仲介屋
「何でそんな話になったんだ?。」
「『ヘイムダル』が『バルドル』に負けて滅ぼされたのは知ってるよな?。」
「何でも『バルドル』が『ヘイムダル』に凄惨な殲滅戦をしかけたんだろ?。
元々両国間には『不可侵条約』があったのにそれを『バルドル』が一方的に破棄して攻めこんだんだろう?。
『ヘイムダル』は永世中立国だから、条約を結んでいる『バルドル』国境付近に全く国防のための兵力を置いていなかった・・・だよな?。」
「その通りだ。
『ヘイムダル』の元々の軍事力は低い。
魔法技術に長けた国ではあったが、その技術を他国に供出するのに全く躊躇いはなかった。
『バルドル』に攻めこまれて、一昼夜で『ヘイムダル』は全土を蹂躙されている。
奇襲だとしても後から簡単な戦時条約は締結するものだが、条約を締結するより前に『ヘイムダル』は惨敗している。
だから『バルドル』軍はやり放題。
『ヘイムダル』城下町は今『男は殺せ、女は犯せ』の地獄絵図らしい。
そして王族、貴族は皆殺しらしい。
しかし、一人王族が生きていた!。
その王族って言うのは隣の隣の国に国賓に出ていたお姫様だとよ!。」
「話が見えてきた。
今回の俺への依頼は、そのお姫様を逃がして欲しい訳だな?。
しかし・・・『誰から』『どこから』『どこへ』『どうやって』逃がせば良いんだよ?。
戦争が起こった時は『ヘイムダル』国内にはいなかったんだろ?。
そのままどっかに逃げちまえば良かったじゃねぇか。
ていうか逃げるところなんてないんじゃねえか?。
敵は強大で味方の生き残りはいない・・・。
国賓でどこかへ行ってたなら、そのままそこで身を寄せちまえば良いんじゃねえか?。
動く事が一番危険だろ?。」
「確かにお姫様は『レージングル』の国賓だった。
第一報がお姫様の元に飛び込んで来た時に、『レージングル』の人々は『今すぐ動くのは得策じゃない。今は同盟国である我が国にいるべきだ。』と言ったらしい。
ただ、『ヘイムダル』が一日で『バルドル』に滅亡されて『バルドル』の軍事力を目の当たりにしたら『レージングル』の宰相はお姫様を捕らえて『バルドル』に引き渡そうとした。
お姫様少ないお付きの人々とこの『レージングル』と国境を接していた『エルグル』の港町に逃げ込んだ。
そして今に至る・・・って訳だ。
『エルグル』も『バルドル』と敵対したくない。
おそらく、お姫様を『バルドル』に引き渡そうとする。」
「つまりはお姫様にほとんど逃げ場はない訳だ。
しかし『逃げ場がないヤツは逃がさない』これが『逃がし屋』の数少ない決まりだ。
あるんだろ?。
お姫様を逃がす場所。」
「ある。
お姫様は北の軍事大国『モーズグス』の第四皇子の許嫁なんだ。
『モーズグス』は『バルドル』の軍事行動を公式に非難している。
しかも『モーズグス』はお姫様を引き取ると言っているんだ。」
「じゃあ『モーズグス』に行く、で決まりじゃないか。」
「そこで『誰がモーズグスまでお姫様を連れて行くか?』って話になるんだ。
お姫様の潜伏先は秘密だから、モーズグスの連中は知らない。
だいたい知ってたところで、お姫様を迎えに軍を動かす訳にもいかない。
結局はモーズグスまで『誰かが』お姫様を逃がさなきゃならない。」
「理屈はわかった。
だが、リスク・リターンが合ってない。
リスクが大きすぎる。」
「だから俺って仲介屋のところに話が来たんだろう。
俺は依頼者を絶対に売らない。
その話を受けないとして、どれだけ金になろうとも、どれだけ圧力をかけられても、どれだけ命の危険があろうとも、俺を信用して依頼してきたヤツを裏切ったりしない。
お前が俺以外と仕事をしないのも、その部分だけは信用しているからじゃねえか?。
・・・とにかくお姫様にとって、俺とお前が最後の希望だ。
話だけでも聞いてやったらどうだ?。」