お姫様の思考
「アンタ、婚約者がいるんじゃないか!?。」
「そうです。
その婚約者の元に逃がしてもらう・・・という予定だったんですが、貴方の女にされてしまいました。
責任を取って下さいね。」
わかってる。
多分何もしていない。
大体『婚約者のところに連れていけ』って話なのに『貴方の女だ』って意味不明だよな?。
「一つだけ聞きたい。
アンタ、婚約者の事愛してないのか?。」と俺。
「愛してる訳ないじゃないですか。
顔すら見た事ないんですよ?。
単なる政略結婚です。
結婚に恋愛感情なんてあるわけないじゃないですか。」とフェニア。
言ってる事は無茶苦茶に思える。
でも、フェニアの中で矛盾は一つもないのだ。
「好きな人と結婚などしない」これは王族に産まれた者の常識かも知れない。
従者の人らもフェニアが変な事を言っているのは百も承知だ。
承知の上でこの変さに賭けたのだ。
俺が「世間知らずのお姫様」って同情して『逃がし屋』の仕事を受けるかも知れない・・・と。
それに一時的にでも、お姫様と恋人同士というシチュエーションを楽しめる・・・お姫様本人が酔いつぶれた俺を騙す気満々なのが気に食わないが。
「わかったよ、アンタらをモーズグスの国境まで連れて行く。
・・・ったく、俺を騙したんだ。
誇って良いぞ。
だけど、俺が面倒を見るのは国境までだ。
あとは勝手に生きて勝手に死んでくれ。」と俺。
モーズグスに行くのに必要な物を揃えなくちゃいけない。
まず幌付きの馬車だ。
行商人の偽装をするために幌付きの馬車は必須だ。
幌の中にお姫様は隠れるんだし。
あとは馬車を引く馬は二頭は必要だな。
後は行商人に見える最低限の商品を積まないとな。
エルグルとモーズグスは農産物とか水産物の交易が全くない。
モーズグスは見渡す限りの凍土で、イモが何種類か取れるだけだ。
エルグルはほとんど海産物が交易品を占めているけれど、内陸のモーズグスに持って行く海産物はない。
だからモーズグスとエルグルはほとんど交易がない。
農業・漁業従事者がエルグルからモーズグスへ行くなんて「お前ら何しに行くの?」ってなもんだ。
だからせめて商隊のフリをしなくてはいけない。
馬と幌付きの馬車だけでなく、商材も手に入れなくちゃならない。
護衛の冒険者も雇わなくてはならない。
それは護衛の二人を冒険者に偽装させても良い・・・にしてもたった二人だ。最低でも後二人護衛の冒険者を雇わなくちゃいけない。
そんな金がどこにある?。
もうフェニアも高価な装飾品、逃げながら売りつくしたらしい。
つまりコイツらどこにも財産がない。
「しょうがない。
商人ごと馬車を手に入れるか」二日酔いの頭をさすりながら俺は呟く。
「商人?。」フェニアはなんの話かわかっていない様子。
まあ、フェニアに企みがバレてるなら、この逃亡計画は最初から失敗だよな。