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第148話

クレスティニア勝利の報が世界へ伝えられる少し前、遅ればせながら”クレスティニア王女の帰還”が伝わった場所があった。

そこはサザントリムよりはるか北の村ナイチ。

辺境ということもあり、情報が伝わるのが都市部に比べかなり遅い。

この日、ナイチにもようやくその話が届くことになる。


ナイチの村に出来た小さな食堂。

そこはエギザエシム侵攻時、傷ついた村人たちを前に自分を責めるティナに、救いの言葉をかけたココの母親が営業する食堂だった。

その食堂で食事をしながら談笑するサザントリムギルド所属の冒険者たち。


「けど、まさかサザントリムの冒険者にクレスティニアの王女様がいたなんてな」

「あぁ、さすがにあれには驚いたぜ。王女様なんて雲の上の存在だもんな。

 でもさ、ひょっとしたら俺らも、知らないうちに王女様と

 すれ違ってたかもしんないぜ」

「確かにそうかもな。…あーあ、分かってたら声かけたんだけどな」

「ははは。お前、何て声かけんだよ?」

「えっ?そりゃあお前、『お友達になってください』とかか?」

「ぶはっ!」

思わず口に含んだ水を吹き出す冒険者。


「お前…何言ってんだよ、涙出てきた。

 まぁいいや。ところで王女様がいたのって何てパーティーだったっけ?」

「あぁ、えーっと確か”無名アンネームド”って名前じゃなかったっけ?」

「おーそうだそうだ。”無名アンネームド”のティナ王女だったな」


ガタンっ!!


勢いよく席を立つ1人の男。

冒険者たちのその話し声は、偶然、食堂で食事をしていたノックスの耳にも届いていた。


「あんたたちっ!!今の話、本当かっ!!?」

もの凄い圧と勢いで冒険者に話しかけるノックス。

その突然の問いかけに冒険者たちはかなり驚いた様子。


「あ、あぁ。クレスティニアの王女様のことだよな?

 サザントリムの”無名アンネームド”ってパーティーのティナって娘が、

 クレスティニアの王女様だったらしい」


「…まさか、ティナちゃんが……。

 あんたたちっ、ありがとう!ここは俺のおごりだ。

 好きなだけ飲み食いしていってくれ!」


すぐに食堂のカウンター奥へと駆けていくノックス。

その直後、ココの母 ネネの叫び声が店内に響き渡った。

「えぇぇーーーーーーーーーーっ!!!」


「な、何なんだ?一体……」

状況を飲み込めない冒険者たち。


その後ノックスはすぐさま食堂を飛び出し、休むことなく村中を駆け回った。

驚きの声で溢れ返るナイチの村。

村人たちは皆、仕事を止め、すぐに宴の準備に取り掛かった。


その日の夜、ナイチの村では住人たちはもとより、滞在する全ての人たちが参加しての大宴会が催された。


「それじゃあ、みんなーいくぞーっ!我らがティナちゃんにカンパーイっ!!」

「カンパーイっ!!」

我が事のように喜ぶ村人たち。ティナを祝福するその宴は、翌朝まで続いた。


ティナがクレスティニア王国の王女という話は、ティーナ、旧カタルカの町にも届いた。

その情報は瞬く間に拡散し、町は騒然となった。


そして…


領主の指示を受けた兵士たちが、1軒の民家へと向かった。

そう、彼らが向かった先はティナが生まれ、愛する両親とともに過ごした家。

両親亡き後、非情にも親戚と名乗る人間に奪われた家だった。


兵士たちは家に到着すると、家の周りを包囲。

そして数名の兵士がすぐに家の中へと突入した。


間もなくして、家から連れ出された1人の女。

遠く、クレスティニアから移住したオリビアとウェイン。

旧カタルカの町に彼らの親戚などいるはずもなかった。


「許してーっ。ちょっと魔が差しただけなのよっ。

 私はあの時の魔獣の襲撃で家を失ったのっ。

 私は被害者なのよぉ。ねぇ、許してーーーっ」


そう泣き叫ぶ女に兵士が言い放つ。


「お前が奪ったこの家は、クレスティニアのオリビア王女殿下のお住まいだ。

 お前が虐げ続けた少女は、オリビア王女殿下の御息女、

 クレスティニアのティナ王女殿下だ。


 私にこんなことを言う資格がないのは分かってる。

 だが、敢えて言わせてもらう。


 愛する両親を突然失ったティナ王女殿下の悲しみが、お前には分かるのか?

 愛する両親とともに過ごした思い出溢れる家を奪われた

 ティナ王女殿下の苦しみが、お前には分かるのかっ!?

 平気な顔してそれを実行し、なおも虐げ続けたお前は人の皮をかぶった悪魔だ。

 お前は決して許されない罪を犯した。おとなしく罪を償うんだな」


「あ、あぁ……」


「連れていけ」


兵士たちに連れていかれる女。

ティナの叔母と名乗ったこの女は、その後、残りの人生を犯罪奴隷として過ごすことが決定した。

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