第133話
これより、およそ2か月前。
そこはクレスティニア王国の南西に位置する5つの小国から成るザッテラ連合国。
その中央議事堂 会議室に集う、ザッテラ連合国を成す5つの小国の代表者とブレサリーツ王国からの使者。
ただならぬ雰囲気漂うその場所で、今まさに1つの閉ざされた会議が開かれようとしていた。
「まずはザッテラ連合国の皆さん。
本日はお集まりいただきありがとうございます。
おそらくは皆さん、何故私がここに来たのか、
さぞかし不思議に思っていることでしょう」
「………」
「ふっふっふ。そう身構えなくても大丈夫ですよ。
私はあなた方にとって、いい話を持ってきたのですよ」
「いい話?」
「そうです。あなた方が泣いて喜ぶような話ですよ」
「………」
「では早速、それが何なのか説明していきましょう。
まず、言葉を選ばずに言わせてもらうと、
ザッテラ連合国は単に小国が寄り集まっただけの何の取り柄もない国。
人はそこそこいるようですが、ただそれだけです。
領土の多くを森が占め、食料事情も経済事情も芳しくない。
さらにはブレサリーツやクレスティニアといった大国に挟まれ、
これ以上の発展もなかなか難しい」
「…くっ、言ってくれる。…だが、悔しいがその通りだ。
それで我々にとっていい話とは何なのだ?」
「ふっふっふ。
そう急がなくてもちゃんと話しますよ。
私はそのために来たのですから。
それでは具体的な話をするとしましょう。
まずはじめに…我々ブレサリーツ王国は、
これからクレスティニア王国へ攻め入り、彼の国を落とします」
「…なっ!?本気で言っているのかっ!?」
「当たり前です。冗談でこんなことを言うはずがないでしょう?
そこでザッテラ連合国の皆さん。
あなた方にはぜひ、その戦いに協力していただきたいのですよ。
ブレサリーツは北西から、そしてザッテラは南方より進撃。
さすれば、クレスティニアを瞬く間に落とせましょう」
「おい、一体あんたは何を言ってるんだっ!?」
「ふっふっふ。よく考えてみてください。
クレスティニアは肥沃で広大な土地をもつ国です。
クレスティニアを落とした暁には、ザッテラもその広大な土地が手に入る。
悪い話ではないでしょう?
しかもクレスティニアの主力部隊は王都のある北方に集中しています。
彼らは北方にて我らブレサリーツが引き付ける。
つまり、あなた方は手薄なクレスティニア南方を叩くだけ。
大した苦労もなく、あなた方が欲する土地が手に入るのですよ。
どうです?魅力的な話だと思いませんか?」
「話にならんな。そんなこと承諾できるわけがないだろう」
ザッテラ連合国代表の1人、ネストールが即座にブレサリーツ使者の提案を拒絶する。
「いや、ネストール、ちょっと待て。確かに魅力的な話ではある」
「…チェスター、お前、何を言っている?」
「まぁ、待てネストール。
…ブレサリーツの使者殿。まずは我々5国で話がしたい。少し時間をくれ」
「ふっふっふ。分かりました。いいでしょう。
それではあなた方の結論が出るまで、
私はゆっくりと休ませていただきましょうか」
「話し合いなど必要ない。話し合うまでもないっ!」
「そう言うな、ネストール。一度検討してみる価値はある」
「ニコラス、お前まで一体何を言ってるんだっ!」
「いいから、お前も来るんだ」
猛然と反対するネストールを引っ張り、別室へと移動していくザッテラ連合国の代表者たち。
そんな彼らに向け、ブレサリーツの使者が不敵な笑みを浮かべながら声をかける。
「そうそう。言い忘れてました。
あなた方がもし我々の提案を断ったら、クレスティニアと間違えて
ザッテラ連合国に進撃してしまうかもしれないことをお忘れなく」
「………」
別室へと移ったザッテラの代表者たち。
「駄目だ。奴は怪しすぎる。本当に奴はブレサリーツの使者なのか?」
「それは間違いない。ブレサリーツ国王の名代の証を所持していたからな」
「だとしても、クレスティニアが我らに何かしてきたわけではないだろう?
罪なき国に侵攻するなど人の道にもとる」
「ネストール。そうはいってもよく考えてみろ。
今のままではザッテラはジリ貧だ。これはそれを打開するチャンスだ」
「ニコラス…、お前…」
「確かにいい話かもしれんな。
話を聞く限りこちらのリスクは限りなく小さい」
「サディク、お前まで…。本気なのか!?」
「当たり前だ。
北方にあるクレスティニア王都をブレサリーツが西より攻めれば、
そちらに意識が集中する。
南方より我々が攻めてくるなど思いもしないだろう。
上手くいけば一気に決着がつく。
ネストールこそ、さっきの言葉聞こえただろう。
断れば我らまで標的になりかねん。
今のザッテラの力ではブレサリーツには対抗できん」
その後、1時間ほど話し合うも議論は平行線のまま。
結局、ブレサリーツの提案を呑むか呑まないかは、多数決により決定されることとなった。
その結果、賛成3、反対2。
この瞬間、ザッテラ連合国のクレスティニア侵攻が決定した。
「決まりだな。
ザッテラ連合国はブレサリーツとともにクレスティニアへと進軍する」
「くっ…。どうなっても知らんからな。我ら2国からは兵を出さん。
やりたければお前たち3国で勝手にやればいい」
「……なぁ」
ザッテラの代表者たちが議論するすぐ後ろで休んでいた、ザッテラお抱え冒険者パーティーの1人が口を開く。
「ネストールさんもモーリスさんも何でそんなに反対するんだ?
俺らの領土が増えるんだぜ。反対する理由なんて何もねぇだろ?」
「馬鹿を言うなっ。
我々さえ良ければ他がどうなってもいいという道理など、どこにもないだろう?
ましてや、罪なき国を襲うなど言語道断だ。
仮に相手が敵対国だったとしても、
万が一失敗すれば、苦しむのはこの国の人間たちだ」
「はっ。勝ちゃあいいんだよ、勝ちゃあよ。
それに万が一失敗しても、あんたらに被害が及ぶことはない。
なぜなら、俺たち”死神の大鎌”がいるからだ。
ザッテラみたいな小国の集まりが、なぜこれまで生き残ってこれたと思う?
それは他国にも名が轟く俺たちがいるからだ。
侵攻が失敗したとしても、あんたらの命は俺たちが保証してやるぜ。
だからあんたらは安心してショーを眺めてりゃいいんだよ」
(”死神の大鎌”、実力は確かだがいけ好かない奴らだ)
「ネストールもモーリスも聞いただろう。
”死神の大鎌”がいる限り、我らに危害が及ぶことはない。
安心して、我々ザッテラ連合国の意思を伝えに行こうではないか」
「………」
そして、ブレサリーツの使者が待つ会議室へと戻ってきたザッテラ連合国の代表者たち。
「待たせたな」
「何やら揉めていたようですが、結論は出ましたかな?」
「あぁ。我らザッテラ連合国は貴国とともに
クレスティニアに進撃することにした」
「ふっふっふ。そうですか。それが正しい判断です。
それでは、クレスティニアに進撃するまでに
あなた方に強力な味方を用意しておきましょう。
ふふふふふ、ふはははははっ!ふははははははははははっ!!」