三話目
窓際に水の入ったバケツが2つ置いてあって、細長い毛の生えた草が浮いていた、水槽の水草みたいなやつ。
みたいじゃないな、まんま水草だ。
前屈みの姿勢で、バケツの中をじっと見る。
奥のほうに小さくてキラキラした……魚?
「何これ、ドジョウの子供?」
「メダカだよ」
馬鹿にした顔でひと睨みされた。
そう、それが言いたかったのにぃ。
「お前、飼ってるの」
「そんなわけないだろ、栗山先生のだよ」
「へぇー。えっ、でもいいのか、ここで飼って?」
「一時的に、テスト期間中だけらしい」
それでもいいのか?と聞きたかったが、要に聞くことじゃないから黙った。
栗山先生は学年主任で、ちょっと近寄りがたい。
無表情で話し方もいつも同じで滅多に笑わないから、サイボーグと陰で呼ばれている。
自宅で飼っていたが増え過ぎて奥さんに怒られ、友人にあげる予定で家から持ち出したのだが、相手がドタキャン。今日は出張予定だった先生がインフルエンザでお休みで、代理で先生が行くことになって、餌やりを頼まれた。と、嚙まずにスラスラ説明された。
「でも何で、お前が」
「バケツ持って歩いているところに、偶然居合わせた。生徒会の顧問だし」
要は次期生徒会長候補、本人はやる気はないそうだ。
「他の先生に頼めばいいだろ」
「頼みづらいんだろ」
「ふーん」
先生同士がみんな仲良しだと思っていたのは小学生までだったな。
「なんでバケツ2個」
「オスとメスで分けてるんじゃないのか、聞いてないけど」
興味がないことはよくスルーするよな。
「権力者の弱みを握る。内申書が楽しみだ」
喋る要の目が光った気がする。
「……要を敵に回さないように心掛けるよ」
「良い心掛けだね」
要の機嫌がいい。