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第1話 信条

 スキル。

 それは、神に認められし才能ある者が賜ると言われる、神の御技に等しい能力の事を言う。


 それを賜った者は、その神が例え"最下級神"であっても、前とは驚く程の成長を見せると言われる。


 スキルは与える神によって様々。

 炎の神ならば、炎に関係するスキル。

 鉱物の神ならば、鉱物に関係するスキル。

 家事の神ならば、家事に関係するスキル。

 etc……


 それぞれに最下級、下級、中級、上級、最上級の神が存在し、上に上がれば上がるほど良いスキルを賜り、その賜る人数も限られてくる。


 これを受け取る為に世の全ての人は善行を繰り返し、世界を平和にという崇光なる考えをしている。


 1日1善、良い事を。


 それがこの世の暗黙のルールだった。




 ダサラ商会の近くにあるゴミ置き場。周囲からの馬車の音、商人の話し声を目覚ましに、僕は大きく伸びをしながら立ち上がった。


「んー! 今日も良い天気だな〜!! よし!」


 しっかりとストレッチをした後、僕はいつも通り路地を抜け、仕事へと飛び出した。


「ーーー♪〜〜♪」


 ぱち……ぱちぱち…ぱち


 僕の仕事ーーーそれはダサラ商会に来る商人や護衛に、朝一に気持ちの良い音楽を聞かせる事だ。

 朝、遠路はるばる来た商会が商品を卸す時に心が癒される、そんな音楽を聞かせる。


「〜〜♪」


 まばらな拍手が聞こえる中、僕は商人達が居なくなるまでギターを弾き続けた。


 そして僕は足下にあるシルクハットを覗いた。


「…」


 しかし、その中には昨日と同様また何も入っていないシルクハットがあった。


 最近こういう事が多い。


 この前までは、懐の暖かい商人が気まぐれでお金をくれていた事があった。それに優しい護衛もだ。

 だが、何故だか急にお駄賃をくれる人がパッタリと居なくなってしまったのだ。


「ま、まぁこういう日もあるよな!」


 僕は何故だろうかと思いながらも、それを楽観的に捉え頭を掻く。


「良い演奏だったぜ、ジョコ」

「おじさん!」


 そんな時そこで笑っていると、いつも僕を褒めてくれる商会のおじさんが話しかけて来る。

 商会のおじさんは、時々甘いお菓子をくれたり、雨の日や怪我をした時に商会の中で寝させてくれるとても優しい人だ。


「今日も貰えなかったみたいだが…次、貰えたら良いな!」

「うん! そうだね! 僕、頑張るよ!」


 ガッツポーズを決めるオジサンと、僕は一言二言会話をして、商会のオジサンに手を振って別れた。


 片手にギター、シルクハットを持って。




「ーーー♪」


 僕はまた昨日と同じ所、人が多く通る大通りでギターを演奏する。

 目の前を何人もの人が通り過ぎていくが、一瞬立ち止まるだけで時間だけが過ぎる。


 人が1番良く通る昼の時間帯の筈。


「…う、う〜ん、調子が悪いのかな?」


 と、ギターを調べるように手を当てる。


 いつもなら1枚は必ず入っている時間帯。

 音は悪くない。1日に1善、誰か1人は気まぐれでお金を入れてくれるのだが、今日に限って誰も入れてくれないでいた。


「ま、まぁ、こういう日もあるって!」


 そう思って昨日と同様、笑顔で弾き始めようとする。


「っ…」


 するとその時、突然視界が明滅する。そして、顔に遅れて急激な痛みが訪れる。


 あれ? 今殴られ…


「こんな所で何をしてるんですかね?」

「っ!」


 蹲る僕の上から、何処か苛立ちを隠せない声が聞こえ、顔からの鈍痛に耐えながら視線を上げる。

 そこには真っ白なローブを着た男が居た。


 真っ白なローブには金色の刺繍が入っており、刺繍は狼を冠した牙が描かれていた。


 それは僕の様なスラム街に住んでいる者でも分かる、ルミナス教会の下位神官にあたる制服だった。


「げほっ…けほ…」

「うっ、息を吐かないで貰えますか。汚くてなりません」


 咳き込むと男は、口許を隠して蔑んだ目で此方を見る。


 ルミナス教会。

 それは、この世界に4つと存在する大きな信仰教会の名だ。王族や貴族とも繋がりがあり、ルミナス神と言う清廉潔白な神を信仰したこの教会は、汚れたものを許すなという信条がある。神官達では汚いもの、それが人物であっても消す事が善だと考えられている。


