第97話「名も無き英雄①」
ここはポミエ村、村長セザールの自宅である。
打合せが終了し、ディーノ達が吐き出されて来た。
これから各自が、配置につくのである。
いろいろと議論は交わされたが……
何とか、ディーノの考えた作戦の説明が終わった……
立案された作戦に、マドレーヌ、ジョルジエット、タバサはおおむね賛成。
セザール、オレリアも同意した。
ステファニーだけが、弱気だとか、慎重すぎないかと若干難色を示したが……
渋々という感じでOKした。
意外にも……
ディーノの作戦を最も強く推したのは、
ステファニーの忠実な従士、ロクサーヌであった。
意外というのは理由がある。
そもそもロクサーヌはディーノとは馬が合わない。
彼女は覇気がない男が大嫌いなのだ。
というか、闘志が前面に荒々しく出る『熱血タイプ』がとても『好み』なのである。
ステファニーに仕えていたディーノは大人しく、感情はフラットだ。
というか、気持ちを内に秘めるタイプである。
王都に来て、ディーノを見てロクサーヌは思った。
だいぶ変わったかもしれないと。
何故なら、ディーノの作戦は秀逸だったからだ。
村民に戦いを見せ、勝利を事実とはっきり認識させ、
明日への希望を持たせるという趣旨にピッタリであった。
なお且つ、主ステファニーの、身の安全もある程度は担保される、
という大きな理由もある。
確かにステファニーは、自身が豪語するようにとても強い。
武技、乗馬に優れ、人間離れした身体能力を誇る。
ロクサーヌは、彼女の大器たる素質に惚れ込んでもいる。
だが……『量』は『質』を凌駕する場合が多々ある。
万が一のアクシデントが起こる可能性はゼロではないのだ。
巷には、一騎当千という言葉がある。
たったひとりで、千人もの敵に対抗可能なほど強い例えである。
あるいは、常人以上の技術や経験を有する事でもある。
実際、ひとりで1,000人もの敵と戦えるのかといえば話は別だ。
ステファニーは先日、オーク200体以上を倒した。
しかしロクサーヌの援護に加え、
様々な複合的な好条件が重なっての戦果なのである。
オークの方が、ゴブリンよりも強い。
それはゆるぎない事実だ。
しかし冒険者として、ロクサーヌの経験上、
ゴブリン1万体は半端な数ではない。
対してこちらはたった計6人。
もしも戦力が分断され、ステファニーが孤立無援状態ととなった場合……
彼女は確実に死ぬ。
そんな懸念が払しょくされるのだから、
ロクサーヌがディーノの作戦を推すのは当然である。
但し、たったひとつ心配がある。
それはディーノの提案した作戦が上手く機能するかどうかだ。
ステファニーが冒険者登録をする際……
ロクサーヌは冒険者としてのディーノの評判をついでに聞いてみた。
結果は……予想に反して、上々であった。
意外にもマスターのミルヴァも、サブマスターのブランシュも、
ディーノを褒めちぎったのだ。
剣技こそ、まあまあとの事であったが……
ディーノの膂力、身のこなしは相当なものであると。
『炎の飛燕』マスターのミルヴァとは模擬試合で引き分けたという。
飛竜亭における事件の顛末も聞いた。
そして、廃棄された砦にこもる100名の山賊を相手にし、首領を生け捕りにしたとも聞いた。
こうなると……
ロクサーヌが知る以前のディーノとは全く違う。
原因は不明だが、急成長を遂げたらしい。
それを実証したのが、ステファニーの拳を喰らって、ほぼダメージ無く、
起き上がったという『事実』である。
ロクサーヌ自身は、ステファニーとの模擬試合を行い、
一発でKOされた事があるからだ。
頑健な自分でさえそうなのに、ディーノが同じ拳を喰らい、
ノーダメージというのは、信じられない。
だがステファニーを嘘を付く性格ではない。
どうやらディーノは、耐久力も並外れているらしい。
そして何と!
ディーノは召喚魔法まで使う。
それも使い魔などではない、『戦友』とまで言い切った。
であれば……ディーノが召喚したのは中級以上の人外、
いわゆる『魔族従士』に違いない。
『魔族従士』を召喚可能な者は、上級以上の召喚魔法を会得した者……
それほどの上級魔法使いは、そう居ない。
膂力、体術、耐久力に優れた戦士兼上級魔法使い……
一体、あいつは何者?
と考えて、ロクサーヌはハッとした。
ディーノの隠された才能が花開きつつある結果だとしたら……
やはりステファニーは稀に見る大器。
「人間の才能を見抜く素質まである!」という事になる。
そしてディーノがとてつもない才能を秘めた、
まだ無名の『名も無き英雄』であり、
『大器』ステファニーが、その『英雄』と結婚し結ばれた場合……
ステファニーに仕える自分の人生も大きく変わる!
劇的に変わるに違いない!
ロクサーヌは一流冒険者から上級貴族に仕える従士となった……
次は自分が、一体何者になるのか!?
それって! ……凄くワクワクする!
歩きながら……
つらつら考え、想像していたロクサーヌであったが……
「何、にやにやしてんのよっ! こら、ロクサーヌ!」
「は、はい! ステファニー様」
そんな思いは、ステファニーの怒声により破られた。
ゆっくりとしていた足並みも、強引に押されたように、速足となる。
「あんたまで村民と一緒に腑抜けになって、どうすんのっ! 仕方がないわねっ! ったくう! さっさと門へ向かいなさいっ」
ロクサーヌを叱りつけたステファニーがふと見れば、
ディーノが『何か』に祈りをささげている。
ステファニーが訝し気な表情で見やれば……
ディーノが祈りを捧げていたのは、遥か昔に造られた人間の石像らしい。
ほぼ等身大だと思われる。
風雨にさらされ、傷み朽ちてはいるが……
どうやら石像の『意匠』は男性のようだ。
「ディーノもよっ! ぐずぐずしないでっ!」
「…………」
ステファニーは促したが、ディーノは両手を合わせ、跪き、祈りを捧げていた。
「ほら、ディーノ、何ぼうっとしてるのよ!」
焦れたステファニーが、再び促せば……
ディーノはようやく「反応」する。
「あ、ああ……ステファニー様か」
「ああ、じゃないわよ! あんたが立てた作戦でしょ? 先頭に立って私達を引っ張りなさい!」
「了解!」
尻を強烈に叩かれたような形となり……
苦笑しながら立ち上がったディーノは、改めて石像へ一礼したのであった。
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