第2話 裏切り、そして
「よ、よし。ノックするぞ…」
神官からの言動、暴力に立ち直った僕は、緊張してダサラ商会の前に立った。
ある声が聞こえて、手を止めた。
「アイツ…ジョコって言いましたっけ? あのお陰でウチの商会の売上も上がってきてますね」
「あぁ、そうだな」
相槌を打つ、いつものオジサンの声が聞こえてくる。
もしかして僕の演奏が評価されてる? やっぱり良い事はあるんだね!
「でも、酷いっすよねー、アレやったの先輩でしょ?」
「アイツの前ではあまり嬉しそうな態度は取らない様に、ってやつか? アイツが努力を怠るかもしれないからだよ、優しいだろ?」
え…何を言ってるの…?
「それに加えてお金はあげないようにしてるでしょ? こっちから給金は十分に出してるって嘘まで付いてウチにお金を下ろさせようとしてるんだからなぁ」
「天才だろ?」
「はは、最低っす!」
「うるせぇ! さてと、今日も雨か? アレを商会に入れて好感度でも上げて来るか…」
ガタッと物音がして、僕はノックしようと上げてた手を下ろし、そこから急いで離れた。
いつもとは違う路地裏、僕はギターを抱いて膝を抱える。
「上手く利用されてたって事なんだよね…」
ギターで演奏を始めてから、すぐにやってみないかと誘われ、それから5年も前からお世話になっていた。
信用もしていた。スラムの生まれで小汚かったとしても、商会の近くに居させてくれる優しい人だと。お腹が空いているときにお菓子を食べまさせてくれた優しい人だと。
しかし、鈍感な僕でもあんな話を聞かされると流石に分かった。
僕はあの人達にとってただの道具でしかないって…。
こんな考えをしててもダメだと、僕は頭を大きく横に振った。
「あ、明日こそ良い事が…」
ポロッ
言葉を続けようとした途中、目から熱いものが出て来る。
あぁ…擦り切れそうだ…
「あ、あし、明日には…良い事が…」
僕は溢れて来る雫を堰き止める様に目を擦り、落ち着く様に大きく息を吐いた。
そしてーー
「明日は良い事がある!!」
そう声に出して顔を上げる。
「え」
するとそこには、1人の男性が居た。
服装は此処らでは見ない様な服装で、南国にいるかの様なただ布をまとっている服、頭には赤いバンダナ、金のネックレスに、指に高級そうな大量のリング。長髪の赤髪で、整った顔からは精悍さが滲み出ていた。
路地裏で人に会う事なんて稀。
こんな外人とは会ったこともないし、知り合ったこともない。
僕はすぐさま強盗や暴漢などと思い至り、命よりも大事な相棒を守る様にして縮こまった。
すると…
「さっきの大通りの演奏…良い演奏だった。これからも頑張れよ」
「ーーっ!!」
一瞬、僕は何を言われたのか分からず、理解するのに数秒掛かった。
良い演奏…? これからも頑張れ…? それは僕に言っているのか?
「ほら」
あまりの言葉にボーッとしていると、男の人が手を伸ばして来る。
僕はそれに思わず息を呑んだ後、その手を掴む。
「は、はい…! ありがとうございます!!」
それは短くも、確かな応援の言葉。
それに大きな涙が流れる。
その男の人の手からは、温かい何かが流れ込んだ気がした。
その後、何とも言えない心地良さを感じながら僕は眠りについた。
◇
『音の神よ、良いのか? そんな手助けをして…』
『あぁ。実は随分前から手は掛けて来てたんだ…俺はあの子が1番この世界に影響を与えてくれそうだと感じた』
『変える、ではなくか?』
『あぁ。自分の演奏で誰かに影響を与える…それこそ音楽家の真髄よぉ』
『なるほどな…だが、それでは奴等には勝てないぞ?』
『ははっ、勝敗なんてどっちでも良いさ。お前が思っているよりも、音楽は無限の可能性を秘めている』
『無限の可能性、か…』
『まぁそれも、あの子に与えた"スキルの種"がどう変化していくか次第だけどな』
その男は口角を上げ、言い放った。
『これはただのキッカケに過ぎない…小さな小石が生んだ波紋はどれほどの影響を人間、世界に与えるか…楽しみでしかたねぇなぁ!』
◇
翌日、僕は太陽が出て来るよりも前に、大通りへ来ていた。
「よし! 今日は時間帯を早めてみよう。そうすれば誰か来るかもしれない!」
