡が届けられた。

再び家族にしばしの別れを告げ、リシラ入り口へと集まった4人。


「…よし。では、行くか」


まるで戦地に赴くかのような表情を浮かべた4人が、エルフの里の未来を背負い、ブレサリーツに向けリシラを出発した。


そしてリシラを出発してから数日後、無事ブレサリーツ王国内へと到達した4人。

しかしそこからは、シアードたちにとっては未知の世界。

不慣れな土地に不慣れな文化。換金、お金の使い方もよく分からない。

幾多の困難が彼らを襲う。


しかし、なんとかそれら困難を乗り越え、ヘロヘロになりながらもブレサリーツ王城へと到着したシアードたち。

「よ、ようやく着いた…」


だが、そんな彼らを次なる試練が待っていた。


「おい、お前たち。ここはブレサリーツ王城だ。一体何用だ?」

早速、城門を守る兵士たちがヘロヘロの4人を取り囲む。


「わ、私たちはリシラからの使者だ」

緊張しつつ答えるシアード。


「リシラ?……えっ?」

「本当だ」

フードを脱ぐシアードたち。

そこに現れたのはエルフ特有の長く尖った耳。


「ほ、ほ、ほ、本当にエルフだぁーーーっ!!」

初めて見るエルフに驚きまくる兵士たち。


「私たちはユイト殿とティナ様の依頼でここへ参った。

 ユイト殿から預かった手紙とリシラ国王の書簡、

 そして我が国の品を少しばかりブレサリーツ女王陛下にお渡ししたい」

「ユイト様とティナ様の依頼!?」

「そうだ。これがその証拠。ティナ様より預かってきたものだ」


差し出されたハンカチを確かめる兵士たち。

「確かにクレスティニア王家の紋章…。

 こ、これは大変失礼いたしました。大変なご無礼、どうかお許しください」

一斉に頭を下げる兵士たち。


「い、いや、別にそれはいいのだが…」

突然の兵士たちの謝罪に戸惑うシアード。

しかしティナのハンカチ効果は抜群。まるでどこぞの印籠のようだ。


「それでは確認してまいりますので、あちらでお待ちください」

よく分からぬまま、待合室へと連れていかれるシアードたち。

椅子に腰かけ待つも、どうにもこうにも落ち着かない。


「…しかし、ユイト殿とティナ様の名前を出しただけであの変わりよう。

 一体、あの人たちはどれだけ凄い人たちなんだ…」

うんうんと頷くイサイアとネイミスとクライト。


「…ところで私たちはなぜここで待っているのだ?

 手紙と書簡と世界樹の雫を渡したらそれで終わりではないのか…?」


そうこうしているうちに、シアードたちの元へ兵士が戻ってきた。

「お待たせいたしました。

 イーファ女王陛下がお会いになられるそうです」


「…は?」

顔を見合わせる4人。

「えぇぇーーーーーーーーっ!?」


兵士に手紙と書簡と世界樹の雫を届けてもらうつもりでいたシアードたちにとっては、まさかの展開。

これまた、流されるままに王城内へと連れていかれるシアードたち。


そしてついにイーファとの面会。

緊張しまくりのシアードはもう冷や汗だらだら。

震える手で、ユイトの手紙、ユーリネスタの書簡、そして世界樹の雫をイーファへと手渡した。

イーファはシアードから手紙を受け取ると、すぐにその内容を確認。

快く、エルフたちが”精霊の棲み処”を利用することを認めた。


そしてその日の夜。

ブレサリーツ王城ではエルフの使者をもてなす宴が催された。

酒を注ぎ、話しかけてくる多くの人間族。

シアードたちは予想もしていなかったその歓迎ぶりに若干困惑するも、そこに集まった大勢の人間族と親交を深めた。


こうして、無事、エルフと人間族の交流の第一歩を踏み出すことに成功したシアードたち。

重責を果たした彼らの顔には安堵の表情が浮かんでいた。


今回、彼らが踏み出したのは最初の一歩。

だがそれは、リシラを変える大きな一歩。

その一歩により、近い将来、エルフと人間族の良好な関係が築かれていくことになる。

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