第149話
援護に駆け付けた冒険者たちがクレスティニアを去ってから数日後。
イーファとラナは、瘴気を取り除かれたブレサリーツ兵とともにブレサリーツに向け王都フィーンを出発した。
その一行にはユイトとティナの姿もあった。
途中、ブレサリーツ侵攻時に破壊された町の修復を手伝うためティナだけ離脱。
ユイトはそのままイーファとともにブレサリーツへと向かった。
道中、いくつも目にするブレサリーツ兵が通ったであろう町や村。
その破壊された町や村の姿を目にするたび、イーファは激しく心を痛めた。
「……この償いは必ず」
それから数日後。
イーファたち一行はブレサリーツ王国 王都ロンドベルに到着。
王都に着くとイーファはすぐさま、ユイトから受け取った魔道具による王都一帯の調査を兵士たちに指示。
一斉にブレサリーツ王国内の大規模調査が始まった。
ユイトはというと、イーファとともにそのままブレサリーツ王国王城へと移動。
瘴気の影響を受けた者たちが、まだ王城に残っている可能性があるためだ。
仮にそうだとすれば最悪の事態になりかねない。
王城に着いたユイトは、すぐに瘴気を中和するための魔力を超広域展開。
残された不安の芽を完全に消し去った。
「…終わったのでしょうか?」
「あぁ、これでもう大丈夫。中に入っても問題ないよ」
「…そうですか。ありがとうございます」
その後イーファは、しばらくの間、無言で王城入り口を見つめ続けた。
ユイトとラナは、そんなイーファをただ静かに待った。
「……では、参りましょう」
覚悟を決めたイーファの後に続き、ユイトも城内へと入っていく。
(これは……)
まだ反乱の爪痕を色濃く残す王城内。
至る所にその痕跡が残されている。
その光景を前に、イーファの脳裏にあの時の惨劇の記憶が蘇る。
「………はぁ、はぁ」
呼吸が乱れ立ち止まるイーファ。その体はかすかに震える。
「イーファ様っ!?」
「……大丈夫よ、ラナ。……ごめんなさい…行きましょう」
その日からイーファは、王城を、王都を、そしてブレサリーツ王国を立て直すべく休むことなく動き回った。
まるであの時のことを思い出す時間を自らに与えないとするかのように。
その後も自身の辛さを一切表に出すことなく精力的に動き回るイーファ。
その姿を見てユイトは思った。
(…これが王族か……。強いな…)
その数日後。
瘴気の調査にあたっていた兵士より、”瘴気の反応あり”との情報が王城へと寄せられた。
すぐに現場へと急行するユイト。
「…あそこか」
多くの兵士たちが取り囲む建物。
ユイトは到着するとすぐにその建物の中へと入っていく。
(…悪魔にしては瘴気が弱い。洗脳された人たちか?)
奥へと繋がる通路を真っすぐ進む。そしてたどり着いた1つの部屋。
ユイトはすぐに部屋の扉の取手に手をかけた。
そして次の瞬間、ユイトは勢いよく扉を開けた。
バタンっ!
「………。…遅かったか」
ユイトの目に映ったのは誰もいない小さな部屋。
そこは既にもぬけの殻だった。
ユイトが感じた瘴気は、部屋にしつこくまとわりついた瘴気と部屋に残された例の笛から発せられたものだった。
「……まぁ、洗脳された人たちがいなかっただけでも良しとするか…」
その後も最優先で進められたブレサリーツ王国内の瘴気調査。
多くの兵士たちを動員し国の隅々まで調査するも、結局最後までこれといった情報は上がってこなかった。
そして……
ブレサリーツ王国 王城前。
「じゃあ、イーファさん、ラナさん。そろそろ行くよ。
もし、瘴気の反応があったらすぐに魔石を割ってくれ」
「はい、分かりました。
…それではユイト様。最後に改めてお礼を言わせてください。
ユイト様のおかげで、多くの兵士たちが救われました。
ユイト様のおかげで、この国の不安を取り除くことが出来ました。
本当に、本当に感謝いたします」
イーファとラナが頭を下げる。
「私は、あなた方から受けた恩を決して忘れません。
そして必ずや我が国を、”クレスティニアの良き隣人”と胸を張って
言えるような国にしてみせます。
ゼルマ陛下やティナ様にも、どうぞよろしくお伝えください」
「あぁ、ちゃんと伝えておくよ。
それじゃあ、イーファさん、ラナさん。
しばらくは大変だと思うけど頑張ってな!」
そう言い残し、ユイトはブレサリーツを後にした。
【後日譚】
その後もブレサリーツでは、イーファ指示のもと、急ピッチで国の立て直しが図られていった。
その甲斐あり、突然の謀反、突然の王の喪失に混乱していた国民たちも徐々に落ち着きを取り戻していく。
そしてユイトがブレサリーツを発ってから2カ月後。
本格的な立て直しに向けての下地ができたブレサリーツ王国では、イーファがハインツ王の後を継ぎ、ブレサリーツ王国女王へと即位した。