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第123話

ゼルマ王の後に続き、王城内を進んでいく。

しばらくするとゼルマ王が足を止めた。


「この部屋だ。さぁ、中へ」

通されたのは立派な応接室。

「2人とも座ってくれ」


促されるまま椅子に腰を掛けるティナとユイト。

そして2人が席に着くとすぐ、ゼルマ王が話し始めた。


「ティナよ。其方が謁見の間に入ってきた瞬間、儂は自分の目を疑った。

 其方はオリビアと見間違えるほどに、オリビアとよく似ておる。

 あの瞬間、儂はオリビアが帰ってきたのかと本気でそう思った」


(そうか…だからみんな、あんなに驚いてたのか……)


「だがオリビアがこの国を去ったのは20年も前のことだ。

 オリビアであるはずがない。ただの他人の空似だと儂は自分に言い聞かせた。

 しかし、其方はオリビアの子だった。

 まさかオリビアの子に…儂の孫に会える日が来るとは夢にも思わなかった。

 神に感謝せねばなるまい。


 ……して、ティナよ。其方の父の名はウェインか?」


「はい。陛下は父のこともご存知なのですか?」

「あぁ、よく知っておる。それでウェインは元気か?」

「いえ…父も……」

目を伏せ、首を横に振るティナ。


「…そうか。すまぬ」

「いえ、大丈夫です」

ティナは気丈に笑ってみせる。


「………。

 …ティナよ。其方は儂の孫だ。儂の家族だ。其方は決して1人ではない。

 どうだ?これからは"陛下"ではなく、家族らしい呼び方にしてもらえぬか?」


ティナを気遣うゼルマ王。

そんなゼルマ王の想いにティナが応える。


「…では、"おじい様"とお呼びしても良ろしいでしょうか?」


「あぁ、もちろんだ。

 "おじい様"……まさか"おじい様"と呼ばれる日が来ようとはな。

 こんなに嬉しいことはない」

ゼルマ王はその喜びを噛みしめる。


「…さて、このままこの喜びに浸っていたいところではあるが、

 そろそろ話を始めるとしよう。

 其方も聞きたいことが山ほどあるであろうが、

 まずはなぜオリビアがこの国を出ていくことになったのか、その経緯を話そう。

 ティナよ。其方にはそれを知る権利がある」

「はい」


「して、ユイト殿。これから話す話はユイト殿には関係のない話だ。

 どこか別の部屋で寛いでいてもらっても構わぬぞ?」


そんなゼルマ王の言葉にティナがすかさず声を上げる。


「待ってください、おじい様。

 私はユイトさんにも聞いてもらいたい。ユイトさんは私を信じて、

 人に話したくないような辛い出来事を話してくれました。

 だから私も…ユイトさんには私のことを知ってもらいたい」


真剣な表情で訴えかけるティナ。

そんなティナの想いがゼルマ王にも伝わる。


「そうか…分かった。

 どうだ?ユイト殿。ユイト殿もともに聞いてくれるか?」

「はい。聞かせていただきます」

その言葉に頷くゼルマ王。


「では、始めるとしよう。これから話すことは随分と昔の話だ。

 今から20年ほど前、我が国は隣国ブレサリーツ王国と戦争をしておった。

 ブレサリーツ王国のことは知っておるか?」

「いいえ」

ティナが首を横に振る。


「そうか。ブレサリーツ王国とは、ここクレスティニアの北西に位置する大国だ。

 当時のブレサリーツ王国は不安定な国でな。

 長年、王の派閥と王弟の派閥に分かれ、内乱が続いておった。

 しかし我が国との戦争が始まる1年ほど前に、その内乱が終結。

 過激な思想を持つ王弟の派閥が勝利し、王弟が王位に就いた。

 そしてその1年後、ブレサリーツ王国は我が国に戦争を仕掛けてきた。


 ブレサリーツ王国が我が国に戦争を仕掛けてきた理由は2つある。

 1つ目の理由は、我が国の肥沃な土地を奪うことだった。

 長年続いた内乱により、ブレサリーツ王国内では極度の食料難が起こっていた。

 それを解消するため、我が国の土地を狙ったのだ。


 そして2つ目の理由。

 これがオリビアがクレスティニアを出ていくことになった直接的な原因だ。

 其方の母は…オリビアは民から愛される王女だった。

 そして親の儂から見ても、それは美しい娘だった。

 その美しさもあり、オリビアは美姫として隣国にもその名が知れ渡っていた」


「まさか…」


ティナのその言葉にゼルマ王は小さく頷く。

「そう。ブレサリーツ王国がクレスティニアに戦争を仕掛けた2つ目の理由。

 それはオリビアを奪うことだった」


「そんな…」

思いもよらぬ事実にティナは衝撃を受ける。


「戦争が始まってしばらくの間は、両国は拮抗状態にあった。

 しかし徐々に我が国は劣勢に立たされていった。

 その状況に”敗戦”という二文字が幾度となくちらついた。


 儂は悩んだ。

 もしオリビアが奪われれば、オリビアには不幸な未来しか待っていない。

 悩みに悩んだ末、儂はオリビアを他国へ逃がすことを決意した。

 そして表向きには、オリビアは外遊先に向かう途中、

 消息を絶ったということにした。


 だが、どこからブレサリーツ王国にオリビアのことが伝わるか分からない。

 そのため儂はオリビアを逃がす際、

 決してクレスティニアの王族であることを明かすなと強く命じた。

 オリビアが…其方の母がクレスティニアの王女であることを

 其方が知らなかったのはそのためだ」


「………」


「そしてオリビアがこの国を去る際、

 ともにこの国を出たのが、其方の父 ウェインだった。


 大人数で行動すれば、どうしても人の目に着く。

 そこで儂は、当時オリビアの専属護衛であったウェインに

 オリビアへの同行を命じた。


 オリビアは口には出さなかったが、

 オリビアとウェインはお互いを慕い合っておった。

 辛い思いをさせる我が娘に、せめて愛する者とともにという親心でもあった。


 その後、ブレサリーツ王国との戦争は10年にも及んだ。

 その長きに渡る戦争により、

 ブレサリーツ王国の過激派体制も徐々に疲弊していった。

 そしてそれをチャンスと見たのが、ブレサリーツ王国旧国王派だった。

 旧国王派は、過激派体制が我々と戦争を続ける裏で、

 ひそかに力を蓄え続けていた。

 そしてチャンスと見るや過激派体制を一気に打倒した。


 それが今から10年前だ。

 それにより、長きに及んだブレサリーツ王国との戦争に終止符が打たれた。

 その後、再び国王の座に就いたハインツ王は全面的に我が国に謝罪。

 善王であるハインツ王は、ブレサリーツ王国を立て直し、

 今では我が国とも良好な関係を築いておる。


 これが、其方の母オリビアがこの国を出ていくことになった経緯、

 そしてその後の結末だ」

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