第111話
「お疲れ様、ユイトさん!決勝進出だね!」
「あぁ、ありがとな」
「ところでユイトさん。
何でさっき、ランクスさんに回復魔法かけてあげなかったの?
かなり辛そうだったよ?」
「あぁ、あれな。何て言ったらいいんだ…。
えーっと、余韻がないって言うかさ。
観客の目からすると、それまで倒れてたのにいきなり元気に起き上がったら、
なんか嘘くさく見えるだろ?さっきの戦いは演技だったのか?ってな。
だから敢えて回復魔法をかけなかった」
「あーなるほど」
「でも奥の通路に入ってから、ちゃんと回復魔法かけておいたから安心してくれ」
「なーんだ。早く言ってよ、もう!心配しちゃったよ」
「ははっ。ごめんごめん」
その後も、たわいもない話をしながら時間をつぶすユイトとティナ。
そして気づくと、あと少しで第2試合が始まる時間になっていた。
「それじゃあ、ユイトさん。行ってくるね!
今日もさくっと終わらせて来るからね!」
足取り軽く闘技場へと向かうティナ。
「さくっと…。今日もまた、あの悲劇が繰り返されるのか…」
ゼラールに同情するユイト。
その数分後、大闘技場に準決勝第2試合開始のアナウンスが流れる。
「さぁ皆さん、お待たせしました!準決勝も第2試合。
これで決勝に進出する選手が決まります!
準決勝第2試合は、
Aランク冒険者ゼラール選手 vs Fランク冒険者ティナ選手。
ゼラール選手は2日前、Aランク冒険者ロラン選手を破っての準決勝進出。
対するティナ選手も、Aランク冒険者オーウェン選手を瞬殺しての準決勝進出。
はたしてどちらの選手が決勝に駒を進めるのでしょうか!
それではまもなく準決勝第2試合が始まります!」
闘技場の上。
試合開始の合図を待つティナにゼラールが話しかける。
「俺はオーウェンのような意味不明な行動はしない。あんたの勝機は0だ。
悪いが、決勝には俺が進ませてもらうぜ」
「ふふっ。やってみないと分かりませんよ」
そして…
「では皆さん、準備はよろしいでしょうか!行きますよー!
それでは、準決勝第2試合…はじめーーーっ!!」
試合開始の合図とともに槍を構えたゼラールがティナ目がけて猛然と突進。
見る見るティナとの距離が縮まっていく。
そして、ティナに接近したゼラールが地面に足をつこうとしたその瞬間、ティナは局所的に地面を凍らせた。
今日もまた、この上ない絶妙なタイミング。
もちろんゼラールはそのことに全く気が付かない。
何も知らないゼラールはそれまでの勢いそのままに、勢いよく地面を蹴り出そうと足に力を入れる。
そして見事に足を滑らせ、スーパー〇ンの様に両手を前に突き出し、宙を飛ぶ。
いつぞやも見た光景。既視感が半端ない。
しばしの滞空時間を経て不時着したゼラール。
不時着時、一瞬目を閉じたゼラールが再び目を開けると、そこには突き付けられた鋭い刃先。
「…ま、参った」
「…な、な、な、なんということでしょう!!!
一瞬です!まさに一瞬!
またしても一瞬でティナ選手がAランク冒険者ゼラール選手を破りましたっ!
一体これはどういうことなのでしょうかっ!?
2日前、オーウェン選手がとった謎の行動と全く同じ行動です!
突如ゼラール選手が宙を飛んだかと思うと、
剣を構えたティナ選手の足元へ滑るように進んでいきました!
全くもって意味が分かりませんっ!!
ゼラール選手は一体何がしたかったのでしょうかっ!?」
「ティナ…鬼だ……」
「あっという間の準決勝第2試合でしたが、
これでついに、ついに決勝戦に進む2人が決定しました!
決勝戦はFランク冒険者ユイト選手 vs Fランク冒険者ティナ選手!!
決勝戦に駒を進めたのは、なんとなんと2人のFランク冒険者!
しかし皆さんもその目で見てきたと思います。
Fランクと言えども侮ることなかれ。
予想の斜め上行く展開で勝ち進んできた2人。
きっと決勝戦でもあっと驚く試合を見せてくれることでしょう!
今から楽しみで仕方ありませんっ!!
決勝戦は2日後。また2日後に、ここでお会いしましょう!
それでは実況のフィーラでしたーーっ!!」
宣言通り、さくっと試合を終わらせ戻ってきたティナ。
「ただいま!ユイトさん!
今日もケガさせずに勝ってきたよ!」
「あ、あぁ…」
(恐るべし、ティナ…)
その翌日。
決勝を明日に控え、その日はのんびりと過ごすユイトたち。
昼食を終え、ユイトとユキはうたた寝中。
ということで、ティナは1人で帝都オルンの街の散策へ。
多くの店が立ち並び、多くの人で賑わう街。
店先に並ぶ様々な商品に目を奪われ、きょろきょろしながら歩くティナ。
すると、
ドスン
すれ違いざまにティナが誰かとぶつかった。
カランカラン
ぶつかった衝撃で外れたティナの腕輪がころころと転がる。
「あっ、ごめんなさい」
「いや、こちらこそすまない」
「…あっ、あなたは…」
なんとそこにいたのは、昨日ユイトと戦ったランクスだった。
「あんたは確か…ユイトと同じパーティーの……」
「はい、ティナです。もう体は大丈夫なんですか?」
「あぁ。おかげさまでな」
ランクスはそう言うと転がったティナの腕輪を拾おうと腰をかがめる。
「あっ、待ってっ!それに指を通しちゃ…」
ティナの言葉も間に合わず、腕輪の中に指を通すランクス。
その瞬間、ランクスは腰から地面へと崩れ落ちた。
「…な、なんだ!?力が抜ける…まったく力が入らない…」
そのまま身動きが取れなくなるランクス。
「ごめんなさい。その腕輪、力を抑える魔装具なんです。
腕輪の中に体の一部が入ると、力を抑え込んじゃうの」
身動きの取れなくなったランクスの手からすぐに腕輪を取り外すティナ。
その瞬間、先ほどまでの脱力感がまるで嘘のようにランクスに力が戻る。
「まじか……信じられねぇ……」
腕輪のとんでもない効果に驚愕するランクス。
そして同時に昨日のことを思い出す。
(昨日のユイト、確かあいつの両腕にも同じ腕輪が……)
その後ティナは外れた腕輪を左腕にはめると、ランクスにお礼を言いその場を立ち去った。
両腕に腕輪をしつつも平然とその場を立ち去るティナ。
ランクスは、その後ろ姿を眺めながらつぶやいた。
「……世界は広いな」




