第170話
「…あぁ……本当に…本当に帰ってきたんだ……」
懐かしきリシラの光景を前にして感慨にひたるシアードたち。
そしてそんなシアードたちのすぐ横で、顔を左右に振って辺りを見渡すユイトとティナ。
「へぇ…きれいなところだな…。
…なぁ、ティナ。なんかさ、どことなく精霊界に似てないか?」
「うん、私もそう思った。雰囲気とかそっくりだよね。
……なんかいいなぁ。なんだかすごく落ち着く。
こういうところに住むのもいいかもね」
リシラの雰囲気をいたく気に入ったユイトとティナ。
そうこうしていると、捕らえられていたエルフたちの家族が飛んでくる。
先に里の中に入っていった戦士から話を聞いたのだろう。
皆、わき目も振らず、息を切らして真っすぐこちらに向かって駆けてくる。
そんな愛する家族の姿がシアードたちの目に映る。
その瞬間、彼らの目からは自然と涙が溢れ出る。
「あぁ…あなた……」
「父さん、もう会えないかと……」
皆、抱き合いながら涙を流す。
「あぁ…ルーナ、ルーナ、ルーナ…」
「お父さん、お母さん…。会いたかった…会いたかったよぉ……」
父と母に力いっぱい抱きしめられるルーナ。
「良かったね、ユイトさん」
「あぁ。ほんとに」
諦めていた家族との再会を心から喜ぶ皆の姿。
そんな彼らの姿にユイトとティナもまた、心から喜びを感じていた。
それからしばらくすると、行方不明の同胞たちが帰ってきたとの噂を聞きつけ、他のエルフたちが続々とその場にやってくる。
駆け付けたエルフは、1人、また1人と増えていき、最終的にはかなりの数のエルフがそこに集まった。
そしてそんな彼らの目に映るのは2人の人間族の姿。
「…おい、あいつら人間族だよな?」
「なんで人間族がここにいるんだ?」
そんな声がそこら中から聞こえてくる。
「ユイトさん…」
「…あぁ。やっぱ歓迎はされてないみたいだな」
そしてユイトとティナに向けられる声は徐々にエスカレート。
「そいつらが、さらったんじゃないのかっ!?」
「そうだ!人間のせいだっ!!」
「人間族はすぐにこの里から出ていけーーっ!!」
次々とユイトたちにかけられる心無い声。
と、その時…
「やめてぇぇーーーーーーーーっ!!!」
そんな心無い声をかき消すかように、ルーナの叫び声が辺りに響いた。
「ユイトさんとティナさんはそんなんじゃないっ!!
私はユイトさんとティナさんに命を救ってもらったのっ。
すごく親切にしてくれた。すごく優しくしてくれた。
本当に、本当に良い人たち。
…だから許さない。
ユイトさんとティナさんのこと悪く言ったら、私、絶対に許さないっ!!
いくらみんなでも、私、絶対に許さないっ!!!」
「ルーナ……」
「ルーナちゃん……」
すぐにシアードたちもルーナに続く。
「そうだっ!ルーナの言う通りだっ!!
私たちはここにいるユイト殿とティナ殿に命を救われた。
彼らがいたからこそ私たちはこの里に戻ってくることが出来た。
彼らは私たちの命の恩人だ。彼らを悪く言うなど、絶対に看過できんっ!!」
ルーナ、そしてシアードたちの言葉にざわつくエルフたち。
するとそんなエルフたちの後方より、1人の年老いたエルフがやってくる。
「よくぞ無事に帰ってきたな、お前たち」
「…族長!?」
急いで族長の前に整列し、頭を下げるシアードたち。
「族長、申し訳ありません。ご心配とご迷惑をおかけしました」
「良い良い。お前たちが無事に帰ってきて本当に何よりじゃ」
そうシアードたちに一言かけると、族長はユイトたちの元へと向かっていく。
「ルーナの啖呵が聞こえてきた。
あなた方が皆を助けてくれたんじゃろう?
よく皆の命を救ってくれた。礼を言う」
族長がユイトとティナに頭を下げる。
「いや、ほんと偶然だったんだ。けど、みんなを助けれて良かったよ」
「…そうか。謙虚じゃのう」
再びシアードたちの方を向く族長。
「さて、お前たち。何があったのか話を聞かせてくれるかの?
