第107話
大武闘大会が開幕した帝都オルンはお祭りムード一色。
もの凄い人、そしてもの凄い熱気だ。
「凄いな。まさに祭りって感じだな」
「うん!なんかワクワクしてきた!どんな出店があるのかな♪」
「…ワクワクって、そっちか?さすがティナだな」
「えーーっ!?ユイトさんは楽しみじゃないの!?」
「はは、ごめんごめん。俺も楽しみにしてる!」
「ふふ。でしょ?
じゃあ予選が終わったらいっぱい食べようね!」
そんな緊張感の欠片もない2人が予選会場へと向かっていく。
会場に近づくにつれ、どんどんと人が増えていく。
道に人が溢れ、思うように前に進めない。
そしてようやくたどり着いた予選会場。
そこは、参加者はもとより見物客も多く押し寄せ、もの凄いことになっていた。
「凄いね……」
「ほんとに……。
……じゃあとりあえず、受付だけ済ませておこう」
早めに会場には来たものの、参加者が1000人近くということもあり、受付もまた長蛇の列。
その最後尾へと並び、待つこと小一時間。ようやくユイトたちの番がやってきた。
まずは係の人が2人に簡単に説明。
どうやらここでは参加受付の他に、予選ブロックの抽選も行うようだ。
そして予選は7つのブロックに分かれていて、各ブロックで最後まで勝ち残った1人が、決勝トーナメントへ駒を進めるらしい。
ということで、受付を済ませた後、ユイトとティナがくじの入った箱の前に立つ。
なにやら真剣な表情の2人。その顔からは緊張すらうかがえる。
(どうかティナと違うブロックになりますように…)
(どうかユイトさんと違うブロックになりますように…)
そう祈りながら、2人はくじの入った箱に手を入れる。
そして箱から戻した2人の手には小さな紙。
2人はまず、その紙に書かれた文字を自ら確認。
まるで記憶に刻み込むかのようにそれをじっくりと眺める。
「……じゃあティナ、いいか?」
「うん」
「ふぅ……」
2人の鼓動が早くなる。
「せーの」
お互いの紙を同時に見せ合うユイトとティナ。
そして次の瞬間、2人の顔からは笑みがこぼれた。
「良かったぁー!予選でユイトさんと当たったらどうしようかと思ってた」
「俺もだよ。ほんと良かった!
このまま決勝まで当たんないといいな」
「うん!」
「……はぁ?決勝?こいつら何言ってんだ?んなもん無理に決まってんだろ」
「さっき、ちらっと見えたけどよ、こいつらFランクだぜ」
「Fランク?だったらなおさら意味分かんねぇぜ」
「ははは。この大会のこと何も分かっちゃねぇんだろ」
後ろに並ぶ参加者たちがユイトとティナを嘲笑う。
だが、そんな雑音はユイトたちには届かない。聞こえてはいるがどうでもいい。
代わりにユキが振り返ってひと睨み。
「…ひっ」
その後ユキは楽しそうに尾を振りながら、ユイトたちとともに選手待機場へと向かっていった。
待機場へと着いたユイトとティナは、隅の方で静かに待つ。
待ち始めてから結構時間がたつが、予選はまだ始まらない。
おそらくまだ受付が終わってないのだろう。
そして、ひたすら待つこと2時間。ようやく予選開始のアナウンス。
「大変長らくお待たせいたしました。
それでは参加者の皆さんは各会場へ移動をお願いします」
「ようやくだな」
「うん。じゃあ、ユイトさん。また後でね!」
「あぁ」
参加者たちはブロックごとに用意された試合会場へと一斉に移動。
各会場では参加者たちへの短いルール説明の後、すぐに試合が始まった。
各会場で繰り広げられる熱き戦い。
まだ予選とは言え、さすがはバーヴァルド帝国が誇る一大イベント。
どの試合も中々にレベルが高い。
隣国にも知れ渡っている大会ということもあり、各国から腕に覚えのある者たちが集まってきてるのだろう。
7日間かけて行われるこの予選。
7試合勝ち抜いた者だけが決勝トーナメントへと駒を進める。
日を追うごとに強者が厳選されていき、名の知れた強者でさえもどんどん脱落していった。
そして迎えた大会7日目 予選最終日。
この日、ついに決勝トーナメントへと進む7人の強者が決定した。
もちろんその中には、ユイトとティナも名を連ねていた。
次はいよいよ決勝トーナメント。
初日は準々決勝の4試合。対戦相手はその日まで分からない。
ユイトとティナは決勝まで当たらないことを祈りつつ、3日間のインターバルをのんびりと過ごした。
…そして3日後。
ついに迎えた決勝トーナメント 準々決勝当日。
「じゃあ行くか!」
「うん!」
「ワオォン!」
決勝トーナメントの会場は予選とは異なり、数万人の観客を収容できる帝都オルンの大闘技場。
会場に着いたユイトとティナは早速受付を済ませ、選手控室へと移動する。
ユキはというと、さすがに1人残していくわけにもいかないため特別に同行。
控室は選手ごとに用意されてはいたが、1人でいるのも何なのでティナはユイトの控室で待つことに。
仲良くトーナメント表を眺めるユイトとティナ。
「あーほんと良かったっ!!」
そう、幸運にもユイトとティナは別ブロック。
つまりユイトとティナが当たるとすれば決勝だ。
問題のランクスはというとユイトと同じブロック。
ランクスが準々決勝を勝ち上がれば、準決勝でユイトと当たることになる。
その後、ユキをモフりながら開会式の始まりを待つユイトとティナ。
しばらくすると2人がいる控室の扉が開く。
「それでは闘技場の方へご移動ください」
どうやら開会式が始まるようだ。
「じゃあ、ユキ。ちょっと行ってくるな」
「ワオォン!」
多くの観客が見守る中、闘技場へと上がったユイトとティナは、指示された場所にて全員が揃うのを静かに待つ。
そして大歓声とともに最後に登場したのは、大会3連覇中の絶対王者ランクス。
国の英雄が最後に登場するのも演出の1つなのだろう。
ゆっくりとした足取りで闘技場中央へと足を進めるランクス。
その姿はまさに威風堂々。
その途中、ユイトの方に顔を向けたランクス。
「まさか決勝トーナメントまで残るとは驚きだ。
まぁ、せいぜい頑張るんだな」
「………」
そしてランクスが指定の場所に着くと、すぐに開会式が始まった。
「さぁ皆さん、大変長らくお待たせいたしました!
