1/223
奈々子と健介 vol.001. 都内の書店。
「ふ~ん、これ…いいかな…!」
雑誌のページを捲りながら一人呟く健介。
都内の書店。
そんな健介のいる場所から数メートル離れた、
文庫本のあるコーナーの整理をしていた店員、
吉川奈津子が健介を見つけて、傍にいるもう一人の店員蒲田康子に、
「ねね、また来てるよ彼…。うわっ。」
「うそうそ、何処よ何処、えっ…???」
「ほらほらあそこ…。…んもう…素敵。またここに来てくれたのね~!」
「何言ってんの、あんたにはしっかりと旦那…いるじゃないよ。…でも…イケメンよね~彼女いるのかしら…???」
「さ…あ…。私がもう少し…若かったらな~!」
「私…彼に…乗り換えようかしら…。」
「あんたね…康子…その顔で…。」
健介が気に入りの本を手にレジに向かう。奈津子が、
「ちょっと、ちょっと…来るわよ。」
見ていたのをばれないように、仕事に戻る。
「これ、お願い。」
「あっ、はい。いつもありがとうございます。」
片倉奈々子が、黒縁のメガネを掛け、両側フィッシュボーン、
目を下向きにして健介にそう応えて、
「1,620円になります。」