第69話「復讐⑦」
翌日夜8時……
ウスターシュ・ロシュフォール伯爵は正体不明な『謎の脅迫者』からの呼び出しにより、指定された王都郊外の放棄された旧闘技場へ出向いていた。
手に持った魔導灯がぼんやりとあたりを照らしている。
ひとりで闘技場へ来いと、置き手紙には記されていた。
だが、ウスターシュはそんな約束を守るつもりは毛頭なかった。
相手に警戒されないよう、油断させるよう、
表向きはひとりで来たように見せかけていたが……
周囲に手練れの騎士、衛兵を数十名伏せ勢として潜ませていたのである。
自分や部下そっくりの人物が現れる。
不可解な出来事が続いていたが……
強きな性格のウスターシュは何も心配してはいなかった。
ただ……
少年冒険者の捕縛を命じた衛兵隊長ギョーム・アンペール騎士爵から未だに報告がない事。
命じた衛兵部隊の待機が実行された様子が無い事。
気になって確認したところ、そのギヨームが現在所在不明となっている事など。
気になるといえば気にはなった。
しかし、部下を『単なる使い捨ての駒』としか見ていないウスターシュは、
自分さえ無事ならば、ギヨームがどうなろうと知った事ではない。
ギヨームの代わりなどいくらでも居るし、
新たに任命した者も金さえつかませれば忠実な駒となる。
今回起こった事件の裏側にある隠された真実は、
『謎の脅迫者』を捕え、白状させれば一気に全てが解決する。
ウスターシュはそう確信していた。
……やがて8時となった。
闘技場フィールドに立つウスターシュは大声で叫ぶ。
「お~いっ! 約束通り、ひとりで来てやったぞ、出て来~~いっ!!」
しかしウスターシュの呼びかけに応える返事はない。
闘技場は「しん」と静まり返っている。
昔死んだ戦士達の幽霊が出ると噂される、廃墟となった古の闘技場は不気味な雰囲気を醸し出している。
このような用事がなければ、ウスターシュが普段来る場所ではない。
「何だぁ! 来ていないのかぁ! 約束を守らんとは卑怯だぞぉ!」
と、ここで、ようやく反応があった。
「はは、良く言う。約束を守らず卑怯者なのはどちらかな?」
ウスターシュが声のあった方へ魔導灯を向け目を凝らせば……
フィールドの反対側に立つ影がひとつあった。
法衣姿で頭衣を被っていて顔は良く分からない。
だが背恰好からすれば180㎝を超えていそうな長身痩躯、
巷で話題に上がっていた少年冒険者……つまりディーノの特徴とは全く異なる。
雰囲気からしてもはっきりわかる。
少年ではなく、成人の男子である。
脅迫した上、呼び出したのは、少年――ディーノとは完全な別人だ。
と、ウスターシュは判断した。
そこまで認識し、ウスターシュは叫ぶ。
「貴様! 何者だ!」
しかし影――謎めいた男はウスターシュの問いかけに答えず、質問で返して来る。
「お前こそ、ウスターシュ・ロシュフォール伯爵だな?」
「たわけめ! 貴様のような無礼者へ答える必要はない!」
ウスターシュが一喝しても、男の口調は変わらない。
全く臆していないようだ。
「まあ、良い。あんたが伯爵本人だという事は分かっている」
「名乗れ! 貴様ぁ!」
「はは、そんなに俺の名を知りたいのなら教えてやろう」
「何ぃ!」
「俺の名はオーラム。まあ忘れてくれても構わない」
オーラムとは『世界』……という意味である。
完全に「からかわれた!」と思い、ウスターシュはますますいきり立った。
「何ぃ? オーラム? よりによって世界だとぉ! 小悪党のくせに大きく出たな、どうせ偽名だろう、本名を名乗れ!」
「あはは、まもなく死ぬお前が、余計な事を知る必要はない」
「たわけめ! 何を言うか! 俺は死なん! まだまだやりたい事が山積みなんだ。死んでたまるかよ!」
「はは、憎まれっ子世にはばかると世間では言う。まあ、お前はおっさんだし、やりたい事はやっただろう? だからもう死んでも良かろうよ」
「ふざけるな! くっそ! その生意気な口を利けなくしてやる! おい、こいつを確保しろ!」
ウスターシュはそう言うと、持っていた魔導灯を高々と掲げて左右に振った。
これが示し合わせていた『容疑者確保』の合図である。
こいつが奪った書類等を隠し持っているのは間違いない。
捕えて取り戻せば、懸念は解消、問題は解決だ。
そう思うと、ウスターシュは大きな解放感に包まれる。
邪魔なグラシアス・ブルダリアス侯爵は始末したし、自分は国王の大のお気に入り。
ブルダリアスが任されていた『王国軍統括』の座は黙っていても転がり込んで来る。
しかしウスターシュの思うようにはいかなかった。
「わらわら」と出て来たウスターシュ配下達の追撃を振り切るように、
オーラムと名乗った男は信じられないくらいの跳躍力で、
10mほどもある背後の壁に飛び上がったのである。
壁の天端に立ったオーラムはきっぱりと言い放つ。
「……遊びはここまで、もう終わりだ」
「何だとぉ!」
「俺がさっき言ったようにお前はもうすぐ死ぬ。ほら、耳をすませてみろ。死を告げる裁きの声が聞こえて来る」
一瞬ハッとしたウスターシュが、オーラムに言われた通り耳をすませたが……
何も聞こえやしなかった。
「貴様! 何を戯言を!」
しかし!
オーラムの姿は壁の天端から消えていた。
ウスターシュが、ほんの少し目を離した隙の出来事である。
瞬間!
何者かの大きな声が響き渡る。
「ウスターシュ・ロシュフォール!!! 貴様は包囲されている!!!」
「な!」
「お前は知っているだろうが、一応名乗ろう。私は副宰相のシルヴァン・ベルリオーズだ。宰相フィリップ様の命により、反逆容疑の貴様を逮捕すべく我が麾下の騎士隊1,000名余と共に参上した」
「なななな! は、反逆容疑!?」
ウスターシュが慌てて魔導灯をかざすと、いつの間にか周囲は大勢の騎士達で埋め尽くされていた。
100人やそこらではない、もっと大人数だ。
「これも言っておくが、抵抗は無駄だ。配下の衛兵と共に素直に縛に就け。ロシュフォール!」
「お、俺は無実だぁ! こ、国王陛下にとりなして……」
「却下! 陛下のご了解もご実弟のフィリップ様がお取りになっている」
「え、えええっ!?」
「お前は逮捕され、厳しい取り調べを受ける。確たる証拠は揃っているが、弁明だけは自由だ。まあ何をしても極刑は免れないがな」
「ば、バカなぁ~~っ!!!」
遂に悪運が尽きた……
夜の旧闘技場には、ウスターシュから発せられた絶望の叫び声が、
大きく大きく響いていたのであった。
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