君に恋する5秒前
君に恋する5秒前
「和希!ほら早く走る!!」
「待ってよ美希。俺眠くてもう走れない。」
「あんたまた徹夜でゲームしてたんでしょ!高校生なんだから自己管理くらい自分でしなさい!!」
私、藤島美希は幼馴染で腐れ縁の寺岡和希の手を引いて、絶賛遅刻道中を駆け抜けている。
ちなみ付き合ったりはしていない。さっきも言ったがただの腐れ縁だ。
毎日毎日よくもまぁ遅刻ギリギリに家を出れるもんだ。こんなやつほっといて自分だけ優雅に登校すればいいのだが、そうすると和希は毎日遅刻で出席日数が足りなくなってしまうので仕方ない。小学、中学と似たような生活してきたし、今更どうってことない。
でも今日は本当にギリギリだ。出る間際になってトイレに行きやがって。じゃあさっさと起きて来いよ。手を引く和希の顔を見ると呑気にあくびしてやがる。無性にイラっとしたその時。
「あっ!」
「うわあ!!」
ズサァ……
盛大にコケてしまった。私が。
「痛っ……。」
和希はコケた私を飛び越えて無事だったが、私の膝が無事じゃなった。
膝小僧からは真っ赤な鮮血が滲み出ている。
「サイアク……。」
痛くてダッシュなんて無理だ。でも走らないと絶対間に合わない。
「血出てる…痛そう…大丈夫?」
あからさまにわたわたしてるな。
「和希……。」
「何?」
「……先行っていいよ。」
「え?」
「この足じゃ走れないし、先いっうわああ!!?」
最後まで言い切る前に和希に担がれた。うまい具合におんぶされて、和希は走り出した。
「こんな状態のやつっ……置いていけるわけねえだろっ!」
必死さが伝わってきて胸がキュンとする。
校門が近づいてきたがあと少しと言うところでチャイムがなった。
うん、今日は遅刻だ。『私のせい』で。
何とも言えない罪悪感の中教室についたが、和希は私を降ろすこともなく教室の扉を開けて
「せんせっ…はぁはぁ…コイツ怪我してるんでっ……、保健室行ってきますっ。」
そう言うなり踵を返して保健室へと走り出した。
教室に残された教師と生徒は突然の事態にポカンとした顔で和希がいた場所を見つめ、先生は「お、おう。」と、幾ばくか長いタイムラグの後、返事をした。
保健室に着くなり養護の先生に美希の傷を見せ手当をしてもらった。和希は美希を背負ってダッシュしたため息も絶え絶えになりベッドに汗だくで倒れ込んでいる。
「すごい剣幕で入ってきたから何事かと思ったわ。」
傷口に消毒液をかけながら養護の先生が微笑んだ。
「いやはやお恥ずかしいです。」
申し訳なく思いながら消毒が染みる痛みに耐える。
「こんなに必死になってくれる男子、今時ちゃんといるのね。」
フフフと養護の先生はなんだか楽しそうだ。
確かにこんなに必死になるのは正直びっくりだ。いつも私が和希の面倒を見るタイプなので、逆は本当に珍しい。
そっか、和希は私のためにこんなに必死になってくれるんだ。
そう思ったら、普段寝坊している事は一先ず置いといて、なんだか頼もしく思えた。
教室に戻ると案の定クラスメイトに囲まれて散々茶化されたが、そんなことはどうでもいい。私は嬉し恥ずかしいこの気持ちを隠しつつ、そっと和希の方を見た。
朝から私を背負って猛ダッシュしたためか、疲労困憊で机に突っ伏して寝ている。仕方ない、今日だけは許してやろう。
こんな幼馴染ですが、これからも毎朝起こしてあげようと思います。
ただ、今回みたいに怪我はしたくないので、その辺譲歩してもらい早起きを実行していただきたいと思います。
気付いてる?
君に恋する5秒前。