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第5話 そして音色は鳴り響く

 あのオジサンの小屋から数十分。


 先程、大通りで下級神官に見つけられた僕は、ルーフェン王国王都、その中でも掃き溜めしか居ないと言われる、王都のスラム街でも1番酷いと言われているスラム街に来ていた。


 あまりの酷さに、"ゴミ箱"と略称しているそこは、いつ病気になっても可笑しくない廃れた環境、強盗や殺人、クスリをやっている者が多く居て、王宮やルミナス教会にも問題視されている所だ。


「今度は此処でやろうかな…」


 僕はその中でも端っこの端っこで演奏する事に決めた。


 ゴミ箱では、中心に行けば行くほど治安が酷くなる。

 ここなら居るとしても、浮浪者、軽犯罪者、僕みたいな捨てられた子ぐらい。ルミナス教会の人も早々近づかない。


 僕にあるのはこのギターとシルクハット…あと…いや、これだけか。

 懐にしまっている、早朝に女の子が置いていった金貨を握り締める。


 失う物は何も無い…。


「……よし! やるぞ!!」


 僕は大きく声を上げた後、シルクハットを横に置き、演奏を始めた。


 すると直ぐに周囲から人が出てくる。


 よし。良い感じだ。このまま演奏を続けるぞ!!



 そう思った僕は、そこで演奏を止めればよかった。


「凄い…」

「もしかしたら…」


 人が集まると言っても此処はスラム街。


 遠目で此方を見つめるだけで、シルクハットの中は空っぽだ。スラム街なのだから、お金を持っている人が演奏に態々金をかける訳がない。


 それなのに人は増えるばかり。


 技術は上がるのかもしれない。

 しかし、それと同時に命の危機、トラブルに巻き込まれる可能性があるとしたらするべきではなかったのだ。


「急にこんな…僕のギターの技術が上がった?」


 僕は演奏を止めて自分の手を見る。

 いつも通りの薄汚れている手。指先にはタコが出来て少し硬くなっている。


「いや、でもいきなりこんな…毎日やってて徐々になら分かるけど」

「何やめてんだ!!」

「早くやれよ!!」


 周囲の人々から催促の声が上がる。


 自分的には丁度いい所で終わらせたつもりだったんだけど…。


「おい! てめぇ!! 痛ぇよ!!」

「先にお前が殴ったんだろうが!!」

「はぁ!? 俺じゃねぇよ!!」

「ちょっと! 何処触ってんのよ!!」


 困っていると、突然周囲の人々からトラブルが起こったかの様な声が聞こえ始める。


 どうしたもんかと周りをよく見ると、周りにはスラム街中の人々が集まったのではないかと思う程に、人が密集していた。


 そして、人々の中から女性の甲高い悲鳴が鳴り響いた。


「連続殺人犯のロンリーだ!!」

「逃げろ!!」

「引き裂かれるぞ!!」


 すると、周囲の声が響くのと同時に、スラムの人々は蜘蛛の子を散らす様に逃げて行く。


 確か、連続殺人犯ロンリーは最近巷で話題の人物だ。全身真っ黒の服装を纏った彼は、昔彼女に振られたのを境に殺人を犯した。

 両手にナイフを携え、1人で泣きながら女性の顔が判断できなくなるまで切りまくるその姿は、正に孤独。


「ヤバい…! 僕も逃げないと…!!」


 逃げる為に急いで、ギターとシルクハットを持って踵を返す。


「きゃぁ! や、やめて!!」


 そんな時、喧騒の中から女の子の声が聞こえて振り返る。

 そこにはロンリーの前に尻餅を着いている子の姿があった。


「あ、危ない!!」


 そう言って手を伸ばすが、それは僕の手の届かない所での出来事だった。



 ロンリーのナイフが振り切られ、子供の顔から血が迸る。


 僕の目にはそれがゆっくりと見えた。


 涙を浮かべる少女、顔には幾つもの切り傷が出来始める。


 そして不意に、その少女が此方を見た。

 僕と少女の視線が重なり、想いが伝わってくる。



 最後にありがとう。


 感謝の気持ち、そんな気がする…!