 つまり、僕もその汚いものに入っている。


「大通りには出て来ないで頂きたい。あなた方のような汚らわしいものが出て来たら我等が穢れます。確か、貴方には前にも指導した筈ですよね?」


 そう。この人には、この前も指導という名の暴力を受けた。

 だけど大通りでやった方がお金を入れてくれる人が居るし、何より色んな人に聴いてもらえる。此処でやった方が良いに決まってる…


「す、すみません。次からは必ず別の場所で

「そう言う事ではないんですよっ!!」

「…!!」


 僕が取り敢えず謝っておこうと頭を下げると、今度は顔に神官の蹴りが入る。


「貴方の様な世界の屑は消えてなくなりなさい!! その汚い物で! 汚い音を鳴らして、何の意味があるんですか!!」


 蹲ってる僕の顔、背中、身体中に何度も神官の蹴りが降り掛かる。


 そんな理由で……理不尽だ。

 僕は亀のように丸まりながら、神官からの攻撃に耐える。


 蹴られている中、偶々僕の口から血が吐き出され、神官の靴に血が付いた。


 神官はその僕の血に、一層顔を顰めると大きく叫んだ。


「なっ!? これだから汚物駆除は嫌なんだ! すぐに穢らわしい血が付く…私もすぐに上級神官まで上がらないと…」


 その血のおかげか、神官は顔を顰めたまま、ブツブツと呟きながら離れて行った。


「はぁ…」


 た、助かった…


 それを確認した僕はギターとシルクハットを持って、逃げるように這いつくばって、建物の路地裏まで移動した。




 そして路地裏の壁に寄り掛かり、痛む体を休めるようにして、僕は曇天の空を見上げた。



 僕は音楽が好きだ。


 音楽は人を幸せな気持ちにさせる事が出来るから。


 この世に生まれて多分12年程。両親は物心ついた時から居らず、これまで他人の顔色を伺い、泥水を啜り、ゴミ箱を漁り、物乞いし、果てには犯罪にも手を出し、1人で生きてきた。

 そうして生きていく中、いつ死んでも良い、増してや早く死にたいとも思っていた。




 だってそうだ。親は居ない。友達も居ない。周りに居るのはただの他人。

 つまり、何をされてもおかしくない。

 その状況で生きて行くのは寂しいし、何より疲れる。




 そんな僕だったが、ある時、人生の転機が訪れた。


 それがーーー大通りでやっていた大道芸人のジャグリングや玉乗り、手品だった。

 偶々目に入った僕は、気付けばそれに夢中に見入ってしまっていた。


 そして、その中でも1番凄いと思ったのは、大道芸人の隣でパフォーマンスを盛り上げさせる、心が上がる様な演奏をしている演奏家だった。


 綺麗な楽しくなる様な弾んだその音色は、大道芸よりも目立たない、でも、皆んなの耳に自然に入り込んでくる。




 僕もそうなりたい。


 僕は目立たない、ただの孤児だ。大道芸人さん達みたいに目立つ事なんて出来る訳がない。


 だけど、誰かを支えられる、皆んなの心に寄り添える様な自然と耳に入る様な、そんな演奏をしたい。周りにいる人達も幸せになれるような…


 スラムで育った僕でも色んな人と楽しむ…そんな演奏をしたい。


 そう思った僕は、ゴミ置き場で偶々拾ったギターで、演奏を始めた。


 最初は何をどうすれば音が出るのか分からなかった。だけど、毎日やるうちにどうすれば音が出るのかが分かって、どんどんギターに入り込んでいった。



 でも…



「僕って向いてないのかなぁ」


 そっと呟く。

 今まで多くの観客に囲まれた事なんてない。最初は2、3枚貰えていたが、最近は何も貰えていない。それは大通り、商会前の演奏でもだ。


 お金を貰う為に始めた訳ではない。


 だけど…お金が少しずつ貰えてからは、それが目的になっている気がする。


「お腹空いたなぁ…」


 そんな時、冷たい雫が僕の頬へと落ちて来る、雨だ。

 もしかしたら神様も止めろと言っているのかもしれないと、今までにないぐらいネガティブな思考になる。


「な、何してんだ!! ただ殴られて罵られただけだ!! あ、明日は良い事がある!!」


 願う様に、自然と声が震える。

 その時、僕の頭の中に、昔会った大道芸人の言葉が横切る。


『大道芸人は皆んなを幸せにするもの! 例え失敗して辛くても、笑顔は絶やさない!!』



 演奏していた大道芸人が言ってた訳ではない。

 しかし、演奏していた人も、それを隣で微笑んで聞いていた。



 僕は皆んなを魅了できる演奏は出来ない、皆んなに寄り添う演奏も出来ない、ただのギターを弾いてる子供だ。


 だけど…


「笑顔は絶やさない事は出来る!」


 蹴られて腫れた部分が、自分の笑顔を引き攣らせる。しかし僕は。無理矢理に口角を上げた。


「そうだ! 今日はダサラ商会で寝させてもらおう!」


 今まで願い出る事はなかったが、おじさんの事だ。言えば、中に入らせて貰えるかもしれない。もしかしたら治療とかもしてくれるかも!


 そう思った僕は、ダサラ商会へと痛みに耐えながら走った。

次は16時頃までお待ち下さい( ̄^ ̄)ゞ


次回

ジョコ、神からスキル貰います


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してくれたら私のやる気がupしますᕦ(ò_óˇ)ᕤ

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