第144話
「それで話を戻すと、さっき俺は悪魔が関わっていた可能性が高いと言いました。
じゃあなぜそう思ったのか。
それはザッテラ兵が"瘴気"を纏った笛を持ってたからです」
「”瘴気”を纏った笛?」
「そうです。”瘴気”っていうのは悪魔だけが持つ魔力みたいなものです。
ザッテラ兵が持っていた笛には、その”瘴気”が纏わりついていた」
「それはまことなのか!?」
「はい。
…けど、なんでザッテラ兵がそんな笛を持ってたのか。
俺は気になってザッテラとの戦いの後、ザッテラ連合国へと向かいました。
そこで俺は……」
あの日の出来事を順を追って話していくユイト。
皆、その話を前に見る見る表情が険しくなっていく。
そしてユイトが全てを話し終えた時…
「…そ、それでは今回反乱を起こした我が国の兵たちも、
何者かの指示に従わざるを得なかった…、
その可能性があるというのですかっ!?」
予想だにしないユイトの話に、激しく動揺するイーファ。
ユイトはそんなイーファの目を見つめると無言で頷いた。
「そんな……」
「俺は昨日、捕らえられているブレサリーツ兵のところに行ってきました。
かすか過ぎてすぐには分かりませんでしたが、
ブレサリーツ兵には確かに”瘴気”が纏わりついていた。
ただ、無理に従わされているというよりは洗脳に近い状態だったと思います」
「……そんな……一体何のためにそんなことを……」
衝撃の事実に呆然とするイーファ。
「………。それでユイト殿。
ブレサリーツの兵たちはどうしたのだ?」
「全員の”瘴気”を取り除いておきました。なのでもう心配はいりません。
ただ…昨日の時点でまだブレサリーツ兵に
”瘴気”が纏わりついていたということは…」
「…首謀者は生きている。そういうことですね?
メイリ―ルでは悪魔が消滅した後、”瘴気”は徐々に消えていきました。
ですが、昨日の時点でまだ”瘴気”が残っていたということは、
つまりはそういうことなのでしょう?」
「あぁ。ステラさんの言う通り、首謀者は生きているとみて間違いない」
「…そ、それではまた世界のどこかで
今回のようなことが起こる可能性があるというのか?」
「そうです」
「………」
その衝撃的な事実に会議室内が重苦しい空気に包まれる。
「けど、こっちもただ黙って待つつもりはありません。
ここからが、皆さんに集まってもらった一番の理由」
ユイトは1つの小さな魔道具をテーブルの上に置いた。
「ユイト殿、それは?」
「これは”瘴気”に反応する魔道具です。
”瘴気”に反応すると淡く光り、振動するように作りました」
そう言うとユイトは異次元収納からザッテラ兵が持っていた笛を取り出した。
異次元収納に対する皆の驚きも束の間、魔道具が光りブルブルと震え出す。
「これは、ザッテラ兵が魔獣を操る際に使用していた笛です。
この笛にはまだ僅かに”瘴気”が纏わりついている。
その”瘴気”を感知して、このように反応してるんです」
「なるほど……。ではこれがあれば”瘴気”を、ともすれば首謀者を
見つけられるということだな」
「そうです。仮に見つけれなかったとしても奴らのいる場所を絞り込める」
「ふむ。ひとまずは分かった。
……ところでユイト殿。今、一体どこからその笛を取り出したのだ?
何もない空間から、いきなり現れたように見えたぞ?」
そう質問を飛ばすのはロットベル王。
「あぁ、あれは俺の魔法です。
この世界とは異なる空間を創り出して、そこに荷物をしまってるんです」
「…な、なんだとっ!?一体何を言っておるのだ!?
この世界とは異なる空間だとっ!?、
そのようなこと神でもない限り到底不可能なことであろうっ!?」
そんなロットベル王とユイトのやり取りを眺めながら、ゼルマ王はあの時の言葉を思い出していた。
『実は俺は、この世界の人間じゃないんです』
「これがユイト殿の…」
ゼルマ王がぽつりとつぶやく。
「それで今見せたように、この魔道具は”瘴気”があれば反応します。
そこで皆さんにお願いしたいのは、この魔道具を使った調査。
これを使って皆さんの国を調査して欲しい。
事が起きる前に、少しでも早くその芽を潰したい」
「ふむ。ユイト殿の頼みは分かった。ぜひ協力しよう。
……いや、そうではないな。
こちらからお願いする。ぜひ協力させてくれ」
「もちろんです」
「それでユイト殿。
もし、その魔道具に反応があった場合はどうすればよいのだ?」
「その場合は決して手を出さず、この魔石を割ってください。
この魔石が割れると、魔石が割れたことが俺に伝わるようになっています。
そしたらすぐに駆け付けます。
この魔石も先ほどの魔道具と一緒に後ほどお渡しします」
「うむ。承知した。では私はレンチェストに戻る際、
バーヴァルドとドプラニッカにも寄るとしよう。
悪いがその魔道具と魔石を多めに準備してもらえるか?」
「分かりました。準備しておきます」
「よろしく頼む」
「…あと、イーファさん。
イーファさんがブレサリーツに戻るとき、俺も一緒について行きます。
ザッテラで聞いた話からすると、おそらくブレサリーツに奴らの拠点がある。
けど俺が一緒に行けばすぐに対処できる。それでいいですか?」
「はい、もちろんです。
本来は私からお願いしなければならないこと。
そう言っていただけると本当に助かります。
ユイト様。申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします」
「はい、任せてください。
……ではゼルマ陛下。俺からの話は以上です」
「うむ。感謝するぞ、ユイト殿。
其方がいなければ、我々は何も知らず、後手後手に回るところであった。
すまんが、これからもよろしく頼む」
こうして当面の方針も決まり、4カ国首脳が会した会議は無事終わりを迎えた。