 そう。伝わって来たのは助けてと言う懇願ではない。逃げようとギターとシルクハットを持っている僕に対しての恨みではない。



 ただのお礼。



「た、助けに…!!」


 足を一歩踏み出す。


 助けに行きたい。自分が此処で演奏をしていなかったら少女は、恐らくこうはなっていなかったのだから。

 しかし、自分の足が言う事を聞かなかった。





 1日1善、良い事を。



 この世の暗黙のルールにして、皆んなが心掛けている事だ。


 それでもそんな事やっても何も意味がない、それでスキルなんて手に入る訳がないと、諦める人もいる。


 親が死に1人で生きる者、恋人に裏切られ殺人に走る者、運悪く借金を抱え浮浪者になった者、最初から親が居らず生きて行く為に泥水を啜ってきた者… そんな人が此処では溢れている。


 何故なら、全員が神に見放されてるから。



 皆んなに元気を…何よりここを変えたい…いや、女の子を助けたい!


 それは小さな子供からしたら、大それた願い。

 何処かの本の中の勇者の様な、子供だからこその願い。




「僕が助けるんだ!」


 僕はギター握りしめる。

 あれ以上は女の子が死んでしまう…此処に居る全員の気を引く、インパクトが有りつつも…落ち着く、そんな曲を。


 僕に出来るとしたらこれぐらいだ。


「ーーー!」


 ギターの弦を弾き切るぐらい豪快に扱うと同時に、喧騒が一瞬にして静寂へと変わる。



「な、何だ…」

「うぅ、何…?」

「ん? あ、足が…!」



 それは混乱が起こっている中で演奏をし始める異常者か、それとも本の中の小さな勇者か…



 ◇


 気品が漂う部屋。メガネを掛けた聡明そうな1人の男が、奥に座っている者に話し掛ける。


「本日、スラム街、通称"ゴミ箱"において大きな騒動があったそうです。このあまりの大きな騒動に警備隊が動いたそうです」

「ふむ……そろそろ決断するべきか」


 その老齢な男は深く思慮した後、大きく頷く。


「ですが…」

「ん? 何だ?」

「あ、いえ…それが騒動は直ぐに収まったそうなのですが、その時に数秒程、王都の住人全員が聞き入る様な音が聞こえたそうなのです」


 メガネの男が言う。


「……ほう? そういえば私も執務中、心地よい音色が聞こえてきたな。もしかしてアレか?」

「はい。王都中に響きましたが…それは何処であっても同じ音量、同じタイミングで聞こえたという報告が上がっています」

「何と…」


 感嘆の声が漏れ出る。

 普通音は、発生した場から遠くになるにつれ音が遅く聞こえて来る。


 王城にある時計台の音も、遠くにいれば遅れて聞こえて来る。それが当たり前、常識だ。


「そして不思議な事に……」

「何だ」

「あ。いえ…」


 男が口吃る様に続ける。


「何だ、はっきり申せ」

「は、はい……それと同時に王都中の怪我人の怪我が治ると言う、奇怪な現象が起きたのです」




 この日、王国に奇妙な噂が流れた。




 何処ぞの王が、名声を欲しがって怪我人を治療した。

 何処ぞの研究者が、研究の副産物に怪我人を治療してしまった。


 いや、それだったらあの音は何だったのだ?


 なら、何処ぞの神が、ルーフェン王国を祝福したのだろう。


 色々な憶測が飛び交った。


 そして、最終的にはこれに収まった。



 "何処ぞの天使が、癒しの音を立てて行った"



 何処かメルヘンチックなその噂は、多くの女性に大きな関心を持たれ、周辺諸国にも雷の如く伝わるのだった。

今日の更新は終わりです! 明日は昼に更新です!

社会人になりましたので…昼休みにしか余裕が無くなったんですよ…_(:3 」∠)_


次回

閑話 傷つけられた少女


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