第105話
王都ステイリアは比較的バーヴァルド帝国に近かったこともあり、ユイトたちは1週間ほどで国境まで到着。
その後、バーヴァルド帝国内へと足を踏み入れ、さらに西へと進んでいく。
途中いくつかの町や村にも立ち寄り3週間。
ユイトたちはようやくバーヴァルド帝国の帝都 オルンの街に到着した。
「やっと着いたな」
「うん。凄い賑やかだね。それに凄い冒険者の数…」
「あー確か前にギルドマスターも言ってたもんな。
バーヴァルド帝国は冒険者が多いって。
けど、さすがにここまでとは思わなかったけどな。
……ま、いいや。とりあえず狩った獣を換金しに行こう」
「うん!」
向かう先はもちろん冒険者ギルド。
冒険者が集う街だからというのもあるのだろう。ギルドへの行き方を示した看板がそこら中に立っている。
もちろんユイトたちもその看板を頼りにギルドへと向かう。
そして30分ぐらい歩いたところで、2人の目の前に巨大な建物が現れた。
「…ここか。なんか…めちゃくちゃでかいな」
「うん、びっくり…」
ステイリアの冒険者ギルドの3倍はあろうかという建物。
2人は驚きのあまり、しばし足を止めてそれを眺める。
「……うん、突っ立ててもしょうがないな」
ということで、ユイトたちはひとまずギルドの中へ。
するとそこは、数多くの冒険者たちで溢れかえっていた。
「こいつは凄い…」
「うん。混んでるとは思ったけど、予想以上…」
あまりの混みようにユイトとティナは少々面食らう。
…が、すぐに目的の換金へ。
「…で、素材買取カウンターはどこにあるんだ?」
2人してきょろきょろとあたりを見回す。
「…あっ、ユイトさん、ほら、あそこ。あそこじゃない?」
ティナが右奥の方に向かって指をさす。
「あそこか。結構奥だな…」
大きなユキを連れての移動に少しだけ躊躇するも、人をかき分け奥へと進む。
そして素材買取カウンターの列に並ぶこと数十分、ようやくユイトたちの番がやってきた。
今や恒例となった解体場での素材渡し。
ありがたいことに、道中狩った獣のほとんどを買い取ってくれるとのこと。
時間はかかったものの査定も終わり、今後の軍資金を無事調達。
せっかくなので、ついでに受付のお姉さんに少し聞いてみた。
「俺たちレンチェストから来たんだけどさ、
バーヴァルドの冒険者ギルドって、いつもこんなに混んでんのか?」
「そうですね。
今日は特別混んでますけど、いつも混んでるといえば混んでますね。
オルンには色々な国から冒険者が集まってきますから。
冒険者のみなさんにとってオルンは立地が良いんです。
オルンの北にはドワーフの国ドプラニッカがあって、
質の良い武器や防具を手に入れやすいですし、
ちょっと行けば森や山なども多くあるので、獣狩りにもうってつけなんです」
「…ド、ドワーフの国っ!?」
「えぇ、そうですよ」
ユイトの目がキラキラと輝く。
「それにもうすぐ、年に一度のお祭りが開かれますからね。
皆さん、それに参加するためにオルンに集まってきてるんです」
「お祭り?祭りがあんのか?」
「はい。お祭りと言っても一番の戦士を決める大武闘大会なんですけどね。
今やバーヴァルド帝国でもっとも有名で、もっとも人気のあるお祭りなんです。
それはもう、もの凄い盛り上がりようで」
「へぇ」
「参加者も凄くて、冒険者や腕に覚えのある人たちが
1000人近くも参加するんです」
「…せ、1000人も!?」
「はい。でも凄いのは参加者の数だけじゃないんです。
優勝賞金もとんでもないんですよ。
なんと優勝者は白金貨10枚、準優勝者でも白金貨が5枚も貰えるんです。
はぁ…なんて羨ましい……」
ついつい本音が漏れるお姉さん。
「…あっ、すみません。
今のは私の心の声なわけで、冒険者の皆さんは、
賞金なんかよりも名誉が欲しいのかもしれませんけどね」
「なるほど。なんだか面白そうだな」
「どうです?良かったら参加してみてはいかがですか?
誰でも参加できますし、参加登録はギルドでもできますよ?」
「そうだな…。ちょっと考えてみるよ」
「…あっ、そうそう。
念のためお伝えしておきますが、参加しても優勝は難しいと思いますよ。
何といっても現在大会3連覇中の絶対王者ランクスさんが
今年も参加されますからね」
「ランクス?冒険者か何かか?」
「はい。当ギルドが誇る孤高のSランク冒険者ランクスさんです。
パーティーも組まずに、ソロでSランクまで上り詰めた凄い人なんです」
「へぇ、ソロでSランクか…。そりゃ凄いな。
……まぁ、とりあえず色々分かったよ。助かった」
「いえいえ。分からないことがありましたら、またお尋ねください。
…ちなみに、お2人はご夫婦なんですか?同じ腕輪をしていますし」
「いや、」
「そう見えますかっ!!」
ユイトが話し出すと同時に、ティナが身を乗り出して聞き返す。
「はい。とてもお似合いですよ」
ティナの顔がぱぁっと明るくなる。
その瞬間、ユイトはあの時の言葉を思い出す。
『…私はいいよ。勘違いされても』
なんだか急に顔が熱くなる。
「どうしたの?ユイトさん。顔が真っ赤だよ」
「えっ?いや、な、何でもない。
行こう、ティナ、ユキ」
ユイトは照れを隠すかのように、急いで素材買取カウンターを後にした。