第17話
逸る気持ちを抑えながら、ティナの歩調に合わせ歩いていくユイト。
そして程なくして、ついに念願の町に到着。
「ま、町だ…」
この世界で初めての町に感動するユイト。
そんな感動に浸るユイトにティナが声をかける。
「ユイトさん。町の中、案内してあげる!」
「えっ?いいのか?でもティナ、疲れてるだろ?」
「ううん、大丈夫。ユイトさんが手伝ってくれたから、全然疲れてないよ!
それにいつもより早く帰って来れたから。ね?」
「そっか。じゃあ、せっかくだからお言葉に甘えようかな」
「うん。じゃあ行こ!」
(なんていい子だ…)
ティナの優しさに激しく感動するユイト。
そしてユイトはティナに手を引かれ、町の中へと入っていった。
「えっとね、ここが、お肉屋さん。ここで狼のお肉を買ってくれると思うよ。
こっちは道具屋さん。
そして、突き当りを曲がったところに宿屋さんがあるよ」
丁寧に町の案内をしてくれるティナ。
異世界ということで若干構えたものの、思ったよりも普通の町でユイトも一安心。
だがその途中、ユイトは町人から向けられる視線が少し気になった。
怪訝な視線というかなんというか。好意的でないのは間違いない。
(……俺の格好が変なのか?)
(まぁ、魔獣の森で拾った、どこぞの誰かの装備だしな)
(それとも髪の色か?よく見ると黒目黒髪って俺ぐらいだもんな……)
色々と考えるユイト。だが、いくら考えても理由は分からない。
その後も、ティナに町を案内してもらったユイトは、一通り町の主要箇所を把握。
これで1人でも迷わず行動できそうだ。
こうして、楽しかった3年ぶりの町散策も無事終了。
その頃にはもう夕方近くになっていた。
「ユイトさん。今日は本当にどうもありがとうございました」
「何言ってんだよ。礼を言うのはこっちだよ。
ティナは俺の恩人だ。1人だったら絶対迷ってた。本当にありがとな」
「ふふっ。お役に立てて良かったです」
「なぁ、ティナ。せっかく町に来れたし、俺はしばらくこの町にいるつもりだ。
多分、宿屋にいると思うから、何か困ったことがあったら何でも言ってくれ。
俺にできることだったら何でも手伝うからさ」
「はい!」
最後に眩しいほどの笑顔をユイトに向け、ティナは家へと帰っていった。
(ほんと、いい子だったな)
ユイトは心底そう思った。
「さてと、まずは宿代の確保だな。店が閉まる前に行かないと」
早速、ティナに教えてもらった肉屋へと向かう。
「へい、らっしゃい。何をお求めで?」
「いや、買うんじゃなくて、買い取ってもらいに来たんだ。
狼の肉なんだけどさ、買い取ってもらえるか?」
「おぉ、狼か!そいつぁありがたい。ちょうど在庫がなくなるところだったんだ」
「良かった!買い取ってもらえなかったらどうしようと思ってたんだ。
で、買い取り価格ってどれくらいなんだ?相場が全然分かんなくてさ」
「そうだな……。
大きさや鮮度によってまちまちだが、平均的な物で1匹あたり銀貨1枚って
とこだな」
(……銀貨1枚。ってことは1万円ぐらいか)
(そこそこいい金になるんだな。これなら、宿代も大丈夫そうだ)
店主の言葉にユイトは一安心。
「分かった。全部で9匹いるんだけど全部買い取ってもらえるか?」
「きゅ、9匹!?お、おぅ、買い取るけどよ、9匹も一体どこにあるんだ?」
「今出すからちょっと待ってくれ」
「???」
店主の目の前で、森で狩った狼たちを異空間収納から取り出すユイト。
ドサッ、ドサッ、ドサッ
「9匹いるはずだ。数えてくれ」
「な、な、な、何だそりゃーーーっ!?」
腰を抜かすほど驚く店主。この反応にもだいぶ慣れてきた。
「まぁ、収納袋みたいなもんだな」
ユイトは、涼しい顔で軽く返す。
「いやーおったまげたぜ。奇妙なことできるやつもいるもんだな。
…それにしてもずいぶんと立派な狼だな。鮮度もいい。
これだったら、1匹銀貨1枚と小銀貨5枚で買い取るぜ」
(おっ!相場の5割増し)
「分かった。じゃあ、それで頼む」
「毎度!」
狼9匹、締めて小金貨1枚と銀貨3枚と小銀貨5枚。
だが、小金貨だと使い勝手が悪そうなので、銀貨10枚にしてもらう。
ユイトは、店主から銀貨13枚と小銀貨5枚を受け取ると、にんまりとした顔で店を出た。
「じゃあ次は宿屋だな」
ユイトは、ティナに教えてもらった宿屋へと向かう。
「"森のほとり亭"…ここか。
1階は食堂で、2階が宿屋なんだな。
まぁ、辺境の町って言ってたからな。宿屋だけじゃやってけないんだろうな」
そんなことを考えつつ、宿屋の扉を開けるユイト。
中は想像していたより、きれいで新しい。
「いらしゃいませ。お好きな席にどうぞ」
完全に食事客と思われているようだ。
「いや、泊まりたいんだけど…」
「えっ、宿泊!?あっ、すみません。失礼しました」
この反応、どうやら久々の宿泊客らしい。
「宿泊ですと、素泊まり1泊小銀貨3枚になりますが、何泊されますか?」
小銀貨3枚ということは、およそ3000円。ずいぶんと安い。
さっき肉屋で手に入れたお金だけで1か月以上泊まれる。
「じゃあ、とりあえず7泊でお願いするよ」
「かしこまりました。それでは、銀貨2枚と小銀貨1枚になります」
実はお金も異空間収納に入れてある。
お金ぐらいの大きさだったら、いかにも「ポケットの中に入ってました」的な感じで取り出せる。
ユイトは銀貨2枚と小銀貨1枚を異空間収納、もとい、ポケットから取り出しカウンターへと置いた。
「これでいいか?」
「はい、ちょうどいただきました。お部屋は2階になります。
こちらがお部屋の鍵です。201号室をお使いください。
食事は別料金になりますが、1階の食堂で食べれますので、
ぜひご利用ください。
それではごゆっくりどうぞ」
鍵を受け取ったユイトは、階段をのぼり部屋へと向かう。
そして部屋に入ったユイトは、装備を外し一息つく。
「ふぅぅ」
部屋は当然、日本のホテルと比べると質素なことこの上ない。
水道もないため、当然風呂も付いていない。
「ま、しょうがないか……」
ユイトは魔法で水を生成すると、それを布にしみ込ませ、体の汚れをきれいに落とす。
さっぱりしたところで、数年ぶりのベッドに横たわり全力で脱力。
かなり固めのベッドだが、地面で寝るより万倍いい。
念願の町に着いて気が抜けたのか、何だか眠くなってきた。
「少し早いけど、もう寝るか」
こうして初めての異世界の町、初日は終了した。