第6話「不思議な夢③」
ディーノの反応を見て、少し苦笑しながらも、ロランは詳しく説明してくれた。
『導き継ぐ者』という称号の真の意味を……
『簡単に言うのなら、これから君を慕って周りにはたくさんの人々が集まって来るだろう。誰もが君を精一杯支え、逆に頼りにもする』
『…………』
『更にここが肝心かも。導き継ぐ者とはつまり優れた素質やスキルを受け継ぐ者でもある』
『…………』
導き継ぐ者とはつまり優れた素質やスキルを受け継ぐ?
果たして、そんなに美味すぎる話があるのだろうか?
用心深いディーノは甚だ懐疑的だった。
『導き継ぐ者を自分のスキルに有する者に、僕は出会った事はない。というか導き継ぐ者を有する英雄は、今までに世界に数人しかいないと古文書には記されていた。僕の生きた時代には居なかった。まさか死して出会えるとは思わなかった!』
『…………』
『ディーノ君。君はね。人生の志半ばで斃れた、僕のような者の力と遺志をしっかりと受け継ぐ事の出来る類稀な能力者なんだ!』
ロランは更に熱く語った。
目が興奮でギラギラ輝いている。
ディーノは驚いた。
そして戸惑った。
ロランの顔付きは、嘘を言っているようには見えなかったからだ。
『こ、こ、この俺が!? ロランさんのような? 志半ばで斃れた者の力と遺志をも継ぐ……類稀な能力者……』
改めて見ても、ロランはふざけているとは思えない真剣な顔付きだ。
軽く息を吐き、何とかクールダウンしたディーノは……
もう少し詳しく話を聞いてみようと思う。
もしかしたら、『導き継ぐ者』にほんの少しだけ興味が出て来たのかもしれない……
更にロランは熱心に励ましてもくれた。
『うん、その通りさ、ディーノ。だから自信を持つんだ』
自信を持て?
否、持てるはずがない。
あの自称幼馴染の猛女ステファニーからは、
馬鹿、間抜け、ゴミ屑、負け犬、雑魚等々、
散々駄目な男だと罵倒されていたのだから……
何とか、自分を見失わないよう支えるだけで精一杯であったのだ。
『で、でも……ロランさん、俺には自信なんかありません。誰からも褒められた事などありません。平凡で何のとりえもない駄目な男なんです』
『成る程……ディーノ。これまで君は、心身とも散々痛めつけられ、疲弊していたから、そう思い込んでいるんだ』
『そうかもしれません……。確かに我慢強くなりました。体力も昔よりは全然あります。でも本当に何の取り柄もないんです』
『ふふ、自分を卑下するものじゃないよ。果たしてそうかな?』
『絶対にそうです! だから目立たず地道に安全に生きて行くしかないんです』
目立たず、安全に、そして地道に……
それは今迄、ステファニーに虐げられて来た反動かもしれなかった。
何故か、度々ステファニーの事を思い出し、ディーノは苦笑する。
悪い記憶は、少しでも早く消去しなくてはならない。
一方、ロランはこれ以上議論しても、不毛だと考えたらしい。
笑い飛ばして、素敵な諺を告げて来る。
『はははははっ! じゃあ論より証拠だな』
『論より証拠!?』
『ディーノ、今、君と僕が居るここは夢の世界だ、現在君は眠っている』
『ゆ、夢の世界!? ここが夢!』
ディーノはまたもびっくりして、周囲を見回した。
頬もつねってみる……痛い!
確かに痛い!
感覚がしっかりある!
