第12話
「ところでさ、魔石って何かに使えたりするのか?」
「魔石か?
そうだな…うーむ……我が知る限りだと、武具に使用できるぐらいか」
「武具?武具って、武器や防具のことか?」
「そうだ。なにやら魔石を素材にした武具は、魔法との親和性が高くなり、魔法効果を付加できるらしいぞ」
「まじかっ!?それ、魔法剣ってやつだろっ!?
すげぇ…まじでそんなんがあんのか……」
子供の頃、夢見た魔法剣。
いつか魔法剣士ユイトが誕生する日が来るかもしれない。
「とは言ってもだ。魔石の使い道としては、その程度だ。
まぁ、我が知らぬだけかもしれんがな」
「そっか……グレンドラが知らないってことはきっとそうなんだろうな。
うーん、こんなにあるのに、なんかもったいないな……」
光を放つ壁を見ながら、ユイトはしみじみそう思った。
「あっ、そうだそうだ。
そういえば、この森ってどれくらい広いんだ?
もし近くに町や村があるんだったら、行ってみたいんだけど」
「かっかっかっかっか」
ユイトの問いにグレンドラが笑い声をあげる。
「どうした?何か俺、おかしなことでも言ったか?」
「いや、そうではない。
この後のお主の反応を想像したら、笑いが込み上げてきたのだ」
「んっ?どういうことだ?」
「よいかユイトよ。心して聞くがよい。
この森はな、そこらの国よりはるかに広い。
そしてお主がいるこの場所こそ、この森の中心なのだ」
「……は?」
「つまり、お主がこの森から抜け出すためには、魔獣どもが跋扈する中、かなりの距離を移動する必要があるということだ」
「ま、まじかっ!?」
まさかの事実に、思わず叫ぶ。
「さらにだ。先ほど我は、魔獣には魔石があると言ったな?
では、その魔石は何が元になっていると言ったか覚えているか?」
「あぁ、魔素だろ?」
「その通りだ。ではその魔素が濃いのは何処だ?」
「そりゃあ、グレンドラがいるこの辺りだろ?」
「そう、その通りだ。
お主が今言ったように、この辺りの魔素濃度は極めて高い。
そしてその影響で、この辺りの生物は例外なく魔獣だ。
さらに魔獣は、魔素が濃ければ濃いほど強くなる。
つまりこの森では、我がいる森の中心に近いほど強力な魔獣が跋扈し、外側に行くほど弱くなる。
……ここまで言えば、もう分かったであろう。
ユイトよ。お主が今いるこの場所こそが、このハミルガルドで最も危険な場所なのだ」
(ふぅぅ。そうですか……そう来ましたか……)
(RPG開始したら、スタート地点がラスボス前でした的な。ふっふっふ……)
チーン
魂が抜けたようになるユイト。
呆然とした表情のまま、ピクリとも動かない。
「まぁ、そう悲観するでない。
ここらの魔獣より、お主が強くなればよいだけの話だ。
どれ。お主がこの森を出られるよう、我が修行をつけてやろう。
お主ほどの素質があれば、そう遠くない未来、この森を抜けられるはずだ」
(ここらの魔獣より強くなればいい、って……。は、ははは……)
(一体、何の冗談だよ……)
あまりの衝撃的な事実に打ちのめされるユイト。
だが、洞窟の中で一生を終えるなんてのはまっぴらごめんだ。
何で自分がこんな目に……と思いつつもユイトは覚悟を決めた。
「……分かった、グレンドラ。
俺は絶対にこの森を抜けてやるっ!!」
そして次の日から、グレンドラ指導のもと、ユイトの厳しい修業が始まった。
朝から晩まで休むことなく修行に励む。
それはひとえに、突如放り出された、この危険極まりない森を抜け出すため。
日々ユイトは、グレンドラから様々な知識を教わり、その全てを自らの力に変えていった。
その後も慢心することなく、努力を重ねるユイト。
修行の場も、はじめは洞窟の中、そして徐々に森の中へと変わっていく。
そしていつしかユイトは、魔獣とも渡り合えるようになっていた。
さらに時は流れ、ユイトが修行を開始してから3年がたったある日。
「……行くか…ユイトよ」
「……あぁ。そのために頑張ってきたからな」
「そうか……」
グレンドラが少し、寂しそうな表情を見せる。
「お主は見違えるほど強くなった。
もうこの辺りの魔獣ですら、全く相手にならんほどにな。
今のお主なら、我とも互角に戦えるであろうな。
どれ、一戦交えてみるか?」
「お前、何馬鹿なこと言ってんだよ。
そんなことしたら、この森吹き飛んじまうぞ?」
「ふっ…冗談だ」
「………。
なぁグレンドラ。今、俺が生きてるのは、全てお前のおかげだよ。
本当に感謝してる。
最初は何でこんな場所にって思った。
けど今はこの場所で良かったと心から思ってる。
グレンドラ、3年間本当にありがとな」
「うむ。困ったことがあれば、いつでも来るがよい」
「あぁ。じゃあ行ってくる」
笑顔でグレンドラに別れを告げたユイトは、洞窟の入り口へと向かい歩き出した。
洞窟の入り口へと向かう道。
道すがら、色々な想いが込み上げる。
幾度となく通ったその道を、一歩一歩、まるで記憶に刻むかのように歩いていく。
そして……
「ついに、ここまで来ちゃったな」
洞窟入り口の小さな穴から、薄暗い外の景色がかすかに見える。
洞窟の外に出たユイトは、背筋を伸ばす。
そして洞窟に向かって一礼。
「これまで本当にありがとな。また来るからな」
そしてユイトは、大きく息を吸い込んだ。
「よーし!じゃあ行くかーーーっ!!」
まだ見ぬ冒険、そして新たな出会いへの期待を胸に、ユイトは新たな一歩を踏み出した。