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第168話

先ほどユイトが作った2つの簡易宿。

1つは、ユイトたちとエルフの少女の4人で使用、もう1つはエルフの男たち4人で使用することにした。


早速みんな、それぞれの簡易宿の中へと入っていく。


「すごい……」

とても即席で作ったとは思えないほどの造りに驚くエルフの少女。


「ふふ。すごいでしょ?私もね最初はすっごく驚いたの。

 …あっ、そういえば自己紹介がまだだったね。

 私はティナ。よろしくね!」


「ティナ…さん」


「うん。それでこちらがユイトさん」

「ユイトだ。よろしくな!」

「それでこの子はユキ。私と従魔契約を結んでるフェンリルよ」


「…フェンリル……あの伝説の…?」

「うん。そのフェンリル」

「…すごい」

驚いた表情でユキを見つめるエルフの少女。


「ふふ。じゃあ交代だね。名前、教えてくれるかな?」

「はい。私はルーナです」

「ルーナ…すごくきれいな名前だね。

 じゃあルーナちゃん。まずは私と一緒にお風呂に入ろ?

 その間にユイトさんがご飯の準備してくれるから。ね?」

「…はい」


「お風呂もきっと驚くと思うから、楽しみにしててね!

 それじゃあ、ユイトさん。

 私、ルーナちゃんとお風呂入ってくるから、ご飯の準備お願いします!!」

「あぁ、任せとけ!」


衝立があるとはいえ、自分がいては中々風呂にも入りづらかろう。

ユイトはすぐに簡易宿の外に出て、食事の準備に取り掛かる。


「よーし、やるかーーっ!

 キャンプと言えばやっぱカレーだな!カレー♪カレー♪」


早速、異空間収納から食材と調理器具を取り出すユイト。

まずは、魔力でパっと袋を作ってお米を投入。

そこに水魔法で勢いよく水を注ぎこんで米を研ぐ。

白く濁った水はすかさず排水。この作業を何度か繰り返す。

そして水がきれいになったところで、米を炊飯器に移してタイマーセット…もとい、魔石をセット。


「これでよし!」


お次は、野菜と肉を乱切りにして、各種スパイスとともにぐつぐつ煮込む。

出てきた灰汁はお玉ですくって丁寧に取り除く。

しばらくすると辺りに食欲をそそるカレーの香りが立ち込める。

最後にとろみをつけてユイト特製絶品カレーの完成だ。


「米の方もそろそろかな」


先ほどまでシューシューと元気に音を立てていた炊飯器の蓋を開けてみる。

炊きたてごはんのいい香りが立ち上る。お米もつやつや最高の炊き上がり。


「うん。いい感じ。

 ……せっかくだし、テーブルとイスも準備しとくかな」


すぐにユイトは近くの木を風魔法で伐採。

風魔法を駆使して、あっという間にテーブルと椅子を作り出す。

「とりあえず、こんなもんか。後は食器を並べてと…」


ちょうどその頃、風呂から上がったエルフの男たち。


「ふぅ、すっきりした。生き返った気分だ」

「まったくだ。まさかお湯に浸かれるなんて思ってもみなかった」

「あぁ、里でも基本水浴びだったからな」


「…しかし、良い人間族というのもいるものだな」

「そうだな。我々は過去にとらわれ、今ある現実を見ていなかった。

 自ら考えることを放棄し、見ようともしていなかった。

 このままではだめだ…何だかそう教えられた気分だ」


そんなことを話しているエルフたちの元へ、かぐわしいカレーの匂いが漂ってくる。

「…良い匂いがするな」

「あぁ、なんだか食欲をそそられる香りだ」


ぐ~~~

エルフたちのお腹が元気に鳴る。

「よし、外に出てみよう」


もう一つの簡易宿。


「ルーナちゃん。あったかいお湯って気持ちいいでしょ?」

「うん、すごく気持ちいい!

 それに髪と体から、すごく良い香りがする。こんなの初めて!」

「ふふっ。気に入ってもらえたみたいで良かった!」


初めはまだ心を閉ざしていたルーナ。

だがティナが向ける温かい笑顔が、ティナのかける優しい言葉が、そんなルーナの凍った心を優しく溶かしていった。


「じゃあルーナちゃん、そろそろ上がろっか?」

「はい」


お風呂から上がり、服を着ようとするルーナ。

「あっ、ルーナちゃん。ちょっとだけ待って!

