5話「見送り」
翌日、ジェノヴァ奪還作戦に関する報告とその他の諸調整のために本部に留まっていたイニーゴ・カンピオーニ大将とその艦隊が東京を発った。ガブリエーレはその見送りのために彼の上官と共を軍港区に訪れていた。
「申し訳ありませんお忙しいのにわざわざ、、、」
「なにかまわないさ、パッドリノ中尉が随分世話になったみたいだしね」
「はは、、、」
ガブリエーレは少し気まずくなって頭を掻く。
「元帥もくれぐれも無理はなさらぬように、よろしくお願いしますよ?」
「昨日耳にタコが出来るほど聞かされたよ、、、」
「カンピオーニ大将!そろそろお時間です!」
「今いく!じゃあ中尉も元気で」
「はい!」
ガブリエーレの答えに軽く頷き、カンピオーニは春翔に敬礼をしてタラップを上っていった。
グオオオオオオオンという音と共に、目の前の巡洋戦艦・パクス=ロマーナがゆっくりとその巨体を動かし出す。パクス=ロマーナと随伴の2隻の巡洋艦が海面を離れ飛行し始めた時、ガブリエーレの上官である春翔が不意に敬礼をした、彼は1瞬呆気にとられたが、すぐにはっとしてそれに倣った。彼らは3隻の艦が見えなくなるまでそのままの体制で立っていた。
パクス=ロマーナが見えなくなった後、先に口を開いたのは意外にも春翔だった。
「中尉、、、」
「?はい」
「急で悪いが外泊の用意をしておいてくれ、明日出立だ」
「わかりました、ですがどちらに?」
「後清だよ」
「後清?」
その国の名前をガブリエーレは勿論知っていた。
中華圏に存在する帝国の1つで、前期中華帝国最後の王朝の血を引く者たちが代々治めてきた国であり、そして何より北武周と共にガーディアンズの支援国で、レストニア教国である仁帝国を抑える役割を担っている非常に重要な国だ。
「わかりましたが、、、なぜ今向かう必要が有るのですか?」
彼は疑問を自身の上官にぶつけてみた。春翔は隣を歩くガブリエーレの方をちらりと見て答えた。
「ほら、2年ぐらい前に皇帝が代わったろ?」
「えぇ、、、確か先代の皇帝が崩御して、第四皇子の永醒様が帝位につかれたと、、、」
「そう、そして向こうでは皇帝崩御に伴う即位の場合は3年間、、、まぁ実質的に25ヶ月の喪に服すのが慣例なんだよ」
「丸々2年以上じゃありませんか!?」
驚きの余り声を上げる。確かに親戚が亡くなる事は悲しい事では有るが、それにしても25ヶ月と言うのはとても想像が及ばない。
驚くガブリエーレを宥めながら春翔が続ける。
「それで今月ようやくその服喪期間が明けたんだ、そのため後清は大々的に即位の儀式を行う、我々はそれに出席せねばならないんだ」
「なるほど、、、それにしても急ですね」
「どうも向こうにも事情は有るらしくてね、、、」
苦笑していると本部棟前に到着した、春翔はガブリエーレの方に向き直りこういった。
「明日の準備のために今日はもう上がって良いよ」
「ありがとうございます、、、ですが閣下は?」
「僕は、、、もう少し仕事かな?」
「ですが今日やることは全て終わっています、差し出がましいかも知れませんが、少々仕事のし過ぎではありませんか?」
「え?」
「閣下にしか扱えない機密が有ることもわかっています、しかし、身体を壊されては元も子もありません、、、どうか、今日はお休みになって下さいませんか?」
驚く春翔、少し差し出がまし過ぎたかなと思っていると不意に彼は吹き出した。
「カンピオーニ大将にも同じことを言われたよ、確かに仕事のしすぎかもしれないな」
笑ってガブリエーレの頭をかき混ぜながらそう言う。
「じゃあ今日はもう休ませてもらおうか」
「是非そうしてください、では失礼します」
春翔は敬礼しながらそう言って立ち去ろうとするガブリエーレを呼び止めて言った。
「夕飯、一緒にどうだい?」