今年もやってまいりました、大武闘大会決勝トーナメント!
司会進行、さらには実況を担当するのは、わたくしフィーラです。
どうぞよろしくお願いします!
さぁ、この決勝トーナメントでは”最強”の称号をかけて、
ここにいる8人の選手たちがトーナメント形式で戦います。
一体今年はどのような戦いが繰り広げられるのでしょうか!
今から楽しみでなりません!!
さて本大会ですが、優勝者にはなんと白金貨10枚、さらには、
皇帝陛下への頼み事を1つ許されるという破格の報酬が約束されています。
これは熱い戦いが繰り広げられること間違いありません!
今日から5日間に渡って行われるこの決勝トーナメント。
初日の今日は準々決勝の4試合、中1日置いて準決勝2試合、
そして最終日5日目に決勝が行われます。
さて、今年は一体誰が”最強”の二文字を手に入れるのでしょうか!!
さぁそれでは早速、決勝トーナメントに駒を進めた選手たちを
紹介していきたいと思います。
まず最初に紹介するのは皆さんもご存知、大会3連覇中の絶対王者、
バーヴァルド帝国が誇る孤高のSランク冒険者ランクス選手です。
本大会でも優勝候補筆頭の最注目選手です」
アナウンスに合わせ、会場に向けて手を上げるランクス。
その姿に会場全体から割れんばかりの歓声が沸き起こる。
「続きまして、見事、予選を勝ち抜いてきた7人の選手たちを
紹介していきたいと思います。
それではまず最初はルーカス選手。ルーカス選手はAランク冒険者。
剣士ということですが、本日はどのような剣裁きを見せてくれるのでしょうか!
続きまして、ロラン選手。ロラン選手もルーカス選手と同じAランク冒険者。
そしてロラン選手はなんとも珍しい短剣二刀使い、これは見ものですねー!
続きまして、ゼラール選手。なんとゼラール選手もまたAランク冒険者。
見ての通り、槍使いです。その鋭い槍で敵を一撃で仕留めます。
さぁどんどん行きます。
お次は、オーウェン選手。もう皆さんも予想していることでしょう。
そう、なんとオーウェン選手もまたまたAランク冒険者。
しかしこれはなんという豪華な顔ぶれでしょう!ワクワクが止まりません!
さてオーウェン選手ですが、剣をもはじく手甲を身に着け、
肉弾戦を仕掛ける戦闘スタイルとのこと。これは非常に楽しみです!
続きまして、アビー選手。アビー選手はBランク冒険者ながら、
魔法を駆使して予選を勝ち抜いてきました。
さて、今日は一体どのような魔法を見せてくれるのでしょうか!
お次はユイト選手。ユイト選手はなんと、なんとFランク冒険者!
強豪ひしめく中、まさかのFランク冒険者が決勝トーナメント進出です!
腰に携えた剣を見ますと、ユイト選手はどうやら剣士のようです。
一体どのようにしてここまで勝ち上がってきたのでしょうか!
不思議でなりません!
そして最後、本決勝トーナメントで唯一の女性選手、ティナ選手です。
なんという可愛さ、なんという可憐さでしょうか!まさに紅一点!
情報によりますと、ティナ選手も先ほどのユイト選手と同じくFランク冒険者。
しかもユイト選手と2人で”無名”というパーティーを組んでいる
レンチェストギルド所属の冒険者だそうです。
ティナ選手も、腰に携えた剣を見ますと、どうやら剣士のようです。
以上が、予選を勝ち上がってきた7人の選手のご紹介でした。
はたしてこの中に王者ランクス選手を止められる選手はいるのでしょうか!」