第137話
クレスティニア王国王都フィーン近郊。
懸命に戦うティナの目の前で、次々と倒れていくクレスティニアの兵士たち。
「このままじゃ……どうすれば…どうすればいいの…」
その時だった。
”虎爆爪”
”風裂閃”
”烈火斬”
”火炎槍”
「ぐはぁぁぁーーーーーっ」
ティナの視界の斜め先。突如、激しく吹き飛ぶブレサリーツ兵。
「…えっ?」
振り向くと、そこには見覚えのある冒険者たちの姿。
”タイガーファング”、”天翔の風”、”烈火の剣”、そしてランクスまでも。
「どうして……」
「どうしてって、そんなん姐さんを助けに来たに決まってんだろ」
「そうよ、ティナちゃん。
今度は私たちがティナちゃんを助ける番。
私たちはこの日のために、これまで頑張ってきたの」
「みんな……」
我が身の危険を顧みず駆け付けてくれた仲間たち。
その姿にティナの目から涙が溢れ出る。
「行くぞぉーーーっ!みんなーーーっ!!」
「おぉぉーーーーーーーーっ!!!」
そこには、レンチェストとバーヴァルドの総勢108人の精鋭冒険者たち。
その戦力は1万の兵士にも匹敵。彼らは次々とブレサリーツ兵を打ち倒していく。
「…な、何なんだ、こいつらはっ!?」
圧倒的な力でブレサリーツ兵をねじ伏せていく冒険者たち。
その姿に戦慄を覚えるブレサリーツ兵。
一方、少し離れた場所で傷ついたクレスティニア兵を治癒魔法で癒すセフィー。
その背後からブレサリーツ兵が猛然と襲い掛かる。
その瞬間、セフィーは空いた右手をブレサリーツ兵へと向けた。そして…
”風矢”
さらに、
”暴風嵐”
凄まじい勢いで吹き飛ぶブレサリーツ兵たち。
そこにはビッグクロ―を前に怯えていたセフィーの姿はなかった。
さらにその数分後。
3万にもおよぶ兵が突如として戦地に出現。
指揮者と思われる女性の声が戦地に響き渡る。
「戦闘部隊はクレスティニア兵を援護しつつ、ブレサリーツ兵を押し返せっ。
支援部隊は、負傷者を救出。直ちに治療に当たれっ。
総員…行けぇーーーーーーっ!!」
「うぉぉぉーーーーーーーーーっ!!!」
ティナの視線の先には、メイリール王国女王ステラの姿。
ステラが真っすぐ、ティナの元へと歩み寄る。
「ステラさん……どうして……」
「ティナさん。話は後です。今はこの場を切り抜けましょう」
今にも泣き出しそうなティナは、ぎゅっと唇を嚙み締め頷いた。
突如戦地に現れた多くの精鋭冒険者と3万ものメイリール兵。
それはブレサリーツにとっては完全に誤算だった。
「な、何だ、この冒険者どもは!?
それにメイリ―ルからの援軍だと!?そんな話聞いてないぞっ!?」
動揺するブレサリーツ兵を冒険者とメイリール兵が一気に押し返していく。
そしてさらにそこへ、レンチェストの援軍3万2千が到着。
「くっ。撤退だっ!一時撤退だっ!急げぇーーーっ!」
想定外の連続に、たまらず撤退していくブレサリーツ兵。
それはまるで、押し寄せた波が一気に引いていくかのような一瞬の撤退劇だった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…。
俺たち…クレスティニアを守れたのか…?」
撤退していくブレサリーツ兵を見つめるクレスティニアの兵士たち。
それからしばらくの後、そんな彼らの目からブレサリーツ兵の姿が完全に消えてなくなった。
思いもよらぬ援護により、ひとまず危機を脱したクレスティニア。
その後、各国の兵士と冒険者たちは手分けして、傷つき倒れた多くのクレスティニア兵を救出。すぐさま彼らの治療に当たった。
一方、ブレサリーツ兵の撤退後、すぐにティナの元へと向かったユイト。
「…ユイトさん。みんなが助けに…」
「あぁ、分かってる。ほんとに助かった。
みんながいれば、おそらくここは大丈夫だと思う。
だからティナ、俺はこれから南に向かう。ここはティナに任せてもいいか?」
「…うん。ここは私が絶対に守る。
だからユイトさん…お願い。みんなを…みんなを守って」
悲痛な表情で懇願するティナ。
ユイトはそんなティナの頭を優しく撫でた。
「任せろ。じゃあ、行ってくる。ユキも頼んだぞ」
「ワオォン」
そしてユイトは、ザッテラ連合国が侵攻してきたクレスティニア南部へと向け、1人、王都フィーンを後にした。