第117話
「おい、兄ちゃん。こんな凄ぇもん、一体どこで手に入れたんだっ!?」
興奮するゴダック。
「んっ?これか?
これはレンチェスト王国のサザントリムってとこで作ってもらったんだ」
「レンチェスト王国だとっ!?まじか……。
人間族にもこんな凄ぇ剣を打てる奴がいるのか……」
レンチェスト王国と聞いてゴダックは思いっきり勘違い。
「あー違う違う。
レンチェスト王国で作ってもらったけど、作ったのはドワーフだぞ」
「ドワーフ!?レンチェスト王国にドワーフの店があんのか!?」
「あぁ。ガンツさんっていうドワーフの店だ」
「はっ!?ガンツだとっ!?そのガンツって、
こうずんぐりむっくりして頑固そうな顔をしたガンツさんのことか!?」
(ぷっ。ずんぐりむっくりって…)
ずんぐりむっくりしたゴダックの口から出た言葉に、思わず吹き出しそうになるユイトとティナ。
「んーまぁ、そうだな。ずんぐりむっくりしたガンツさんだな。
ゴダックさんはガンツさんのことを知ってんのか?」
「当ったりめぇよ。
知ってるも何も、ガンツさんは俺の師匠だからな」
「はっ?師匠!?」
「あぁ、そうだぜ」
(これはなんと世界は狭いことか…)
「にしてもまさか師匠が打った剣だったとはな…。こりゃあたまげたぜ。
だが師匠が打った剣ならこの出来は納得だ。
……しかし、”斬魔”と”光与”っつったか?
まさか師匠が2本も名付けするとはな…」
「んっ?ガンツさんが名付けするのって、そんな珍しいのか?」
「当ったりめぇよ。
師匠と言えば、ドプラニッカにガンツあり、とまで言われた伝説の鍛冶職人だ。
そんな師匠が作ったもんの中でも、特に優れたもんにしか名付けはしねぇ。
名付けされるなんてのは、数え切れねぇ作品の中でもほんのごく僅かだ。
そんでもって名付けられたもんは、もれなくドプラニッカの国宝だ。
つまりだ。兄ちゃんと姉ちゃんは腰に国宝をぶら下げて歩いてるってこったな」
「…ま、まじか!?ガンツさんって、そんな凄い人だったのか……」
ユイトとティナは目を丸くして顔を見合わせる。
「…しかし、師匠…まさかレンチェスト王国にいたとはな」
「何だ?知らなかったのか?」
「おうよ。
師匠自身、ドプラニッカを出た時にはどこ行くか知らなかったと思うからな」
「???」
「これは何年も前のことだ。まだ師匠がドプラニッカにいた頃の話だ。
ある日、師匠の店に1人の人間族の姉ちゃんがやってきた。
どうやらその姉ちゃんも職人だったらしくてな。それで師匠と話がよく合った。
そして姉ちゃんが何回か師匠の店を訪れるうちに、
師匠はその姉ちゃんに惚れちまったってわけよ。
姉ちゃんはしばらくドプラニッカにいたが、この国の住人じゃねぇ。
当然ドプラニッカを離れる時がくるわな。
で、ついに姉ちゃんがドプラニッカを離れる時がやってきた。
今でもあの時の衝撃は忘れねぇ。
なんと師匠は、その姉ちゃんについて行っちまったって訳よ。
当然周りは止めたぜ。なんたって師匠はドプラニッカの宝だからな。
だが師匠は、その姉ちゃんと店をやるんだ、これからは
その姉ちゃんを幸せにするために槌をふるうんだ、っつって聞かなくてな。
なんつったかな、その姉ちゃん。確かエ、エ、エ…」
「エレンさん?」
「おぉ、そうだそうだ。確かエレンっつったな。
兄ちゃんと姉ちゃんがその名前を知ってるっつーことは…」
「あぁ。2人は結婚してサザントリムで幸せに暮らしてるぞ。
ガンツさんなんて”エレンは世界一綺麗だ”って、べた惚れだったぞ。
なぁティナ?」
「うん。本当に仲良さそうでしたよ。
……でもなんか素敵。地位も名誉も捨てて愛する人のために生きるなんて」
「あぁ。まさかガンツさんにそんな過去があったとはな。
エレンさんの尻に敷かれてるイメージしかないからな」
「師匠が尻に敷かれてるって?そりゃあ傑作だ。がっはっはっはっは!
まぁ何はともあれ、元気にしてんなら安心したぜ。
しかし、まさか師匠の話が出来るなんて夢にも思わなかったぜ。
師匠に会ったらよ、ゴダックがよろしく言ってたって伝えておいてくれ。
いつか遊びに行くからなってな」
「分かった。伝えておくよ」
「おぅ、頼んだぜ。じゃあな。また来いよ」
「あぁ。じゃあな」
ユイトとティナは”斬魔”と”光与”を鞘に納めると、ゴダックの店を出た。
「しかし、ガンツさんの弟子の店だったとはな」
「ほんと!凄いびっくりした……よ…ね?
………。…ねぇ、ユイトさん」
「どうした?」
「私たちって、ガンツさんの話をしにゴダックさんの店に来たんだっけ?」
「………」
再びゴダックの店の扉が開く。
「おぅ、どうした兄ちゃん?忘れもんか?」
「いや、どうしたも何も、
もともと俺たち、ゴダックさんに仕事の依頼をしに来たんだよ。
ガンツさんの話で盛り上がってすっかり忘れちゃったけどさ」
「おぉ、そういやぁそうだったな。
すまんすまん。俺もあまりの嬉しさに忘れちまってたぜ。
で、俺に依頼したいもんってのは何だ?」
「えーっとだな、作ってもらいたいものは全部で4種類。
1つ目は、コップより少し大きめの、そうだな…
拳大ぐらいの石が入るくらいの入れ物だな。
安定しておける形にして欲しい。あと、とにかく頑丈に作って欲しいんだ。
落としても叩いても割れないぐらい頑丈にな。まずは、それを100個」
「ひゃ、100個ぉ!?」
予想外の数に驚くゴダック。
「残りの3つは口で説明しても多分、分かんないんと思うんだよな…。
なぁ、何か書くもんってないか?」
「書くもんか…。ほらよ、これを使ってくれ」
ユイトはゴダックから紙とペンを受け取ると何やら絵を描き始めた。
相変わらず上手に絵を描くユイト。
そして絵を描き終えると、その絵を見せながらゴダックに説明し始めた。
「これは、ここがこうなってて、ここをこうするとこうなるんだ」
「ふむふむ。ほぉ。なるほどな」
ティナはその後ろからユイトの描いた絵を覗き込む。
「ねぇ、ユイトさん。それは何に使うものなの?」
「ふっふっふっ。それはだな…出来てからのお楽しみだ」
「えぇー気になる!教えてよー!」
「だーめ」
「もうっ!ユイトさんの意地悪っ!!」
ほっぺをぷくっと膨らませるティナ。
「まぁそんな怒んなって。ティナも絶対喜ぶと思うからさ」
「うーー分かった…。じゃあ完成するの楽しみに待ってる」
渋々諦めるティナ。
ちょっと悪いことをしたかなと思いつつも、使ったときのティナの喜ぶ顔が見てみたい。