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第132話

「ティナ、俺たちも戻るか」

「…うん」


先ほど見たイーファの姿が頭から離れない。

ユイトとティナは応接室を出た後、無言のまま部屋へと向かった。


ガチャ

「ただいま、ユキ」


部屋に入るとユイトはすぐにベッドに腰掛ける。

そして両手を組んだ手に顎をのせ、何やら難しい顔で思案し始めた。


「どうしたの?」

「…さっきの話……嫌な予感がする」


「…それって、ブレサリーツがクレスティニアに攻めてくるかもってこと?」

「もちろんそれもある。

 …けど、今言いたいのはそれじゃない。

 似てるんだ。あまりにもメイリ―ルの時と状況が似ている。

 突然現れた奴の意見が通るとか、突然人が変わってしまうとか…」


「…それってまさか」

「確証はない。可能性の話だ。

 けど、ずっとブレサリーツにいたイーファさんが感じた違和感。

 きっと裏に何かある。ティナも頭の片隅に入れておいてくれ」

「…うん、分かった」


ゼルマ王、ユイト、ティナ、各自それぞれの考えを巡らせながら夜が更けていく。


そして翌朝。


慌ただしく人が行き交うクレスティニア王城内。


ゼルマ王はイーファの話から、ブレサリーツが近いうちにクレスティニアに攻め入ってくる可能性が極めて高いと判断。

昨日の内に臣下たちを集め、今後に向けての指示を出していた。


ゼルマ王が出した指示は大きく2つ。


1つ目は、王都フィーンより西、ブレサリーツ寄りの町や村に住む全ての民たちを至急、王都まで避難させること。

2つ目は、ブレサリーツとの全国境線に最低限の兵を配備し、ブレサリーツの動きを常時監視。侵攻の動きを確認の後、すぐに王都フィーンまで帰還すること。


クレスティニアとブレサリーツの国境線はかなりの長さになる。

どこから攻めてくるとも分からぬブレサリーツ兵を全ての国境で待ち構えていては、どうしても兵が薄くなる。

局所から侵攻された場合、すぐに突破されてしまうだろう。


逆に、局所的に兵を集めては、それ以外の場所から攻め込まれると為す術がない。

さらにイーファの話からすると、ブレサリーツの兵力はクレスティニアのそれをはるかに上回ることが予想される。

それならば、クレスティニアの兵力を王都周辺に集め、敵との接触面を可能な限り小さくするべき。

ゼルマ王が出した指示は、そんな考えによるものだった。


残された時間は恐らく少ない。

すぐに民たちの避難、そしてブレサリーツを迎え撃つ準備が始められ、それは昼夜を問わず行われた。


街を行き交う兵士たち。

続々と王都に集まってくる避難民。

突然の出来事に王都フィーンの民たちは大いに戸惑う。

言い知れぬ不安がクレスティニア全体を包み込む。


そして、イーファがゼルマ王とまみえてから12日後。

ゼルマ王の予想は現実のものとなる。

ブレサリーツ王国はクレスティニア王国に対し宣戦布告。

それと同時に国境全面からクレスティニアに向け、侵攻を開始した。


ブレサリーツからの宣戦布告内容は以下の通り。


 ・我が国の罪人イーファ王女を匿ったこと。

 ・現クレスティニア王国王女の存在から、

  20年前の王女失踪の件は虚偽であり、我が国を謀ったこと。

 以上により、クレスティニア王国はブレサリーツ王国に敵対したものとみなす。


「………。

 …茶番だな」

宣戦布告の内容を聞いたゼルマ王は、ただ一言そう言った。


絶対に避けたかった未来。

そうならないよう、あの日からずっと祈り続けてきた。

ブレサリーツのクレスティニア侵攻の報を聞いた瞬間、イーファはその場に崩れ落ちた。


「…そんな……なんてことを……。

 私が…、私さえクレスティニアに来なければ……」

涙を流し呆然とするイーファ。


そんなイーファの元へゼルマ王が歩み寄る。

「イーファ殿。これはイーファ殿の責任ではない。

 イーファ殿が来なくとも、いずれはこうなっていたであろう」


「……何で…何でなの?何でこんなことに……」


そしてその数日後。


ブレサリーツ兵がついに王都フィーン近郊まで到達。

数百メートルの距離を隔て、クレスティニア兵とブレサリーツ兵が睨み合う。

王都を守るべく展開するクレスティニア兵およそ5万。

それに対するはブレサリーツ兵およそ10万、その数クレスティニア兵の約2倍。


この時、ユイトは悩んでいた。

どうしてもイーファの話が頭から離れない。


(これだけの人間が突然、人が変わるなんてあり得ない)

(もし悪魔が関わっているとするならば、彼らは元々は罪なき人間)

(エギザエシムの時とはわけが違う。ブレサリーツ兵を殲滅してもいいのか…)


その悩みがユイトの判断を鈍らせる。


結局、その考えに結論が出ぬまま、ついにブレサリーツとの戦いが始まった。

これが後に、”クレスティニアの奇跡”と呼ばれる戦いの幕開けだった。

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