第166話
「…くそっ」
ティナの元へと急ぎ駆け寄るユイト。
「ごめんティナ。気付くのが遅れた。ティナの守り手だってのに…」
「ううん、気にしないで。私なら大丈夫だよ。
……ありがとねユイトさん、怒ってくれて。私すごく嬉しかった」
悔しさを滲ませるユイトにティナが優しく微笑みかける。
「ティナ……。ほんとごめん…」
血が流れるティナの腕に、ユイトがそっと手をかざす。
”治癒”
傷ついたティナの腕が見る見る癒えていく。
その様子をティナの横でじっと眺めるエルフの少女。
「すごい…」
「もう痛くないか?」
「うん、もう大丈夫。ありがと、ユイトさん!
……それにしてもユイトさんの本気ってやっぱり凄いね。
私なんてまだまだユイトさんの足元にも及ばない。
魔力で空間が歪むなんて私初めて見た」
「あーあれな。ティナの傷ついた姿見たら、つい頭に血が上っちゃってさ。
ごめん、少し加減を間違えた」
そう話すユイトのすぐ前には、ティナにしがみ付き、ティナの体に隠れるように立つエルフの少女。
「ごめんな。怖かったろ?でも、もう大丈夫だからな」
そう優しく声をかけると、ユイトは異空間よりミルクとコップを取り出し、ホットミルクを作って少女に差し出した。
「ほら。落ち着くし、あったまるぞ」
「……ありがとう…ございます」
突然現れた見ず知らずの人間族からの施しに、どうすればいいか分からないエルフの少女。
そんな少女の様子を見てティナが気を利かす。
「いいなぁ!私も飲みたいな!」
「分かった。じゃあ、ちょっと待ってろよ」
すぐに追加のホットミルクを作ってティナへと差し出すユイト。
「ありがと、ユイトさん!それじゃあ、いただきまーす!」
美味しそうにホットミルクを飲むティナ。
そんなティナの姿を、すぐ横でじっと見つめるエルフの少女。
「うーん!美味しいっ!
ねぇ、すっごく美味しいよ。飲んでみたら?」
戸惑うエルフの少女に笑顔で声をかけるティナ。
するとエルフの少女は小さく頷き、ホットミルクを口へと持っていく。
ゴクリ
「……美味しい」
「美味しいでしょ?
ユイトさんが作るホットミルクは絶品なんだから!ふふっ」
その後、ホットミルクを一気に飲み干すエルフの少女。
その様子を見たユイトは、お代わりを作って2人へと差し出す。
それからしばらくすると気を失っていたエルフたちが目を覚ます。
「…んっ、………はっ!?」
すぐに立ち上がりユイトたちを警戒する4人のエルフたち。
それと同時に辺りをきょろきょろと見回す。
おそらくレイドスたちを探しているのだろう。
「そんな警戒しなくても大丈夫だ。
俺たちはあんたたちを助けに来ただけだからな。
それに、あいつらなら逃げてったよ。もうここにはいない」
そんなユイトの言葉に驚きを隠せない4人のエルフたち。
「じゃあまずは、あんたらのそれを解除しないとな」
本当は初めて会うエルフに内心ドキドキのユイト。
だが、それを表に出せるような雰囲気でないことはさすがに分かる。
込み上げる嬉しさを抑えながら、ユイトは1人ずつ、心臓に巻き付いた瘴気の鎖を取り除いていく。
「……さてと、これで大丈夫だ。
もう、あいつの言うことをきく必要もないし、何を話しても大丈夫だ」
「本当…なのか…?」
「そりゃ、もちろん。あの子を見てみろよ。
さっきまであんなに苦しんでたけど、今はもう大丈夫だろ?」
「…では……私たちは……。
まさか…まさかこんな日が来るなんて……」
痩せこけボロボロになったエルフたち。
これまでどんな扱いを受けてきたのか想像に難くない。
そんな彼らに休む間も与えず尋ねるのは正直気が引ける。
だが、ようやく掴めるかもしれない奴らの素性。
悪いと思いつつもユイトはすぐにエルフたちに問いかけた。
「なぁ、あんたたち。
疲れてるとこ悪いんだけど、何があったのか教えてくれないか?
俺たちはさっきの奴らを追ってるんだ。
もし奴らについて何か知っていることがあったら教えて欲しい。
どんな些細なことだっていい。頼む」
そんなユイトの言葉にエルフたちが顔を見合わせる。
そしてお互いの考えを確かめ合ったかのように皆、同時に頷いた。
「分かった。あなたたちは人間族だが、命を救ってもらった恩がある。
私たちが知っていることを話そう」