あれからあのお客さんからの言葉を反芻して気持ちを保ち、色々試行錯誤した結果。
朝なら何か1善をする前に、ここでお金を落として見て行ってくれるのではないか、という斬新かつ、革命的な考えが浮かんだのだ。
「よし! 頑張るぞ!」
僕はその完璧とも言える作戦にほくそ笑みながらも、1人で拳を高々に上げる。
そして地面に座り込むと、ギターの調節をし始める。
「ん?」
すると、ある事に気付く。
いつもと音感が違う。
いつもの雑多の様な音ではない。深みのある腹に響く様な音が、ギターから鳴る。
「んーと…まずは弾いて調整するしかないか…」
僕は徐ろに立ち上がり、ギターを弾き始める。
辺りまだ暗く、少し肌寒い。朝露が草花に残っている。大通りにある屋台が準備されて行く、ガタゴトとした音が聞こえて来る。
まだ普通の人は起きてない時間…ゆっくり出来る様な…働いている人も…自然に目が覚めれる様な…力が出る様な音を…。
僕は目を瞑りながら早朝にあった音楽をイメージする。
「…〜…〜♪」
体を徐々に潤していく様な優しい音が辺りに響く。
「ふぅ、こんな感じかな?」
数分後目を瞑ってても分かる程、陽が僕を照らしているのが分かり、目を開ける。
「…」
すると、僕の目の前には少し薄汚れたローブを着た僕ぐらいの身長の人が立っていた。
や、やばい。早く演奏し続けないと。
「〜…〜…♪」
僕は先程と同じような演奏をまた続ける。
「…良い」
え? 今もしかして褒めてくれた?
演奏を続ける中、か細くだが嬉しい言葉が聞こえた。
僕の方を見てるから僕の事を言ったんだよね?
それだけで少し気持ちが明るくなる。
「〜〜♪ 〜♪」
演奏に自分の気持ちが乗るのが分かる。
心がじんわりと温かくなる様な音色が出る。
「…うん。凄い」
う、嬉しい…! だ、だけど今はまだ早朝。あまり自分の気持ちを出し過ぎてもダメだ。相手の気持ちを考えるんだ。
僕は前に居る人の姿を見る。
ローブからはみ出る金髪は、貴族を彷彿とさせる程綺麗だった。足下を見ると、それまた綺麗な茶色のブーツ。
もしかしたらお忍びで来てるお嬢様? 今、お屋敷の人とかが来たら大変だよね?
そんな少しのイタズラ心から、曲調を優しい曲調から厳しめの曲調に変えてみる。
「ふぁっ…!」
「ふふっ…」
今変な声が出た。びっくりしたんだろうな。
その僕と同じ年頃の少女からの反応に、自然と笑顔になる。
よし、もっと曲を変えて…
ガラ〜ン ガラ〜ン
その時、大きく鐘の音が王都中に鳴り響いた。
「あ……」
前に居る人が鐘の音を聞いた瞬間、僕と鐘をチラチラと行き来する。
「…ありがとうございました!」
その人の様子を見て、僕は時間がないのだと悟り、深くお辞儀をした。
すると、それに気が付いた少女がパチパチッと強く拍手をする。まるで僕が凄い演奏をしたのかの様に。
そんな事ないのにな…でも、僕の演奏を評価してくれているのは確かだ。
「あ、ありがとうございます。た、楽しかったです」
「こちらこそ! 一緒に楽しい時間を過ごせましたよ!」
僕は大きく手を広げ、嬉しさを精一杯表現する。
「あの、また聞きに来ますね!」
チャリン
少女が一枚、硬貨を投げて去って行く。
「ありがとうございます!!」
僕は声を大にして、少女がいなくなるまで深くお辞儀をした。
「…ん?」
そして僕は気付いた。
足下のシルクハットの中に、金色に輝く硬貨がある事を。
「こ、これって…き、金貨…? 初めて見た…」
金貨。それは1枚で10万ゴールドもする価値がある硬貨な筈。
「あ、あの子…もしかして本当にお嬢様? い、いや、まさかね…きっとおつかい用のお金を間違えて出しちゃったんだ。うん」
ぴきん
「ん? 気のせい? 何か今変な音が…いや! そんな事よりも演奏演奏!」
僕は先程の少女が戻って来る事を考えて、今日はしばらく此処に居る事に決めたのだった。
しかし、それは良くも悪くもジョコの人生を大いに変える事になった。
次は17時です(☝︎ ՞ਊ ՞)☝︎
次回
ジョコ、お金一杯稼ぎます
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