第106話「魔法剣士クロヴィス・アシャール②」
クロヴィスは、感極まったらしく……
しばしの間、言葉を発さなかった。
『…………』
『ええっと、あのぉ、クロヴィス様?』
ディーノが恐る恐る声をかけると、クロヴィスはようやく『自分の世界』から戻って来た。
『ああ、すまん……私にとって、エマとの出会いは生涯忘れられぬ運命の出会いなのだよ』
『エマさん? ……ですか?』
『ああ、エマだ』
クロヴィスが出会ったエマというのは……
オレリアが言っていた、ポミエ村出身の少女の名であろう。
『ポミエ村を襲った魔物どもを何とか退けた私はエマと恋に落ち、この村に永住した。結局、世界の人々を救うという夢は完全には果たせなかった』
『良かったというか、残念というか、幸せは手に入りましたが、夢が叶わず微妙ですね』
『ああ、君の言う通り、幸せは得たが、夢は叶わなかった。魔物へも復讐は出来なかった』
『…………』
『魔物に襲われ死んだ家族の事を思えばとても悔やまれる。だが……全力を尽くした結果の人生だ、まったく後悔はしていない』
『…………』
『私はポミエ村を救い、エマと幸せに暮らす事が出来た。それで満足だ』
『成る程……』
『ちっぽけな人間の力では、大いなる運命に抗う事は、難しいのかもしれん』
『…………』
『だから、その場その場で、出しうる全力を尽くせればそれで良い』
数奇な運命に翻弄されたクロヴィスは、達観したように言い切った。
やれる事をやり、持てる人生を完全燃焼した。
クロヴィスは、そう言いたいに違いない。
当然、ディーノも、余計な事を言うつもりはない。
『ええ、そうかもしれません』
『うむ! というわけで、申し訳ないが、導き継ぐ者ディーノよ。私の魔法剣士としての能力と共に、果たせなかった夢も継いで欲しいのだ』
クロヴィスから告げられた夢……
それは、世界を救う事。
とてつもなく大きすぎる夢であり、ディーノ自身は荷が重過ぎると感じる。
『いえ、ちょっと待ってください。クロヴィス様のお考えは確かに素晴らしいし、お持ちである魔法剣士の能力はとても魅力的でしょう。でも、俺如きが世界を救うなんて、到底無理ですよ』
『はははは。大丈夫、夢を完全には果たせなかった、私はそう言っただろう?』
『…………』
『ディーノよ、己が実行出来なかった事を何故、君へ強いる事が出来ようか』
『…………』
『もしも、私の志を完遂出来なくとも、君が前向きな思いを持ってくれれば良い。無理をして世界全てを救う事はない』
『…………』
『このポミエ村だって世界だ。本当に小さな村だけど、確実に救おうとした世界の一部なんだからね』
『…………』
『ポミエ村を救った私自身、そう思ってる。この村を救った事を誇りにしている。そして残りの人生を使い、エマを幸せにし、第二の故郷を守り抜いた』
『…………』
『それだけで、私はこの世に生まれた価値があると思っているんだ』
『…………』
『ディーノ』
『はい! 何でしょう?』
『真っ向から否定されてしまったが……君はやはり間違いなく勇者なのだ』
『…………』
『君は……底知れぬ素質を秘めているのさ。私には分かるぞ』
『…………』
『秘めた素質は既に著しく開花しつつある。自信を持ち、私の力も堂々と継いでくれ』
『…………』
『論より証拠さ。既に君は立派に身体を張って、外敵を圧倒し、私とエマのポミエ村を救ってくれた』
『…………』
『ディーノ、私は君へ全てを託し、天へ還る。天で待つ……エマの下へ還るのが嬉しい……ありがとう』
クロヴィスは礼を言ったが、ディーノは首を横に振った。
『まだです! まだ危険は……ポミエ村の危機は去っていません。だから俺は最後まで全力を尽くします!』
『ディーノ! そう言って貰えると心強い。……だが死ぬなよ』
『はい!』
『うむ、そろそろ時間のようだ。……では君に私の力を渡し、天へ還る前にふたつ、遺言を伝えよう。心して聞いて欲しい』
『遺言をふたつ?』
『うむ! ひとつめは私の子孫を……オレリアを宜しく頼む。結婚するのか、恋仲になるのか、任せるが……どうか、優しくし、慈しんでやって欲しい』
『分かりました』
『もうひとつは私を象ったこの石像だ。私が天へ還った後、君が行使する地の究極魔法で有効に使ってくれ』
『え?』
何と!
ディーノがグラシアン・ブルダリアス侯爵から受け継いだ地の魔法を、
クロヴィスは知っていた。
驚くディーノを尻目に、クロヴィスは話を続ける。
本当に時間がないようだ。
『私とエマの子供達……オレリア達の目の前で……この石像が見事に外敵を排除すれば、君と共に、彼等彼女達へ大きな勇気を与え、これからの人生に対し、前向きになれるだろう……』
『………………』
『そしてポミエ村は、また次の世代へと受け継がれて行く……』
と、その時。
ディーノの心を、全身を、何者かが通り過ぎたような感触を味わった。
『今、私の力を渡した』
『え?』
『ディーノ、君の心と身体へ剣技と体術、そして魔法の極意を刻んだ』
『…………』
『最高の極意を得るために、更なる修練は必要だが、君は既に火と風の力を使いこなす魔法剣士となっている』
『…………』
『私が極めた至高の魔法剣だ。心にイメージするだけ、無詠唱で使えるぞ。世の為に役立ててくれ……では、さらばだっ!』
クロヴィスから最後の……別れの言葉が響いた瞬間。
ずっと閉じられていたディーノの双眼が、ゆっくりと開かれたのである。
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