第158話
翌朝。
イーファから”精霊の棲み処”に入るための許可証を受け取ったユイトとティナは、早速”精霊の棲み処”に向け王城を出発。
見知らぬブレサリーツの地を楽しみながら西へ西へと進んでいく。
そして王城を出発してから10日後。
2人は無事、”精霊の棲み処”があるレイシルの森入り口へと到着。
「ここまでは迷わずに来れたね」
「そうだな。案外、道もしっかりしてたしな。
よーし、じゃあどんどん行くぞ!」
「うん!」
先日立ち寄った村で聞いた情報をもとに、レイシルの森の奥へと進んでいくユイトとティナ。
鬱蒼とした森ではあるが、何度も人が通っているのだろう。
道らしきものができている。
そのおかげもあり、ここでも2人は迷うことなく”精霊の棲み処”へと到着。
「ここが”精霊の棲み処”か……」
鬱蒼とした森の中に突如現れた開けた空間。
”精霊の棲み処”を管理するため、人の手によって整備されたのだろう。
"精霊の棲み処"と思われる洞窟の入り口は、イーファが話していた通り固く閉ざされ、その前を兵士たちが守っている。
「へぇ。厳重に警備されてるな」
「うん、イーファ様の言ってた通りだね。
…それじゃあ、ユイトさん。取り敢えず行ってみよ!」
「そうだな」
わくわくしながら”精霊の棲み処”入り口へと向かっていくユイトとティナ。
するとそんな2人に、数人の兵士が槍を構え問いかける。
「おい、お前たち。一体ここに何の用だ?」
「あーちょっと、”精霊の棲み処”に入りたくてさ」
「ダメだダメだ。ここは、冒険者風情が入っていいところではない。
ほら、帰った帰った」
(ほぉ、しっかり仕事してるじゃん)
「まぁまぁ。俺たちちゃんとイーファさんから許可貰ってるからさ」
「イーファさん?どこのイーファさんか知らないがダメなものはダメだ」
どうやら完全にどこぞのイーファさんと勘違いしているようだ。
だが、一介の冒険者が一国の女王を”さん”付けで呼べばそうもなるだろう。
「おいおい。イーファさんって、イーファ女王陛下のことだぞ?」
「……えっ?」
「ほら。許可証もあるから確認してくれ」
何処からともなく現れた許可証を受け取る兵士たち。
すると彼らはすぐに受け取った許可証を確認し始めた。
「おい、確かに王家発行の許可証だぞ」
「本当だな。けど、なんで冒険者がこんなもん持ってるんだ?」
「まさか、どこかで盗んできたんじゃないだろうな?」
「その可能性もあるな」
わいわい盛り上がる兵士たち。
「…んっ?もう一通あるぞ」
「おい、それって女王陛下が公式文書を出すときに使うやつじゃないか?」
「本当か!?俺、そんな貴重な物、初めて触ったぞ」
ざわつく兵士たち。そしてすぐに中身を読み始める。
「なになに…、」
『この書状を持ち”精霊の棲み処”を訪れた方々は、
私、イーファ・ノートス・ブレサリーツの大変な恩人にあたります。
彼らは1年前、私の命を救い、この国の内乱をも収めてくださりました。
そしてティナ様は、クレスティニア王国の王女、
ティナ・レフィール・クレスティニア王女殿下にあらせられます。
決して失礼の無きよう、細心の注意を払い、
最大限の敬意をもって丁重にご案内しなさい。
ブレサリーツ王国女王 イーファ・ノートス・ブレサリーツ』
「………」
書状を持つ兵士の腕がプルプルと震える。
顔を見合わせ固まる兵士たち。
「ま、まずい…」
兵士たちは顔面蒼白、滝のような冷や汗が流れ落ちる。
ユイトとティナに槍を向け帰れと言った兵士は、壊れたロボットの様にカク、カクっとユイトたちの方に顔を向ける。
やばい、逃げたい…まさにそんな気分だろう。
そんな激しく動揺する兵士たちに向かい優しく微笑むティナ。
(か、かわいい…)
動揺も忘れ、ティナの可愛さに見惚れる兵士たち。
「…はっ!?違う!!」
次の瞬間、その場にいる全ての兵士たちが両手両膝を地につけた。
「ティナ王女殿下。大変申し訳ございませんでした。
何卒、何卒お許しください」
地面に頭をこすり付け、必死に謝罪する兵士たち。
そんな兵士たちに向かい、ティナが優しく声をかける。
「皆さん、大丈夫ですよ。顔を上げてください。私は何も気にしてませんから。
皆さんは、”精霊の棲み処”を守るという大切な職務を全うしたまでです。
気に病む必要などまったくありません」
(おぉ、いつもと違って何だか王女様っぽい。まぁ、王女様なんだけどね)
感心するユイト。
だが、兵士たちはなおも頭を下げ続ける。
「ほら。ティナも気にしてないって言ってるしさ。顔上げなよ。
イーファさんには、みんな頑張って仕事してたって伝えとくからさ」
そんなユイトの言葉にようやく頭を上げた兵士たち。
「それでは皆さん。
”精霊の棲み処”に入れていただけますか?」
「承知いたしました。すぐに扉を開けますので少々お待ちください」
すぐに兵士たちが立ち上がり慌ただしく動き出す。
そしてものの数分で、固く閉ざされた"精霊の棲み処"の入り口が開かれた。