この世界に来た当初も感じた。
リアルで夢とは到底思えない。
そんなディーノの心をまたも読んだのか、ロランは種を明かしてくれた。
『ああ、僕は夢魔法を使って、君の見ている夢の世界で話している』
『な! ゆ、夢魔法!?』
『もしかしてお父さんから聞いた事があるかい? 夢魔法ともいうよ』
『…………』
夢魔法など父から聞いた事はない。
ディーノが持つ魔法知識は地・水・風・火の四大元素を根幹とした精霊魔法、
そしてピオニエ王国ではポピュラーな魔法式というマニュアルを使用した誰もが知る一般的な魔法くらいである。
『夢魔法とは、本来人外たる夢魔が使う人間を騙す為の禁断の魔法、つまり禁呪さ。ちなみに夢の世界は魔力伝導がし易い。その為に能力の受け渡しもし易い。今後の事もあるから、覚えておいた方が良いぞ』
『むむむ……ロランさんの話、いちいち難しいです』
『はは、難しいというよりも、君はまだ戸惑い混乱し迷っているみたいだね? だからこその論より証拠。目が覚めたら実際にどんどん試してみたら良い』
『た、試すのですか?』
『ああ、周囲の状況を見て、安全だと判断したらどんどん試してみてくれ』
『は、はい……』
『通常は発動には必須の言霊も呪文も君には不要さ。心で念じるだけで構わない、僕と同じく無詠唱で行使出来るから』
『は、はぁ……』
やはりディーノは信じられない。
無詠唱の魔法発動どころか、呼吸法の訓練さえも未経験の彼には無理もない。
そもそも魔法の発動には複雑な言霊や呪文の知識習得は勿論、呼吸法、精神の安定と集中、円滑に詠唱する等、数多の訓練が必要なのだ。
『全く信じられないって感じだな? 大丈夫! 僕を信じろ! さっき送った波動は、しっかりと君の心へ刻み込まれた、後は勉強と鍛錬をしっかりと、ひたすら精進してくれ』
『う~ん……そうでしょうか? あまり実感が湧きません』
『間違いない! 君は僕の持っていた読心魔法、夢魔法、そして召喚魔法の3つを受け継いだんだ、死にゆく僕は才長けた後継者が出来てとても嬉しいよ』
『お、俺が……ロランさんの持つ3つもの魔法を受け継いだ……才長けた後継者』
『おっと! まだまだ戸惑っているようだから、詳しく説明してあげたいが、そろそろ時間切れだ、行かなきゃ! 愛する家族が僕の帰るのを今か今かと待ってるからね』
『え?』
『でも、まだ君に伝えるべき事がふたつもある! 急いで言うよ、よっく聞いておいてくれ』
ロランはぎりぎりまで、ディーノの為にアドバイスしてくれるようだ。
ありがたい!
ひと言も聞き漏らすまいと、ディーノは身構える。
『は、はいっ! お願いしますっ!』
『ひとつは僕からの忠告だ』
『忠告?』
『ああ、読心魔法は人の心の真偽をズバリと見抜く。誰も君の前で嘘はつけない』
『嘘を……つけない』
『ああ、そうさ。だから君は絶対に読心魔法の術者だと悟られてはいけない。考えてごらん、もしも逆の立場だったら、相手がどう思う?』
魔法の難解な話とは違い、このような話ならディーノにも良く分かる。
ディーノ自身も引き取られたルサージュ家で生きて行く為に様々な手立てを尽くした。
生き抜く為に、プライドを捨て、主のステファニーへこびへつらいをして来た。
簡単にいえば……
夢魔法だけではなく、授けた種々の魔法を要領よく使えという事なのだろう。
理解し納得したディーノは大きく頷く。
『……た、確かに! 下手をすると話した相手が疑心暗鬼になり、理由もなくひどく恨まれます』
『だろう? 充分に気を付けてくれ。万が一突っ込まれたらうまく誤魔化すんだ』
『は、はい!』
『もうひとつは君に贈る餞別の事だ』
『餞別?』
『うん! プレゼントするのは異界から魔物を呼ぶ召喚魔法を使う際、とても役に立つ……五芒星を象った銀製のペンタグラムだ。僕が長年護符として愛用したものさ』
それって……ロランの大切な形見ともいえる魔道具ではないか。
初対面の自分がそんな貴重品をほいほい受け取れるわけがない。
『そ、そんな大事なものを! 頂けません!』
『構わない! 死んだ僕にはもう必要ないからね。枕もとに置いておく、君が大事に使ってくれ』
ロランは自分にはもう必要ないからと、ディーノに役立てるよう勧めて来る。
考えた末、ディーノはロランの好意を感謝して受ける事にする。
『あ、ありがとうございます! じゃあ遠慮なく大事に使わせて頂きます!』
『そう言って貰えると嬉しい、ありがとう! 今度こそもう時間だ。じゃあ、行くよ、さらば、ディーノ!』
別れの言葉と共に……
ロランの姿が透明化し、徐々に消えて行く。
折角親しくなれたのに!
そんな寂しい思いを抱えながら、ロランが無事家族と再会する事をディーノは祈った。
『さ、さよなら! ロランさん!』
『ディーノ、良いか、もっと自信を持って前向きに生きるんだ! 己の人生を諦めるな! けして卑屈になるな! そして情けは人の為ならずというぞ、出会った人達と支え合い強く生きろ』
『は、はい!』
『ディーノ! 君の人生における素敵な出会いと幸運、そして大きな成功を祈っている!』
最後に叱咤激励の熱い言葉をディーノへと贈り、
ロランの姿は完全に消えてしまった……
瞬間!
ディーノの意識は夢から覚め、完全に現実世界へ引き戻された。
目覚めたディーノは……ゆっくり目を開けてみる。
昨夜泊まった宿屋の一室で、自分はベッドに横たわっている。
果たして枕もとには……単なる夢ではない証拠に、
使い込まれた感のある『渋い銀製のペンタグラム』が置かれていたのである。
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