第99話「村民へ勇気を!①」
物見やぐらへ昇った門番兼見張り役のロドリグが大きく手を打ち振る。
敵――村への襲撃を繰り返す人喰いゴブリンの群れが、
最寄りには居ないという合図だ。
そしてロドリグの傍らには、指示役、俺達の行う戦いの『見届け役』としてオレリアが立っていた。
先般ステファニーからは、オレリアを案内役にする。
それゆえ、彼女の命を危険にさらすリスクがあると話があった。
しかしディーノが立てた作戦では、そのリスクはない。
当然、ステファニーは真っ向から反対した。
だが、ディーノが責任を持つと言い張り、戦場での案内役にするのは、
ナシとしたのだ。
しかもディーノはステファニー達の安全も考えていた。
誰にも伝えてはいないが……
いざという時の為に、ディーノは切り札を用意している。
それも複数の切り札を……
やがて……
村の南門が急ぎ開かれて行く。
既にスタンバイしていたステファニーとロクサーヌ、そしてディーノが、
開かれた門から村外へ。
その後をマドレーヌ、ジョルジエット、タバサも続く。
ディーノの作戦から、振り分けられた各自の役割と戦い方は単純である。
戦い方=村の南門前で正面から敵を迎え撃つ。
役割は、2m巨躯のロクサーヌが盾役兼攻撃役、ステファニーが攻撃役、
ディーノは遊軍としてふたりをフォローする。
そして元聖女のジョルジエットが全員への回復役、魔法使いのタバサが得意の火属性魔法を行使して、後方から攻撃、サポート用の魔法も使い、支援役も兼ねるのだ。
シーフのマドレーヌは、任されたポジションに専念する、
ジョルジエットとタバサを守る役割である。
万が一、ゴブリンの攻撃を防ぎ切れない場合、各自が分断された場合、
南門を急遽開き、ロクサーヌとディーノが支えつつ、
ステファニー以下を村内へ逃がすという段取りなのだ。
しかし……
この戦い方では作戦というより、ただ普通に戦うだけである。
一体、これのどこが作戦なの?
と疑問に思う方が数多居るだろう。
だが、平凡とも見える戦いの裏側には、
ディーノによって練られた緻密な作戦があった。
実はその作戦とは……
一般の狩猟でいう『勢子』を使い、
押し寄せるゴブリンの大群を「分断する作戦」である。
多勢に無勢、少数のディーノ達が戦闘可能ぐらいの数にゴブリンを減らし、
待ち受ける門前へ誘導する! ……というもの。
それを何回か、繰り返し、最終的にゴブリンを殲滅する。
この作戦では勢子役に相当の能力が求められる。
その勢子役を務めるのが、ディーノの『戦友』、
ケルベロスとオルトロスの魔獣兄弟なのである。
既にディーノからは念話でケルベロス達へ指示が伝わっており、
対して、ふたりからは当然「任せろ!」と了解も得ていた。
だが……
ステファニー達は、ディーノの『戦友』が怖ろしい冥界の魔獣兄弟とは知らない。
少々の強さくらいは持つ、「使い魔に毛が生えた」レベルとしか考えてはいない。
それ故、作戦の説明終了後、当然ながら懸念と突っ込みはあった。
主にステファニー、そしてロクサーヌから、
「ディーノ! そもそも、あんたの戦友とやらはあてになるのぉ?」
「ステファニー様の仰る通りだぞ! お前の召喚した使い魔如きが、1万体の大群と化したゴブリンどもを蹴散らし、制御出来るのか?」
対して、ディーノは不敵に笑う。
全く臆したところはない。
「ここへ来るまでの道中を思い出してください。ステファニー様のお好きな……論より証拠、ですよ」
ステファニーはディーノから、からかわれ、挑発されたと受け止ったようだ。
柳眉を逆立てて怒る。
「はあ? 道中を思い出せ、ってどういう事よ、偉そうに!」
「いや、別に威張っていませんけど……」
「じゃあディーノ、何? 教えなさい! そして論より証拠ってどういう意味よ!」
一方、従士のロクサーヌは、何故か反論せず、納得したように頷いている。
「ふむ! 道中を思い出せ、論より証拠と言うのか……成る程な」
こうなると収まらないのが、ステファニーである。
天上天下唯我独尊を地で行く彼女には、
自分が知らない、分からない事があるのは我慢ならないのだ。
「何よ、ロクサーヌ! この私を差し置いて、自分だけ分かったなんてズルイわよ!」
「……ステファニー様、落ち着いてください。本当に憎たらしいのですが……まさにディーノの言う通り、論より証拠なのです。この村へ来る道中を思い出してみてください」
「え? 論より証拠? この村へ来る道中を思い出せ? ……あ! そ、そうか!」
ロクサーヌが諭すように言うと、ようやくステファニーも気が付いた。
起こった事象を思い出したのだ。
ディーノ達がポミエ村へ到着するまで、ゴブリンどもの襲撃が一切なかった事実。
オレリアが告げた、ゴブリン以外正体不明の、怖ろしい咆哮が森から聞こえた事実。
そのふたつを鑑みれば、おのずと答えは導き出される。
事実はけして曲げられない。
論より証拠。
怒りまくっていたステファニーも意味を理解し、ようやく笑う。
「ふん! ディーノ! 何よ! あんたの戦友って、意外に使えるのね!」
「ええ、最高の仲間ですよ」
きっぱりと言い切った、ディーノの顔は、
晴れやかに輝いていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……という事で、ディーノは改めて作戦を説明する。
ステファニー、ロクサーヌからの補足説明もあり、マドレーヌ達も完全理解。
ディーノが立案した作戦は共有され、全員賛成の下に実行される事となる。
さてさて!
ディーノ達が陣取ると、急ぎ南門は閉ざされた。
緊急事態に陥らない限り、再び開かれる事はない。
まさに『背水の陣』である。
ディーノ達の覚悟を見せ、村民達の信頼を得るにはうってつけだと言えよう。
やがて遠くの森から……
「がはぁああああああああああああああっ!!!」
怖ろしい咆哮が聞こえて来た。
びりびりと大気が振動し、地面までもが激しく揺れる。
「あ!? あ、あの咆哮はっ!?」
遥か彼方で鳴り響いているのに……
ぴりぴりと鳥肌が立ってしまう。
あの咆哮の主はディーノの戦友だと言う。
一体どれだけ怖ろしい人外なのだろう?
オレリアの心に不安の影が差す。
だが……
「ぶんぶん」と首を振り、彼女は不安を吹き飛ばす。
今は怖がっている時じゃない。
少なくとも、咆哮を発する相手は自分達の『敵』ではない。
完全に味方である。
余計な事を考えるよりも今のオレリアには『やるべき事』がある。
高所の物見やぐらから……
あらんかぎりに声を張り上げてディーノ達を応援する。
と同時に、迫り来る敵の動きも見極め、状況を逐一報せる事だ。
「ディーノさあん!! 皆さ~ん!! 頑張って~!! 死なないで~っ!!」
まさに魂の叫び!
オレリアの大きな声援が聞こえたのか……
門前にスタンバイしたディーノ達は、全員が親指を立てた拳を、
「びっ!」と頭上へ高々と突き上げた。
と、同時に!
「おおおおおおおおお~~っ!」
村内でも……
得物を手にした守備役たる村民達の雄叫び、地面を踏みならす音が、
気合の波動と共に、オレリアへ伝わって来たのである。
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