第122話
開かれた扉から入ってきたのは、2人の冒険者と1頭のフェンリル。
その瞬間、ゼルマ王は立ち上がり、トルニーア宰相は驚きの声を上げた。
「…なっ!?陛下っ!」
「…あぁ、分かっておる。儂も驚いた…」
その後、再び玉座に腰を下ろしたゼルマ王。
ユイトとティナはそんなゼルマ王の元へ緊張しつつ足を進める。
そしてゼルマ王の御前までやってくると2人は片膝をつき、ユキは静かにその場に座り込んだ。
謁見の間の厳かな雰囲気にのまれ表情の硬いユイトとティナ。
そんなユイトたちに向け、すぐにゼルマ王が話し出す。
「わざわざすまぬな。
私はクレスティニア王国の国王 ゼルマ・レフィール・クレスティニアだ。
其方らに来てもらったのは他でもない。
我が国の民を救ってもらった礼を直接言いたくてな。
して其方ら、名はなんという?」
「俺はユイトといいます」
「私はティナと申します」
「そうか。ではユイト殿、ティナ殿。
この度はモーミカの民たちを救ってもらい、本当に感謝している。
臣下からは非常に大きな落石事故だったと聞いている。
だが其方らのおかげで、誰一人命を落とさずに済んだ。
家族を失い悲しむ者も1人もいない。こんなに喜ばしいことはない。
クレスティニアの王として心から礼を言う」
ゼルマ王がユイトとティナに向け、感謝の言葉を口にする。
「陛下。俺たちはただ、みんなを手伝っただけです」
「そうです。私たちが村に着いた時には、
既に兵士の皆さんが懸命に救助活動をしていました。
兵士の皆さんが頑張ったからこそ、村のみんなを救えたんです」
自分たちの力だけで救えたわけじゃない。
まるでそう言うかのようなユイトとティナ。
「………。其方らは、出来た人間だな。
しかし、其方らが尽力してくれたことは事実。
其方らがいなければ多くの命が失われていたこともまた事実だ。
其方らには何か褒美を…」
と、その時、ティナの胸元で光るペンダントがゼルマ王の目に映った。
「…ま、まさか……」
急に立ち上がるゼルマ王。
そしてゼルマ王は、そのままティナの方に向かって歩き出した。
突然のゼルマ王の行動に何事かと戸惑うユイトとティナ。
「陛下?」
トルニーア宰相も思わず声をあげる。
真っすぐティナの元へと向かったゼルマ王がティナの前に立つ。
「……其方の身に着けているペンダント。
…其方…それを一体どこで手に入れたのだ?」
「これ…でしょうか?これは、亡くなった母の形見です」
「……形見。
…………」
しばし押し黙るゼルマ王。
その後、ゼルマ王が再びティナに問いかける。
「……其方の…其方の母の名を聞かせてもらえるか?」
「はい。私の母の名は…"オリビア"です」
その瞬間、ゼルマ王とトルニーア宰相に衝撃が走った。
ゼルマ王の目から涙が流れる。
そしてゼルマ王は、その涙が溢れる目に左手を押し当てた。
「おぉ、おぉぉ…。
まさか…まさかこんなことが……」
何が起こったのか全く理解できないユイトとティナ。
「……オリビア。お前がここまで導いてくれたのか…?」
涙を流しながらティナの母の名を口にするゼルマ王。
ティナはそんなゼルマ王に問いかけた。
「陛下は…陛下は私の母をご存知なのですかっ!?」
ティナからの問いかけ。
その問いかけにゼルマ王は涙を拭う。
そしてティナに向き合い、真っすぐティナを見つめ話し出した。
「其方が身に着けているペンダント。
それはクレスティニア王家で代々受け継がれてきたもの。
儂の妻が亡くなった時、儂はそのペンダントを娘に託した。
其方の母は…オリビアは、クレスティニア王国の王女。儂の娘だ」
「えっ…?」
ゼルマ王の衝撃的な言葉に、頭の中が真っ白になるティナ。
「お母さんが……クレスティニア王国の王女……?」
「そうだ。そしてティナよ。儂は其方の祖父だ」
「…陛下が……私の…おじい様?」
「そうだ」
ゼルマ王が優しい笑みをティナへと向ける。
あまりの衝撃的な事実に、ティナとユイトの理解が追い付かない。
その状況を見てゼルマ王が声をかける。
「驚くのも無理はない。
オリビアは王族であることを隠して生きていただろうからな。
ここでは何だ。場所を移そう。そこで其方の母について詳しく話そう。
其方のこれまでについてもそこで聞かせてくれ」
「…はい」
「トルニーア。部屋の準備を頼む。
それとこのことを公にするのは、しばらくの間、待ってくれ」
「承知しました。陛下」
一足先に謁見の間を出ていくトルニーア宰相。
「すまんな、ユイト殿。内輪の話に巻き込んでしまって」
「い、いえ。とんでもない…」
驚きのあまり頭の中がぐちゃぐちゃのユイトは、気の利いた言葉を返せない。
「して、ティナよ。この城は其方の家でもある。自由に使うが良い」
「私の家…ですか?」
「そうだ。其方はオリビアの子であり、儂の孫だ。
クレスティニア王国の王位継承権を持つ、れっきとした我が国の王女だ。
遠慮することはない」
「…私が…クレスティニアの王女?
そんな…信じられない……」
クレスティニア王国王城 謁見の間に訪れる今日この時まで、夢にも思わなかったまさかの展開。
夢なのか現実なのかも良く分からない状態で、ティナとユイトはゼルマ王とともに謁見の間を後にした。