第162話
無事、精霊たちとの契約も終わり、再びフェルミ―リアの棲み処へと戻ってきたユイトとティナ。
そこでティナはユイトに1つ相談を持ち掛けた。
「ねぇ、ユイトさん」
「んっ?どうした?」
「えっと…フェルミーリアさんの話だと、精霊のみんなに必要な魔力って
私が与えてるんでしょ?」
「まぁ、そうだな」
「それでね、私思ったの。
もし私が魔素が少ない場所にいたり、戦ってて余裕が無かったりしたら、
その時、みんなに魔力を届けれないんじゃないのかなって。
きっとこの先、そういうこともあると思うの。
もしそうなったら、私がみんなを苦しめちゃうことになる」
「うーん、確かに……」
「そこでユイトさんに相談なんだけど、ここにも魔素はあるって言ってたでしょ?
もしその魔素を魔力に変換できれば、精霊界のみんなも困らないよね?
だからね、"神秘の聖杯"の魔力版みたいなものって作れないのかなって」
「なるほど…。水の代わりに魔力が溢れ出す聖杯ってわけか。
中々面白いこと考えるな。確かにそれがあればいいかもな。
じゃあ出来るかどうか分かんないけど、とりあえず試してみるか…」
そう言うと早速、異空間から"神秘の聖杯"の素を取り出すユイト。
ユイトの腕が突然目の前から消えたかと思えば、今度は何もないところから腕とともにコップが出てくる。
その光景にギョッとするフェルミ―リア。
「ふふ。びっくりしましたか?
さすがにもう私は見慣れちゃったけど、
ユイトさんってほんと全てにおいて規格外なんです。
ちなみに今のは、ユイトさんが創り出した異空間から物を取り出したんですよ」
「えっ……異空間を自らお創りになられたのですかっ!?
……し、信じられません。それは最早、神の領域……」
やはりユイトの力は精霊たちにとっても非常識だったようだ。
驚くフェルミ―リアをよそに"神秘の聖杯"魔力版の製作に取り掛かるユイト。
イメージするのは魔素から魔力への変換過程。
「そう、俺は魔力変換器官。
魔力変換器官の気持ちになって考えてみると…」
ぶつぶつと独り言を言いながら作業を進めていくユイト。
だがさすがに難易度が高いのか、中々思うようなものが創れない。
その後、試行錯誤を繰り返すこと数時間。
すると突然、ユイトの声が響いた。
「よーし、やっと出来たぞっ!"神秘の聖杯"魔力版だ!!」
「ほんとにっ!?」
「あぁ、見てろよ……つってもティナには見えないか…。
じゃあ魔力に色でも付けるかな」
「えっ?そんなこともできるの?」
「あぁ。簡単だぞ」
「ユイトさん…もう何でもありだね……」
さぁ、準備は万端。
テーブルの中央に置かれた"神秘の聖杯"魔力版を、ティナとフェルミ―リアが注視する。
すると"神秘の聖杯"魔力版から、着色された魔力がモコモコモコモコと溢れ出る。
「凄いっ!これ魔力なのっ!?」
「あぁ」
「……し、信じられません。
まさか、このようなものを創造されるなど…」
目の前の非常識に驚愕するフェルミーリア。
そしてすぐさま真剣な表情でユイトに問いかける。
「…ユイト様。
貴方様は、もしかして神の使途様か何かなのでしょうか?」
「ちょっ……いやいやいや、まったく違うから。
俺の称号がちょっと特殊なだけなんだよ。多分」
「ですが…」
「まぁ俺のことはひとまず置いといて、
とりあえずこれで、ティナが魔力を供給できなくても、
精霊たちが苦しまずに済むようになったってことだよな」
「うんっ!ありがとう、ユイトさん!!」
ティナは満面の笑みで大喜び。
「……しかし、本当に信じられません。
ティナ様との精霊契約、精霊たちの進化、そして魔力を生み出す神秘の聖杯。
まるで夢を見ているかのようです」
「ははは。そんなこと言ったら俺たちだって。
ここに来たときは本気で夢なのかって思ったからな」
「ほんとにね!あの時は物語の中に入り込んじゃったのかなって思ったもん」
「そうですか。ふふふふ」
「…さてと。それじゃあティナ。
ひとまず聞きたいこと聞けたし、やることもやった。そろそろ戻るか?」
「うん、そうだね。結構時間経ってるしね。
”精霊の棲み処”を守ってる兵士さんも心配してるかもしれないもんね」
「確かにな」
「それじゃあフェルミ―リアさん。私たちそろそろ人間界に戻ろうと思います」
「分かりました。長い時間お引き止めしてしまい申し訳ございません。
それでは精霊石のところに向かいましょう」
フェルミ―リアの後について、精霊界へとやってきた場所まで移動する。
そして精霊石の元までたどり着くと、急に何かを思い出したかのようにユイトがフェルミーリアへ駆け寄り小声で話しかけた。
「フェルミ―リアさん。精霊石って少しもらえないかな」
「精霊石ですか?小さなものでしたらすぐにお渡しできますが」
「小さいやつでいいんだ」
「小さなものでは、精霊界と人族の世界を行き来することは出来ませんが
それでもよろしいでしょうか?」
「あぁ、構わない」
「分かりました。それではこちらをお持ちください」
「ありがとう、フェルミーリアさん!」
ユイトはフェルミーリアから精霊石を受け取ると、すぐさま異空間へと収納。
「ごめん、ティナ、ユキ。待たせたな」
「ううん、大丈夫。フェルミーリアさんと何話してたの?」
「いや、ちょっとな。また今度話すよ」
「えー気になる!」
「いや、すぐまた話すからさ。少しだけ待っててくれ」
「うーーー、分かった。じゃあ我慢する」
そう言って、ティナはほっぺをぷくっと膨らます。
「それじゃあフェルミ―リアさん。ありがとな」
「フェルミ―リアさん。どうもありがとうございました」
「ワオォン」
「こちらこそどうもありがとうございました。
ティナ様、ユイト様、神獣様。またいつでも精霊界へお越しください。
そして、もしお困りの際はいつでも私共をお呼びください。
それではまた皆様にお会いできる日を楽しみにしております」
「はい」
フェルミーリアが見守る中、ティナが精霊石に手を伸ばす。
そしてティナの指先が精霊石に触れると、ティナたちは再び光に包まれ、気付くとそこは”精霊の棲み処”の精霊石の前だった。