じゃが、ここでは話しづらいこともあるじゃろう。
儂の家で聞かせてもらうとするかの」
そう言って歩き出した族長に向け、シアードが口を開いた。
「族長、お願いがあります」
「何じゃ?」
「今回の件、里長にもお伝えしたく」
「………。それ程までの話ということか?」
「はい」
「……分かった。
では里長のご予定を聞いてくる。それまで皆は儂の家で休んでおれ」
「分かりました」
その後シアードたちに案内で、族長の家へと向かうユイトたち。
「なぁ、シアードさん。さっき里長って言ってただろ?
里長って族長よりも偉いのか?」
「もちろんだ。里長とは、エルフの里の長。つまりこの国の王のことだ」
「…お、王様っ!?じゃあ、これから王様んとこ行って話をするってのか?」
「あぁ、そうなるな。里長のご都合が良ければの話だが」
「これはまた急な展開だな…」
族長の家に着いた一行は、族長の指示に従い一休み。
移動の疲れからか、すぐにうとうととし始めるエルフたち。
ルーナもティナの膝の上で気持ちよさそうにお寝んねだ。
そしてそのまま待つこと4、50分。
ようやく族長が戻ってきた。
「ほれ、お前たち、起きなさい。
里長が話を聞いてくださるそうじゃ。すぐに里長のところに向かうぞい」
族長の声にみんな飛び起き、急いで家の外に出る。
「では行くぞ」
族長の家を出発し、里の奥へ奥へと進んでいく。
そして歩き続けること数十分。
目の前に里長が住んでいるという大きな建物が現れた。
さすがリシラの王がいるところというだけあって立派な建物だ。
族長の後に続いて、里長のいる建物の中へと入っていく。
通されたのは、これまで見てきた会議室とはあまりに雰囲気の異なる会議室。
人工的でないと言うか、自然というか。エルフの里ならではといった雰囲気だ。
そのまま椅子に腰かけしばらく待つと、そこへ1人のエルフが現れた。
すると皆、勢いよく立ち上がり頭を下げる。
ユイトとティナも皆に倣って、立ち上がり頭を下げた。
(この人が里長なのか?)
目の前にいるのは、族長よりもはるかに若い見た目の1人のエルフ。
「皆、よく無事に帰ってきてくれました。
こうして無事に皆に会えたこと、心より嬉しく思います」
「ユーリネスタ様。
この度は多大なるご心配とご迷惑をおかけいたしました。申し訳ございません」
シアードたちが再び深く頭を下げる。
「良いのですよ。顔を上げなさい」
皆の反応から察するに、やはりこの人が里長のようだ。
「さて人間族の方々。ご挨拶がまだでしたね。
私はこのエルフの里を治めるユーリネスタです。
族長のヤニスから話は聞きました。
あなた方が、我が同胞たちの命を救ってくれたのですね。
エルフの里リシラの長として心より感謝いたします」
言葉遣いも丁寧で、何だか腰の低い好感の持てる里長だ。
「…ほらっ、ユイトさん」
「あ、あぁ」
ティナに促され、すぐにユイトも挨拶を返す。
「俺はユイトといいます」
「私はティナと申します」
2人がユーリネスタに頭を下げる。
「族長にも言いましたが、そんなに気にされなくていいですよ。
俺たちの行った先に、偶然シアードさんたちがいたってだけですから」
「たとえそうだとしても、あなた方が我が同胞の命を救ってくれたということに
変わりはありません。本当に感謝しています。
そしてそんなあなた方に、里の者が失礼な物言いをしたと聞きました。
里の長として謝罪いたします。申し訳ありませんでした」
「いえ、それも大丈夫ですよ。
ルーナやシアードさんたちが、ちゃんとかばってくれましたから」
「…そうですか。そう言っていただけると助かります。
……さて、シアード。
私を呼んだということは、それだけ重要な話ということでしょう。
あなたたちの身に何があったのか教えてもらえますか?」
「はい、分かりました。
それでは順を追って説明させていただきます。実は私たちは……」