第104話
グレンドラの元を出発してから数日後、ユイトたちは王都ステイリアへと帰還。
その足で冒険者ギルドへ行ってみると、そこにはユリウスの帰りを待つ"烈火の剣"のメンバーたちの姿があった。
どうやら彼らはユリウスが心配で居ても立っても居られず、毎日ギルドへと足を運んでいたようだ。
だがそんな彼らの目に映ったのは、激しく疲弊しヘロヘロになったユリウスの姿。
「おいっ、ユリウスっ!大丈夫かっ!?」
「お前がそんなになるなんて、終末の森ってのはそこまでやばいのか?」
すぐにユリウスに駆け寄るアイクたち。
「あぁ…常識ではとても考えられない……」
ごくり
アイクたちが息を吞む。
「それ程までに速いんだ。尋常ではない速さだった…」
「…速い?お前…何言ってんだ?」
ぽんこつユリウス再び。
不思議な顔をするみんなに事情を説明し、ユリウスが落ち着くまでしばしの休憩。
そしてユリウスが平常運転に戻ったところで報告を再開した。
「で、ユリウス。どうだったんだ?」
「あぁ、無事魔石は入手できた。それもこの上ないほどの最高のものをな。
見てみろ。この通りだ」
ごろっ、ごろっ、ごろっ、ごろろっ
入手した大量の魔石をテーブルの上に並べるユリウス。
「な、何だよ、この大きさっ!?しかもなんて量だっ!?」
目の前に置かれた大量の魔石に興奮する”烈火の剣”のメンバーたち。
「…おいっ、お前ら。そんなことよりも聞いてくれっ!!
俺は今回の旅を通じて、自分の視野がいかに狭かったのか、
自分がこれまでいかに狭い世界で生きてきたのかを思い知った」
魔石を前に興奮するアイクたちに向け、ユリウスが突然語り始めた。
何やらスイッチが入ったようだ。
もの凄い勢いで語り続けるユリウス。一向に話が終わる気配がない。
「……。ティナ…また明日来ようか?」
「そ、そうだね…」
そして翌日。
再びギルドを訪れたユイトとティナ。
会議室に入ってみると、なんとそこには熱く語るユリウスの姿が。
そしてそんなユリウスの前には、今にも倒れそうな”烈火の剣”のメンバーたち。
「…ま、まさか…あれからずっとしゃべってんのか!?」
初めてユリウスに恐怖を感じた瞬間だった。
「ユリウスさん」
声をかけてみるも反応がない。
「おいっ、ユリウスさんっ!!」
「…はっ!?これはユイト様。ティナ様。
すみません。まったく気が付きませんでした。
今回の旅で私が感じた感動と興奮をみんなに伝えていたところです。
少しだけ長くなってしまいました」
(いやいやいやいや、少しだけってレベルじゃないよね、これ…)
「ところで、ユイト様、ティナ様。
今回の魔石の件、そして何よりエギザエシムからこの国を守っていただいた件、
ぜひともロットベル陛下に会っていただきたいのですが…」
ユリウスが切り出したのは、レンチェスト王国 国王ロットベルとの面会。
確かにユイトたちはそれだけのことをした。しかし…
「王様か……うーん…悪いけど、それは遠慮しとくよ」
「な、なぜです?
きっとロットベル陛下もユイト様やティナ様にはお礼を言いたいはずです」
「いや、俺たちが王都に寄ったのは、
ユリウスさんたちにお礼をしたかっただけだからな。
それももう果たせた。俺たちはそれで十分だ。
だから魔石とかそこら辺の手柄は、ユリウスさんたちのものにしといてくれよ」
「そ、それは…」
「まぁ、そんな気にすんなよ。
それに俺たちはあと数日で王都を離れる予定だしな」
「…もう、行ってしまわれるのですか?」
「あぁ。今日はそのことを伝えに来たんだ」
「そうですか…。残念ですが仕方ありませんね。
世界にはユイト様やティナ様を待っている人がたくさんいることでしょう。
我々はここから、ユイト様、ティナ様のご活躍を願っております」
「あぁ、ありがとな。また王都に来ることがあったら、そん時はよろしくな」
「それでは、ユリウスさん。みなさん。これからも頑張ってくださいね」
「ワオォン」
それから数日は、王都をめぐって食材や日用品をたんまり補充。
そして買い出しも一段落したある日のこと。
宿でユイトが何やらせっせと作っている。
「ユイトさん、何作ってるの?」
「これか?ちょっと面白いこと思いついてさ」
「面白いこと?」
「あぁ。俺もティナも、修行するときに結構気を遣うだろ?
