商談成立
「この方がフェニア様です。
この方をモーズグスまで逃がすのが俺の仕事です。
この方は「もう滅亡した」と言われているヘイムダル王族の生き残りで王女です。」隠れ家にヘズンさんを連れて行く。
「なんでここに人を連れて来るんだ!?。
我々の味方になるとまだ決まってないんだろう!?。」とケインが喚く。
「もう時間がないんだ。
こちらの誠意を見せるために、お姫様に会ってもらうしかない。
少なくとも『こちらに貴女を裏切るつもりはない』という態度を見せるべきだ、と思ったからここに連れて来た。
俺は彼女以外に声をかける気はない。
彼女以外の商人は絶対に我々を裏切る。
それだけ彼女は『商人として』の矜持に命を賭けている。
彼女の信頼を得るためにここに連れてくる必要があった。
だいたい、ここにいつまで隠れていられると思ってるんだ?。
今まで、最長で何日隠れていられたんだ?。」
「・・・3日くらいか?」とケイン。
「隠れ家にする場所も悪かったんだろう。
でも俺が手配した隠れ家だって、あと一週間が限界だ。
安全をみたらあと3日で出発すべきだ。
商人を手配して、馬車を手配して、馬車馬を手配して、あと護衛を二人手配して、荷物を積み込んで、あと3日だ。
もう一刻の猶予もないんだよ!。
一か八かヘズンさんを連れて来た。
俺を非難するならケインに何か良い策はあるのか!?。」と俺は叫ぶ。
ケインも気付いていないだろうがこれは演技だ。
ヘズンさんに「迷っている時間はない」とアピールするための。
「初めまして。
私はフェニアと申します。
もう既に亡国ですが、かつては『ヘイムダル』という国の第四皇位継承者でした。
今は追っ手から逃れて、許嫁のいる『モーズグス』へ逃れる旅を送っております。」フェニア様がヘズンさんに丁寧に挨拶する。
ヘズンさんは目を白黒させて驚いている。
宮廷魔術師くらいだと思っていて、まさか王族だとは思わなかったのだろう。
「王女様、お初にお目にかかります。
私は身分の卑しい者なので数々の無礼の段、お許し下さい。
早速ではありますが、王女様は私に何をお望みですか?。」とヘズンさん。
「私はモーズグスの許嫁の元へ参ります。
その足を確保しようと、モーズグスに行く商人を探しておりました。
我々は無一文ですので、貴女に支払うお金がありません。
なので、馬車に乗せる商品は全てこちらで準備いたします。
営業許可証もこちらで準備いたします。
関所も『オーズ』様の名前を出せば顔パスでしょう。
こちらで準備する商品とは『マジックポーション』です。
ヘイムダルの滅亡で質の良いマジックポーションは大高騰しています。
貴女は今回の取引を終えれば、一生働かなくて済むだけのお金が手に入るでしょう。
それより何より『商人として最も大事な物』『大陸最大最強王家とのコネクション』が手に入ります。
これが我々にとってのラストチャンスです。
つまり、これより後に貴女だけでなく誰かに商談を持っていくことはありません。」
「つまり?」
「つまり貴女に断られた時点で我々はこの街を生きて出ていく事はありません。」フェニア様は苦笑しながらもハッキリと言った。
なんだ、お姫様もわかってるんじゃないか。
「もう後がない」のだ。
「今すぐ返事が欲しい」のだ。
「わかりました。
その商談に乗らさせていただきます。」