第4話「不思議な夢①」
歪んだ愛情に執着する令嬢ステファニーが、フォルスの城館で地獄の悪鬼と化していた頃……
ディーノは順調に旅を続けていた。
ステファニーの魔手から逃れ、解放感に満ち溢れ、浮き浮きするディーノを乗せ……
王都ガニアンを目指し、フォルスを出発した馬車は……
途中、小さな村に立ち寄った後、
本日の宿泊場所であるジェトレへ到着した。
だがディーノは主ルサージュの温情に甘えっぱなしで、ただ馬車へ乗せて貰っていただけではない。
商隊リーダーのブノワ・アングラードへ自ら雑用を買って出て、
誰もが嫌がる仕事まで率先して引き受け、真面目にひたむきに働いたのだ。
対してブノワはそんなディーノを好ましく思ったらしい。
取り引きや商売に興味を示すディーノに対し、基本的な事を丁寧に優しく教えてやった。
やがて夕方となり……もろもろの後片付けが終わった。
スタッフへ支給されるまかないの食事も済み、ディーノはようやく雑務から解放された。
……就寝まで、自由時間を与えられたディーノは、ほんの好奇心からジェトレを探索して見る事にした。
このジェトレはピオニエ王国建国前から存在する歴史のある村である。
一応『村』という名称が付いているが、人口は5千人を超えるれっきとした町だ。
今迄ディーノ親子が住んでいたフォルスが人口約1,500人だった事を考えると、遥かに大規模で王都の雰囲気に近い。
定められた法律により、ピオニエ王国では満16歳で成人となる。
ディーノはまだ15歳の未成年なのでカジノや酒場などはパス。
……ディーノはふと16歳になったステファニーを思い出す。
下手をしたら、来年あの子と結婚するところだったと、改めて身震いする。
そうなったら間違いなく尻に敷かれる最悪の日々が待っていた。
いや、尻に敷かれるなど可愛い表現は全然妥当ではない。
身も心も支配され、死ぬまで続く、否、生ける屍、
不死者のゾンビにされても、こきつかわれる無間地獄の確定……
とんでもなく『ど』が付く不幸な『結婚話』である。
さてさて!
改めて安堵し、解放感に満ち溢れたディーノが商店街の各店を冷やかしながら歩いていると、やがて通りを抜け小さな墓地へ行き当たった。
踵を返し、商店街へ戻ろうとしたディーノだが、
父が死んだばかりでもあり、何となく気になった。
改めて墓の様子を見やれば、おかしな事にどの墓標にも名が刻まれていなかった。
……どうやら無縁か無名墓地のようだ。
周囲を見回したが、墓守りも居ないようで、墓標は汚れ切っていた。
供えられている花も無し。
それどころか、雑草が伸び放題で荒れ果てている。
この様子では、死者を弔う為、お参りに来る者は皆無なのだろう……
ディーノは墓地を眺めていて、葬られた者達が見捨てられたように感じて、
哀れになり悲しくなった。
死せば人間の魂は天へ還ると、この世界の宗教・創世神教の教えにはある。
墓場に眠っている亡骸は単なる器に過ぎないとある。
しかし父を失ったばかりのディーノは……
死して打ち捨てられた者達の無念さを感じ、少しでも供養してやりたくなった。
ディーノは急ぎ商店街へ戻ると、雑貨屋で新品の綺麗なタオルを数枚、大きなバケツも買い、花屋にも寄って大きな花束をいくつか買った。
まとまると結構な荷物量であったが、途中にある井戸でバケツにも水を満たし頑張って墓地内へ運び込む。
時間があまりない。
まもなく商隊の人達が宿泊する宿へ戻らねばならない。
ディーノは早速、掃除に取りかかった。
「ぼうぼう」に伸びた雑草がとても厄介であったが……
父の形見となった剣が鎌代わりとなり、何とか上手く刈る事が出来た。
2時間後……ようやく掃除は終了した。
雑草は完全に刈られ、墓標はタオルでピカピカに磨きあげられた。
仕上げに、ディーノは各墓標に一輪ずつ、購入した花を供えて行く。
そしてそれぞれに頭を下げ、黙とうした。
満足したディーノは墓地を出た。
振り返ると、最初に見た時とは見違えるくらい、墓地は綺麗になっていた。
供えられた色とりどりの花が、寂しさをだいぶ和らげている。
どうか……
安らかに……眠ってください。
そう念じて後にした。
結局、予定していた街の見物は出来なかった。
だが、ディーノは大いに満足であった。
宿へ戻り、身体を拭いてさっぱりすると、そのままベッドに潜り込んで眠ってしまったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……ここは、どこだろうか?
宿屋で寝ていたはずなのに……気が付けば、いつの間にか、
ディーノは見た事もない場所に居た。
周囲を見渡せば、緑深い広大な森の中であった。
ぐるりと見渡したが、人の気配はなかった。
美しい森である。
空気が清々しい。
身体が軽く、気持ちが良い。
しかし何故か、不思議な世界であり、リアルなのだが、曖昧な感覚も伴う。
はっきりと言い切れる。
ここはフォルスではない。
幼い頃住んでいた王都ガニアンでもない。
本日、たどりついたジェトレでもなかった。
一体どこで、何故自分はここに居るのか、皆目見当もつかなかった。
その瞬間。
『ディーノ君』
耳が拾う肉声ではない。
ディーノの心の中で不思議な声が響いた。
『え?』
聞こえたのは……全く覚えの無い声である。
だが声の主は何故かディーノの名を知っていた。
一体、どこの誰であろうか?
『こっちだよ、こっち』
ディーノが声のした方を振り向けば……
背後に古風なデザインの濃いグリーンの法衣を着込んだ、
長身痩躯の男がひとり立っていた。
男の顔は……法衣に付いた頭衣により隠れていて、良く見えない……
「あ、貴方は?」
ディーノが尋ねると、男は名乗る。
相変わらず心に響く不思議な声で。
声の調子からすれば少年とはいえないが、けして年寄りではなく比較的まだ若い男らしい。
『僕はロランという者だ。かつての仕事は君のお父さんクレメンテ・ジェラルディと同じ、元は冒険者だった』
『ロランさん……俺のお父さんと同じ……元冒険者』
男……ロランの告げた内容をディーノであったが、ハッとし、我に返った。
浮かんだ疑問は全く解けていないからだ。
まず今居る場所がどこなのか?
目の前のロランは何者なのか?
そして見ず知らず、初対面のロランが、何故自分の名と父の名、
加えて父が冒険者であった事を知っているのか?
ディーノが首を傾げた瞬間。
ロランは意外な行動に出た。
何と!
ロランはディーノに向かって、深々と頭を下げたのである。
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