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第169話

ルクペの森。

別名”迷いの森”とも呼ばれるその森は、訪れる人々の方向感覚を狂わせる。

真っすぐ進んでいるつもりでも、気付かぬ内に異なる方角へと誘われ、いつの間にか森の入り口へと舞い戻る。

それ故、エルフの案内がなければリシラへ辿り着くことは不可能とさえ言われている。


「ではユイト殿、ティナ殿。

 ここから先は我らが先導する。付いてきてくれ」

「分かった。俺らじゃリシラの場所分かんないしな」

「それもあるが、このルクペの森にはエルフの民たちによって

 大規模な術が施されているからな」

「術?」

「あぁ。魔法と言えば分かるか?」

「あー魔法のことか。で、どんな術なんだ?」


「この森に入った者たちの方向感覚を狂わせる術だ。

 我らエルフは、かなり前から人間族との関わりを断って暮らしてきた。

 だが人間族の中には、エルフの里に来ようとするものが相当数いたらしくてな。

 そこで先人たちが、エルフの里に人間族を近づけさせないよう、

 ルクペの森に大規模な術を施したというわけだ」


「なるほど。でもエルフたちは大丈夫なのか?迷ったりしないのか?」

「あぁ、それは問題ない。

 我々はこの地で生まれ、幼き頃よりルクペの森とともに育ってきたからな。

 我々にとっては、この森が普通なんだ」


「そっか。じゃあやっぱ、シアードさんたちに道案内お願いして正解だったな。

 俺たちだけで来てたら絶対に迷ってた。ほんと助かったよ。

 それじゃあ悪いけど、こっから先はよろしく頼むよ」

「承知した。では、はぐれないよう注意して付いてきてくれ」


そこからはシアードたちに先導を任せリシラへと向かう。

エルフの身体能力はそこそこ高く、結構なスピードで森の中を駆けていく。

早くエルフの里に帰りたいというのもあるのだろう。

だが、さすがにルーナがついて行くには厳しい速度。

そのため、ルーナはユキの背中に乗って移動することにした。


途中、ユイトたち一行は何度か簡易宿にて夜を明かす。

つい先日まで地獄の底にいたエルフたちにとって、それはまさに至福の時間。

あっという間にエルフたちは、簡易宿とユイトの食事の虜になった。

早くリシラの里に着きたい。だが、もっと簡易宿にも泊まりたい。

シアードたちの激しい葛藤が続く。


そして道なき道を走り続けること数日。

ついにユイトたちは目的地、エルフの国リシラのすぐ近くまでやってきた。


この頃にはルーナは、ティナを本当の姉のように慕うようになっていた。

はたから見ると、本当に仲の良い姉妹そのものだ。

ユイトとは、お姉ちゃんの彼氏以上、本当のお兄ちゃん未満と言った距離感であろうか。

(…なんか、めっちゃ分かりにくくない?)


「見えてきた。あれがエルフの里、リシラだ」

「あれが、リシラ……」


「…帰って来れた……やっとお父さんとお母さんに会える……」

故郷を前に涙を浮かべるルーナ。そんなルーナをティナが優しく抱きしめる。


「ユイト殿、ティナ殿。改めて礼を言わせてくれ。

 貴方たちがいなければ、ここに戻ってくることは出来なかった。

 心より感謝する」

シアードたちが深々と頭を下げる。


「だったら俺たちもお礼を言わなきゃな。

 シアードさんたちがいなかったら、リシラにたどり着くことは出来なかった。

 俺たちが今ここにいるのもシアードさんたちのおかげだ。どうもありがとな」

ユイトとティナもシアードたちに向かい頭を下げた。


「つーわけで、俺たちはギブ&テイク、貸し借りは無しだ」

「ギブ&テイク?」

「助け、助けられ、与え、与えられるって意味だ。

 要するに、お互い協力しあった仲ってことだな」

「そう言ってもらえると気が楽になる。ありがとう、ユイト殿」


「あぁ。それじゃあシアードさん。行こうか」

「そうだな。

 心配している里のみんなに、元気な姿を見せてやらないといけないからな」


そして言葉に表しきれないほどの喜びを胸に、シアードたちが里の入り口に向かい歩き出した。


エルフの国リシラ。

ルクペの森とともに生きるその国は、周囲を巨大な樹々がまるで城壁かのように取り囲む。そしてその樹々が気まぐれに作り出す隙間こそがリシラ内部への入り口。

今日もその入り口にて、弓を携えたエルフの戦士たちが辺りの警戒にあたっていた。


「今日も平和だな」

「あぁ。そもそもエルフ族しかここにはたどり着けないだろうからな」


すると、その時…


「……おい、誰かこっちに来るぞ」


そんな彼らの目に、リシラ入り口へと近づいてくる複数の影が映り込む。

その瞬間、エルフの戦士たちに一気に緊張が走る。

影に向かい一斉に弓を構えるエルフの戦士たち。


なおも入り口へと、どんどん近づいてくる複数の影。

戦士たちは皆、息を整え、近づいて来る者たちに意識を集中。

弓を構える腕にも力が入る。


そして、顔を視認できるほどその影が近づいた時…


「…ま、まさか……。

 みんなっ、弓を下ろせっ!!」

驚愕の表情を浮かべ、そう指示を出すのは戦士長ヴァイス。


その少し後、そんなヴァイスの目の前には、失踪して数年、もはや誰もが諦めていた同胞たちの姿があった。


「久しぶりだな。ヴァイス」

「シアード……本当にシアードなのかっ!?」

シアードの両肩を掴み、まるで叫ぶかのように興奮して問いかけるヴァイス。


「あぁ、そうだ。ようやく帰って来れた」

「お前…生きてたんだな…。良かった…本当に良かった」


もはや二度と会うことはないだろう。

そう諦めていた友との再会を抱き合いながら喜ぶヴァイスとシアード。


「…お前…一体今までどこに行ってたんだ?

 みんな本当に心配してたんだぞ?」

「……すまない。そのことについてはまた後で話させてくれ」

「………。…そうか。分かった」


するとヴァイスが、シアードの後方へと視線を移す。


「ところでシアード。そこにいる奴らは人間族だよな?

 なぜ人間族をここに連れてきた?」


「……私は…私たちは皆、彼らに助けられたんだ。

 彼らに命を救われ、再びこの地へと戻ってくることが出来た。

 彼らがいなければ、この地へと戻ってくることは決してなかった。

 近い将来、私たちは全員、間違いなく死んでいただろう。

 彼らは私たちの命の恩人、そして、尊敬すべき方たちだ」


「……まさか…あんなにも人間族を嫌ってたお前が……」

それはヴァイスにとって夢にも思わぬ、本当にまさかの言葉だった。


「ヴァイス。ひとまず中に入れてくれるか?

 族長に急いで話したいことがある。

 それに家族にも無事を伝えたい。今までかなりの心配をかけただろうからな」


「…そうだな。分かった。すぐに門を開ける。

 おいっ、誰かシアードたちが帰ってきたことを里のみんなに伝えてきてくれっ」

その指示に従い、1人の戦士が開いた門から急ぎ里の中へと入っていく。


「さぁ、ユイト殿とティナ殿も中へ」


開かれた門をくぐり、ユイトとティナがリシラの中へと足を踏み入れる。

するとそこには、樹々が生い茂り、自然と調和した美しい光景が広がっていた。

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