 せっかくだから服もきれいにしちゃうね」


そう言うとティナは水魔法と風魔法を並列起動。

あっという間に洗濯と乾燥を終わらせる。


「お待たせ!もう服着ても大丈夫だよ!」

「す、すごい…」


ティナの即席、乾燥機付き洗濯機魔法に驚くルーナ。

「ふふっ。驚いた?この魔法はね、ユイトさんに教えてもらったの!」


嬉しそうに説明するティナ。

そんなティナを見てルーナが尋ねる。


「ティナさんとユイトさんは夫婦なんですか?」

「そう見える?」

「はい」

「ふふ。嬉しい!でもね、違うの。…けど、私はいつかそうなりたい。

 夢なんだ。ユイトさんと家族になって、一緒に人生を歩んでいくのが。

 私は今すぐでもいいんだけどね。

 でもユイトさんって少し…んーーーかなり鈍いから大変なの。

 もう少し待ってみるけど、我慢できなくなって私から言っちゃうかも。

 結婚してほしいって。ふふふ」


無邪気な顔で嬉しそうに話すティナ。

ルーナはそんなティナを見て、何だかティナの温かさをより一層感じた。


するとそんな2人の元にも、カレーの匂いが漂ってきた。

「なんか良い匂い…」

「ユイトさん、カレーにしたんだ。

 じゃあルーナちゃん。ご飯の準備も出来たみたいだし、外に行こっか?」

「はい」


カレーの匂いにつられ、みんなが簡易宿から一斉に飛び出してくる。

そんな彼らの目に映ったのは、大きなテーブルといくつもの椅子。

そしてテーブルの上にきれいに並べられたお皿たち。


「…な、なんでテーブルと椅子があるんだ!?それに食器とスプーンまで…」


先ほどまで何もなかった場所に整えられた、なんとも立派なお食事空間。

そのまさかの光景にエルフたちは面食らう。


「おっ!みんな来たな。ちょうど準備出来たところだ。

 さぁ、みんな座って食べてくれ。

 俺とティナで考えたクレスティニアの名物料理、カレーライスだ!」


未知なる香りに吸い寄せられるように席に着き、皿に盛られたカレーを眺めるエルフたち。

近くに来て、より一層感じるその食欲をそそる香りに、数人のエルフがたまらずスプーンを手に取った。


「お前たち、ちょっと待て」

すると年長エルフが、そんなエルフたちを制止する。


「まだあなた方にきちんと礼を言えていなかった。

 食事の前に礼を言わせてくれ」

その声に、手に取ったスプーンをテーブルに置くエルフたち。


「この度は、我々の命を救ってもらい、

 そしてこのような施しまでしていただき、心より感謝する」

深々と頭を下げるエルフたち。


「いや、そんな気にしなくていいよ。

 奴らを追った先に偶然あんたたちがいただけだ。

 それに風呂も食事も俺たちが好きでやってるだけだからな。

 それより早く食べようぜ。ティナが待ちきれないって顔してるからさ」

「もうっ!ユイトさんっ!!」

「はははは」

ティナがかわいくほっぺを膨らます。


「そういえば自己紹介がまだだったな。

 俺はユイト。こっちがティナ。あそこにいるのがフェンリルのユキだ」

「…フェ、フェンリルっ!?本当なのかっ!?」

「あぁ」

ざわつくエルフたち。


「…済まない。少々驚いてしまった。

 では、次は我々の番だな。

 私はシアード。そして順にイサイア、ネイミス、クライトだ」

名前を呼ばれた順に頭を下げていくエルフたち。


「そしてその子は、」

「ルーナだろ?さっき教えてもらったよ。なっ?」

ちょっと照れくさそうに頷くルーナ。


「よし。じゃあ自己紹介も終わったし、早く食べようぜ!」

「あぁ、いただこう」

「それじゃあ、いただきまーす!!」


まずは、ティナが一口。

「うーーーん!おいしいーーーっ!!」


続いてエルフたち。

スプーンを手に取り、カレーを口へと運ぶ。


「…っ!?な、なんだこれはっ!!」

初めて食べるカレーの味に大きな衝撃を受けるエルフたち。


「うまい…めちゃくちゃうまい!駄目だ、手が止まらない」

夢中でカレーを頬張るエルフたち。


「どう?ルーナちゃん。おいしい?」

「うんっ!すごくおいしい!!こんなにおいしいもの、私、食べたことない!!」

「ふふ、良かった!」


ルーナが見せたとびきりの笑顔に、ティナとユイトからも笑みがこぼれる。


「まだまだたくさんあるからな。

 お代わりしたかったら遠慮なく言ってくれよ」


久々に巡り合えたまともな食事。

これまでの空腹を埋めるかのように、エルフたちはひたすら食べ続けた。


そして……


「た、食べ過ぎた……」

満腹となったシアードたちは、体をくの字にしながら簡易宿へと戻っていく。

(ま、あんだけ食べりゃね……)


その後、食事の片付けを済ませたユイトが、ティナとルーナが休む簡易宿の中へと入っていく。


「お疲れ様、ユイトさん!」

「ごめん、待たせたな。それじゃあ、いつものを出すか」

「???」


ユイトのセリフにキョトンとするルーナ。

その直後、何もない空間から現れたのは立派なベッドとふかふかお布団。


「…わっ!?」

その光景に思わず声を上げるルーナ。


「ふふ。びっくりしたでしょ?今のはユイトさんの魔法なの」

「魔法?……そういえば、ホットミルクの時も…」


「うん。ユイトさんはね、魔法で創り出した空間に物をしまってるの。

 ユイトさんの非常識魔法その1ね」

「おいおい、非常識って……」

「ふふふ」

そんなティナたちのやり取りにルーナも笑顔になる。


「じゃあ、ルーナちゃんは私のベッドで一緒に寝ようね!」

「はい!」


「…あっ、そうだ、ルーナちゃん。1つお願い。

 ベッドのことはシアードさんたちには内緒だよ?

 もしばれたら、1つのベッドにユイトさんと私とルーナちゃん、

 もう1つのベッドにシアードさんたち4人が寝ることになっちゃうかも

 知れないからね」


1つのベッドにシアードたち4人が寝ている姿を想像するルーナ。

「ぷっ」

ルーナが思わず吹き出した。


「うん、分かった!内緒にする」

「ありがと!」


期せずして訪れた安息。

その日、エルフたちは数年ぶりに穏やかな夜を過ごした。


そして翌朝。

そこには晴れやかな顔をしたエルフたちの姿があった。


「よーし。それじゃあ、行くかー!!」


故郷への帰還に胸躍らせるエルフたちとともに、ユイトとティナはエルフの国リシラをめざして出発した。

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