第164話
ユイトたちがめざすルクペの森より、やや南にある鬱蒼とした森。
その森にある洞窟にて、1人の男の怒声が響き渡る。
「くそぉーーっ!なぜだっ!?なぜこうもうまくいかんっ!?
どれも私の計画は完璧だったはずだっ!一体なぜなのだっ!くそぉーーっ!!」
ガシャーン
手あたり次第、物を投げつけ荒れ狂う男。
「レイドス様。どうかお気をお鎮め下さい」
「気を鎮めろだとっ!?ふざけるなぁっ!!
そんなことできるわけないだろぉーーーーーっ!!!」
ガシャーン
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…。
まだ解放し切っておらん力で、出来る限りのことをやってきたのだ。
デモンドールを喚んだときなど、私は死ぬほどの苦痛を味わったのだぞ。
それをよくも、よくもぉーーーーーっ!!」
ガシャーン
その後もしばらくの間、荒れ狂い続けるレイドス。
そしてそれから15分ほどして、ようやくレイドスが落ち着きを取り戻す。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…。
…まぁ、いい。今となってはどうにもならん。
それにあの頃に比べたら、私の力も随分、解放されてきている。
…くっくっくっく。
あと少しだ。あと少しで私の力が完全に解放される。
そうすればこんな世界など、すぐにぶち壊してくれる。
私を認めなかった世界など存在する価値は無い。
こんな誤った世界など存在していいわけが無いのだ。
私はこの世界を終わらせ、新たな世界の唯一の王となる。
ふふ。ふはははははは!ふはははははははははははは!!」
狂気に満ちたレイドスの笑い声が洞窟内に響き渡る。
その頃…
「もうすぐ国境だな。
この前聞いた話だと、確か国境を越えたら未開拓の森があって、
その先にルクペの森があるんだったよな?」
「うん。確かそうだったと思うよ」
「で、そのルクペの森のどこかにエルフの国があるんだったよな?」
「うん、そうだね。でも、イーファ様も言ってたけど、
エルフの人たちって人間族とは交流してないんでしょ?
エルフの国に着けたとして、私たち、中に入れてもらえるのかな?」
「うーん……ま、何とかなるだろ。
なんたってこっちには天使様で、王女様で、女神様のティナがいるからな」
「えーっ!それだったらユイトさんだって神の使途様って言われてたよ!?」
「んっ?そうだっけ?」
「そうだよ!もう!」
「はははっ」
その後も順調に北上を続けるユイトとティナ。
そして2人がブレサリーツ王国国境を越え、未開拓の森に踏み入ってからしばらくが経った頃。
「…んっ?…こいつは」
ユイトの広域感知魔法が何かを捉えた。
「どうしたの?」
「見つけたっ!瘴気だっ!
北北東、かなり先だけどそこにかなり強い瘴気がある」
「じゃあ、そこにあの時の犯人がいるの!?」
「いや、そこまでは分かんないけど、確実に悪魔クラスの何かがいる。
急ぐぞっ!ティナ、ユキ」
「はい」
「ワオォン」
瘴気の反応を示した場所へと急行するユイトたち。
2人は出くわす獣たちを一瞬の内に斬り伏せ、鬱蒼とした森を突き進む。
そして、瘴気を示すポイントのすぐ近くまでやってきたところで、ユイトは一旦足を止めた。
「じゃあ、ここからは慎重に行くぞ」
辺りを警戒しつつ先へと進む。
そして数百メートルほど進んだところで、ユイトたちは1つの洞窟を視界に捉えた。
「あれ…洞窟だよね?」
「あぁ。おそらくあの中に何かがいる。気を引き締めて行くぞ」
「うん」
音を立てないよう慎重に洞窟内へと足を踏み入れるユイトたち。
そしてそのまま、洞窟の奥へ奥へと進んでいく。
ちょうどその頃。
洞窟奥にあるやや大きめの空間。
そこにはレイドスとその側近、そして囚われた数人のエルフたちの姿があった。
レイドスはまだ、ユイトたちの侵入に全く気付いていない。
「さぁエルフども。喜ぶがいい。
貴様らに新たな仕事を与えてやろう」
「………」
だがエルフたちからは、何の声も聞こえてこない。
「どうした?何を黙っている?
新たな世界の王となる私の役に立てるのだ。
嬉しいだろう?さぁ、喜べっ!!私に感謝しろっ!!」
狂気のレイドスを前にして、こみ上げる感情を押し殺し黙り込むエルフたち。
するとそんな中、1人のエルフが口を開いた。
「……嫌…もう嫌。許して…お願いだから、もう許して…。
私…こんなこと、もうしたくない……」
涙声で許しを請うエルフの少女。
「…嫌だと?この私の役に立つことが嫌だと言ったのか!?
私の命令が聞けないと言ったのかぁーーーっ!!」
レイドスの怒声が洞窟内に響き渡る。
「いいか?よく聞けエルフども。
貴様らは黙って私に従っていれば良いのだ。
私の言うことさえ聞いていればそれで良いのだっ!!
新たな世界の王となる私を畏れ、敬い、その役に立てることを喜ぶ。
貴様らはそのためだけに存在する。そうだろう?」
「…………」
「さっきから何を黙っている?答えんかぁーーーっ!!」
再び声を荒げるレイドス。
「……そうか、それが貴様らの答えか。ならば仕方あるまい。
私に従わぬ者など生きている価値はない。
まずは、私の命令を拒否した貴様だ。苦しみもがいて死ぬがいい」
直後、レイドスがエルフの少女に向けて禍々しい瘴気を飛ばす。
その瘴気がトリガーとなり、エルフの少女の心臓に巻き付いた瘴気の鎖が収縮し始める。
「きゃあぁぁ、う、うぅ……。い、痛い…痛いよ…。
うぐっ、い、いやだ、死にたくない…助けて…、死にたくないよぉ…」
苦しむ少女を助けたいという気持ちを必死に抑え、目を閉じ唇を噛みしめる周りのエルフたち。
動けばただ屍が1つ増えるだけ。なにより、自分たちの力ではどうすることもできないことを彼らは十二分に理解していた。
「うぐっ…うぅ…、…あ、あぁ…きゃあぁぁぁーーーーーーっ!!!」




