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第115話

誰もが驚愕した決勝戦が終わってから1時間後。

激闘を演じた選手たちを称えるべく、表彰式が始まった。


壇上に立つ、決勝トーナメントに出場した8人の選手たち。

そんな彼ら1人1人に、バーヴァルド帝国皇帝ユークリッドⅢ世が、労いの言葉とともに賞金を手渡していく。


そしてその最後に、ユイトとティナの番がやってきた。


「Fランク冒険者ユイト。同じくFランク冒険者ティナ。

 其方たちの戦い、まことに見事であった。

 あれほどの戦い、私はこれまで見たことがない。

 想像しようにも想像すらできないくらい、

 まさに我々の理解を超えた、それ程の戦いであった。

 あれほどの素晴らしい試合には、もう二度と巡り合うことはないだろう。

 今回はよくぞ参加してくれた。心から礼を言う」


その言葉とともに、ユイトとティナにユークリッドⅢ世から賞金が手渡された。

その光景に会場からは、割れんばかりの拍手が沸き起こる。


「…ところで其方らは、レンチェスト所属の冒険者だったな。

 このまま、バーヴァルドに居を構えてはどうだ?」


ユークリッドⅢ世から2人にかけられた思わぬ声。

だが、2人の夢を叶える旅はまだ道半ば。

”はいそうですか”と言うわけにもいかない。


「陛下、大変ありがたいお言葉ですが、俺たちは世界を回る旅の途中です。

 今は一か所に留まるつもりはありません」


「…ふっ。そうであるか。残念だが仕方あるまい。

 ……して、ユイト殿。優勝者には、賞金の他にもう1つ褒美がある。

 私に叶えられることならば何でも良い。

 1つだけ願いを叶えてやろう。申してみよ」


その言葉に、ユイトはティナの方に顔を向けた。

するとティナは、ユイトの言いたいことをすぐに理解し無言で頷いた。


「……では、陛下」

再びユークリッドⅢ世の方を向いたユイトが話し出す。


「きっとこの国にも、ギルドに依頼を出したくても

 お金が無くて依頼を出せない、そんな人たちが大勢いると思います。

 今回の大会で俺とティナがもらった賞金、合わせて白金貨15枚。

 これをその依頼金に充ててください。それが俺の、俺たちの願いです」


先ほどもらったばかりの賞金をユークリッドⅢ世に差し出すユイトとティナ。

微塵も予想していなかったその願いに、さすがのユークリッドⅢ世も驚いた表情。


「……本当に、その願いでよいのか?」

「はい」


「…相分かった。

 このユークリッドⅢ世、しかと聞き入れた。

 責任をもって其方らの願い、叶えてみせよう」


この後、フィーラの終了宣言により表彰式も無事終了。

こうして、過去に例を見ない程の盛り上がりを見せた今年の大武闘大会が幕を閉じた。


今回、偶然にもユイトとティナが参加した大武闘大会。

この大会は、神々が参加した伝説の大武闘大会として、後世へと語り継がれることになる。


……そして数日後。


「んーーーっ、さてとっ!

 ゆっくり休んだし、依頼でも見に行くか!」

「うん!溜まってる依頼、少しでも減らさないとね!」


Fランク、Gランク依頼を消化するべく、ギルドへと向かったユイトとティナ。

ギルドに着くと2人は、すぐにクエスト掲示板へと移動する。

だが、そんな2人を待っていたのは、予想もしていなかったまさかの光景。


「…えっ!?」


ユイトとティナから言葉が漏れる。

なんと、つい先日までは山ほど貼ってあったFランク依頼、Gランク依頼がほとんど残っていない。


「…一体何があったんだ?」


すぐにカウンターへと向かったユイトとティナ。

すると…


「あーあれですね。びっくりですよね、あんなに溜まってたのに。

 実はあれ、ランクスさんのおかげなんです」


「ランクスさんの?」


「はい。そうです。

 『金を払ってまで依頼してるんだ。

  今この時も困ってるかもしんないだろ』

 そう言って、ランクスさんが率先してFランク、Gランク依頼を

 こなしていったんです。

 するとそんなランクスさんの背中を見て、周りの冒険者たちも

 Fランク、Gランク依頼をこなしてくれるようになって。

 それで今ではあの通りです」


「そっか…。そういうことだったんだな」


「良かったね!ユイトさん!」

「あぁ」

笑顔を向け合うユイトとティナ。


これで気がかりなこともなくなった。請ける依頼も特にない。

ついさっき来たばかりだが、すぐにギルドを後にするユイトたち。

と、ちょうどその時、偶然ランクスがギルドへとやってきた。


「…おっ、あんたらは」


「よぉ、数日ぶりだな。

 さっきギルドで聞いたぞ。

 Fランク、Gランク依頼を率先してこなしてるんだってな」


「まぁな。あの時あんたが思い出させてくれたからな。

 俺が冒険者になろうと思ったその理由をな。

 …ところであんたらは、まだしばらくこの国にいるのか?」


「いや。そろそろ次の国に行こうと思ってる」


「そうか…。

 今回俺は、あんたらに色々なことを学ばせてもらった。

 あんたらに出会わなかったら、俺は勘違いした冒険者のままだっただろう。

 あんたらは、俺に間違いを気付かせてくれた。

 世界は広いと教えてくれた。本当に感謝してる。


 次、会う時までには、冒険者としても人間としても、

 一回りも二回りも大きくなってみせる。

 少しでもあんたらに近付けるよう俺は全力を尽くす」

決意の表情を見せるランクス。


「あぁ。期待してる」


ユイトはそんなランクスに向け、拳を突き出した。

そしてランクスもまた腕を突き出し、突き出されたその拳に自身の拳を合わせた。


「じゃあ、またな」

最後にそう一言声をかけ、ユイトたちはその場を後にした。


……その日の夜。


「なぁ、ティナ。次向かう先だけどさ、

 バーヴァルドの北にあるドワーフの国にしたいんだけどいいかな?」

なにやらそわそわしながらユイトが尋ねる。


「ふふっ。ユイトさんドワーフとか獣人とか好きだもんね!」


「いや、好きって言うかさ、

 前も言ったけど俺が住んでた世界には人間しかいなかったんだ。

 だから一度行ってみたいんだよ。人間以外の種族の国にさ。

 ティナには付き合わせちゃうみたいで悪いけど…」


「ううん、そんなことないよ。私も楽しみだよ!

 だってガンツさんみたいな人がたくさんいるんでしょ?ふふっ」

そう言ってティナは笑ってみせた。


「良かった。そう言ってもらえると助かるよ。

 そんでもって、ドワーフの国の次はバーヴァルドの西に向かおう。

 ギルドの地図に載ってただろ?…えーっと確か…クレスティニアだっけ?」


「…クレスティニア」


「んっ?何だティナ、知ってるのか?」

「うん。名前だけだけどね。

 小さかった頃、お母さんがよく言ってたんだ。

 いつかクレスティニアに行こうって」


「…そっか。じゃあ、お母さんとじゃなくて悪いけど、

 代わりに俺がティナをクレスティニアに連れてくよ」

「うんっ!楽しみにしてるね!」


そしてこの3日後、次なる旅に向け、ユイトたちは帝都オルンを出発した。

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