周りの物を壊さないようにってさ。
修行できる場所も限られるし、かといって手抜いてたら修行になんないし。
だから力を抑えるような魔装具って作れないかなと思ってな。
で、今試しに作ってみてるんだ。魔石もたくさんあることだし」
「へぇ…。ユイトさんって、いつも凄いこと考えるよね」
「まぁ、俺には前の世界の知識があるからな。
この手のアイデアは漫画って本にいっぱい載ってんだよ」
「そうなんだ。やっぱりユイトさんが居た世界って凄いところなんだね」
「まぁ確かに凄いかもしんないけど、俺から見たらこの世界も十分凄いけどな」
「うーん、そうかなぁ?」
少しだけ首をかしげるティナ。
「そうなんだって!ずっとこの世界で生きてきたティナにとっては
普通かもしんないけど、俺にとっては十分凄いんだよ。
この世界には魔法があって、人間以外の種族もいるだろ?
そんなん、俺がいた世界じゃ考えられないからな」
「そっか。私にとっては普通でも、ユイトさんにとっては普通じゃないのか…」
「ま、そういうことだな。
つーわけで、ティナ。うまくいくか分かんないけど、楽しみにしててくれ」
「うん!楽しみにしてる!」
…そして翌朝。
「んーーーっ!よく寝た!!」
体を伸ばすティナ。
そしてふと横を見ると、せっせと作業をしているユイトの姿。
「えっ!?ユイトさん、まだ起きてるの!?」
「んっ?もう朝か…。集中してて全然気が付かなかった…。
でもとりあえず1つは出来たぞ」
「えっ!?もう出来たの!?」
「あぁ。試してみるか?」
「うん!試してみる!
…あっ、でもその前に着替えちゃうから少し待ってて」
急いで身支度を整えるティナ。
「お待たせユイトさん。それで、その腕輪がそうなの?」
「あぁ。この腕輪の中に体の一部を入れると、力を抑えてくれるんだ。ほら」
ティナはユイトから腕輪を受け取ると、早速腕にはめてみる。
「…わっ!?ほんとだ!体から力が抜けてくみたい!!」
「だろ?これがあれば、きっと周りを気にせず思う存分修業ができる。
…で、ついでにちょっとそれに魔力を込めてみな」
「魔力を?うん、分かった」
言われた通りに腕輪に魔力を込めるティナ。すると…
「わっ!少し小さくなった!」
「ふふ、凄いだろ?普段はそのままつけてアクセサリー替わり。
戦いの時は邪魔になんないよう魔力を込めて小さくする、ってな感じだな」
「凄いっ!凄いよ、ユイトさんっ!
こんなの作っちゃうなんて凄すぎるっ!!」
尊敬のまなざしでユイトを見つめるティナ。
「今はまだその1つだけだけど、それをあと3つ作る。俺とティナの両腕分だな。
それが完成したら出発だ」
「うん、分かった!」
この後ユイトは少しだけ仮眠をとると、再び魔装具づくりに没頭。
持ち前の集中力を発揮し、なんとその日のうちに残り3つの腕輪も完成させた。
そして翌日。
「じゃあ、行くか」
次の目的地は西の隣国バーヴァルド帝国。
新たな国、そして新たな出会いへの期待を胸に、ユイトとティナは王都ステイリアを出発した。