第4話 逃げた先は
「えっと…」
「ひぃ、ふぅ、みぃ…おっほう!! これぐらい有ればあの伝説の名酒、紅の熱血が飲めるな!」
僕の視線の先には、小汚いオジサンが硬貨を数え、ほくそ笑んでいる姿があった。
オジサンは誰? とか、それは僕のお金だ! とかは言うつもりはない。
「神官は…?」
僕がそう呟くと、オジサンの首が180度回ったかの様に此方を向く。
白髪の短髪で、いかにも何処にも居そうな容姿をしており、顔には幾つもの皺が刻まれ、無精髭が生やされている。
「アイツなら追っ払った。俺の家の前でピーチクパーチクうるさかったからな。俺が一言二言言ってやったら尻尾を巻いて逃げて行きやがった!」
オジサンが腰に手を置いて豪快に笑う。
それとは見合わない筋肉の盛り上がりが、凄い重圧を感じる。
僕は神官が居ない事に安堵し、腰を抜かす。
「ん? どうした?」
「あ、ありがとうございます。実は僕あの人に追われてて、逃げる為にこの家に入って……すみません」
「何を謝る? お前が入って来てくれて俺も得をしたし、お前も得をした。それだけだ」
良い笑顔で此方を見るオジサンは、硬貨を持ちながら親指を立てた。
ま、まぁ、命に変わるなら安い物だよね。
「そ、そうですか。ありがとうございました」
「おうおう、良いってことよ! …ん? 何処に行くんだ?」
「何処って……分かりませんけど…」
「あ? 何だよ! お前スラム街に住んでんのか!! なら、此処で寝泊まりすれば良いじゃねぇか!!」
「え…」
オジサンが僕の肩を強く叩く。
僕にとってこの提案はありがたい。此処に泊まれば、寝ている時に変に警戒しなくて良いし、雨風も凌げる。
だけど…また裏切られる可能性もあるんだよな…。
僕は昨日の商会の事を思い出し、その結論に至った。
「あの…大丈夫です」
「? そうか? 無理にとは言わねぇぜ。気が向いたらいつでも来て良いぞ!!」
良い人……なのか?
でも、今日会って信用なんてしちゃダメなんだ。
僕は歯を食いしばり、その小屋から出る。
「じゃあな〜」
「っ!」
オジサンが大きく手を振って僕を見送る中、僕はそれに何も返す事なく走り去って行った。
◇
今日は何て幸運なんだ。
闘技場の賭けに負け、やけ酒飲んで財布の中身をすっからかんにして、帰ってきたらこれだ。
俺は隅にある椅子に腰掛けるながら、机の上に置いた大量の硬貨から、一枚を指で弾き回す。
あの変な神官を追っ払っただけで、こんな金が手に入るなんて俺の運もまだ捨てたもんじゃねぇ。
自然と口角が上がる。
トントントン
そんな時、出入り口の方から戸を叩く音が聞こえ、さっきの坊主が帰ってきたのかと、勢いよく戸を開いた。
「何だよ坊主! やっぱり…って、お前らか…」
戸を開け居たのは、前の職場の部下共だった。
ここ連日、コイツらは押しかけて来ている、そろそろ嫌になってくる。
「シヴァさん…戻ってきて下さいよ…」
さっそく本題だ…来るなら茶菓子でも持ってこいってんだ。
俺は不機嫌を隠す事なく大きく溜息を吐く。
「だから言ってんだろ? 俺はあんな狭い所で縛られて働きたくねぇ」
「此処と変わらないじゃないですか!」
「馬鹿野郎! そう言う話をしてんじゃねぇ!! 俺が話してんのはここの話だ」
俺はそう言いながら、胸を親指で指す。
「言われた事やって、終わったらまた言われた事をやる…そういうのは俺には合ってねぇんだよ」
「シヴァさん…」
「さっさと帰れ。此処に居ても俺はお前らをもてなすつもりはねぇぞ」
そう言うと、アイツらはすごすごと帰って行った。
はぁ…嫌だ嫌だ。いつまでも粘着質に絡んで来るってのはよ。うざったくて堪んねぇわ。
ゴキゴキと首を鳴らすと、坊主から貰った硬貨に手を伸ばす。
さてと…あの坊主から貰った金でさっそく紅の熱血でも買いに行くかね。
俺はルンルンと、懐いっぱいに硬貨を抱いて、小屋から出た。
次は19時頃です!!٩(๑❛ᴗ❛๑)۶
次回
ジョコ、小さな勇者に…
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