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第172話

一同、建物を出てユーリネスタとともに世界樹へと向かう。


その途中…


「ねぇ、ユイトさん。ユーリネスタさんが言ってた

 ”精霊が生み出す特別な力”って、きっとエーテルのことだよね?」

「多分な。それでさティナ。悪いんだけど、

 世界樹にエーテルを注いでもらえるよう精霊たちにお願いしてもらえないか?」

「もちろん!私もそのつもりだよ。

 けど、びっくりだよね。エルフ族が精霊とそんな深い関わりがあったなんて。

 あのとき精霊たちと契約しておいてほんと良かった!ふふ!」


その後も世界樹へと向かい歩き続ける一行。

大分歩いてきたはずだが、世界樹の元にはまだ着かない。

部屋の窓から見た時にはすぐ近くにあるように感じたが、これが意外と遠い。

おそらくその大きさ故に錯覚していたのだろう。

一行は、そのままさらに奥へ奥へと進んでいく。


そして、


「もうすぐです」


ユーリネスタがそう言ってから数分後。

一行はようやく世界樹の元へとたどり着いた。


皆の目の前にそびえたつ世界樹。


「すごいな……めちゃくちゃでかい……」

「うん…これはびっくり……」


そのあまりの大きさと存在感に圧倒されるユイトとティナ。

2人は上を見上げたまま、ピクリとも動かない。


するとそんな2人に向け、ユーリネスタが声をかける。


「それではユイト殿。

 先ほど話していた”何とかできるかもしれない”という件、お願いできますか?」


「…あっ、そうでした。

 それじゃあティナ、頼めるか?」

「うん!任せて!」

そう言うとティナは1人、世界樹の元に向かって歩きだした。


「……ユイト殿、ティナ殿は一体何を?」

「まぁ、いいから見てなって」

「???」

不思議そうな顔でティナの後ろ姿を眺めるヤニス。


皆が見つめる中、世界樹の元へと辿り着いたティナ。

するとティナは、世界樹の太い幹に手を押し当てた。


「もう大丈夫だよ。今、助けてあげるからね」

そう世界樹に声をかけると、ティナは目を瞑って胸の前で両手を組んだ。


「…お願い、みんな。少しだけ私に力を貸して」


その直後、ティナの体が眩い光に包まれる。

そして次の瞬間、その光の中から精霊たちが顕現。

ティナを前にすぐさま跪くと皆一様に頭を下げた。


「…なっ!?」

目の前に突如現れた、これまでに見たこともない神秘的な存在に驚くエルフたち。


「一体あれは……」


「あれは精霊です」

「…せっ、精霊っ!?今、精霊様と言ったのですかっ!!?」

「そうです。あそこにいるのは精霊……今いるのは全部、上位精霊っぽいですね」


「……そ、そんな……そんなまさか……。

 まさか、こんなことが……」


それはエルフたちにとってはとてつもない衝撃だった。

決して人前に姿を現すことのない精霊が顕現、さらにはその精霊たちが跪く。

そのまさかの光景に、ユーリネスタたちは皆、言葉を失い呆然と立ち尽くした。


「突然呼んでごめんなさい。みんなにちょっとお願いがあって。

 この世界樹にエーテルを注ぎたいの。

 だから、みんなの力を少しだけ分けてもらえますか?」

「御心のままに」


すぐに世界樹の周りに散開する上位精霊たち。

そしてそれぞれが配置に着くと、ティナが精霊たちに向け声をかけた。

「それじゃあ、みんな。行くね」


精霊たちに向け放たれるティナの濃密な優しき魔力。

そんなティナの魔力を受け取った精霊たちはすぐにエーテルを生成。

直後、その大量のエーテルを世界樹に向け一斉に解き放った。


「…………」

精霊たちにより世界樹へと注がれる大量のエーテル。

エルフたちは皆、呆然とした表情でただただその光景を見つめる。


そして世界樹にエーテルを注ぎ始めてから十数分。

枯れ衰えた世界樹が目に見えて生き返り始めた。

それはまさに、奇跡としか言いようのない光景だった。


「まさか……こんなことが……」

「信じ…られん……」

「世界樹が……。…すごい」


そして、それからさらに数分後。

世界樹の前で静かに立つエルフたちの目には、かつての姿を取り戻した母なる世界樹が映っていた。


エルフたちの目に映る、枝いっぱいに青々とした葉を茂らせた世界樹。

「夢では…ないのですね…」

ユーリネスタがぽつりとつぶやく。


「…ユイト殿っ!!ティナ殿は一体何者なのじゃっ!!?」

大興奮のヤニス。


「んーー俺もよくは分かんないんだけど、

 精霊たちにとってティナは神様みたいな存在なんだってさ」

「…せ、精霊様たちの神じゃとっ!?」

「あぁ。精霊界に行ったときに精霊女王のフェルミ―リアさんがそう言ってた」


「…せ、精霊界に行かれたのですかっ!!?

 しかも精霊女王様にお会いになられたとっ!!?」

「えぇ。精霊界は凄くきれいな所でしたよ。

 雰囲気はリシラとよく似てる。自然と調和してるところとか特に。

 リシラをもう何段階か幻想的にした感じかな」


「……し、信じられません。まさかそのようなことが……」

再び言葉を失う一同。


その後、エーテルを注ぎ終えた上位精霊たちが、再びティナの元へと集まり跪く。


「みんな、どうもありがとうございました。本当に助かりました」

「もったいないお言葉です。

 また何かあればいつでもお呼びください。

 再びティナ様にお会いできる日を楽しみにしております」


そう言い残し、上位精霊たちは精霊界へと帰還した。

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