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逃亡記  作者: 海星
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敗戦処理

 勝負は『勝つ』か『負ける』かだけが大事なのではない。

 時に『負け戦をどう畳むか』が重要になってくる。 

 『もう立ち直れないボロ負け』もあれば、『明日の勝利の布石になる負け』も負けだ。

 俺はいわゆる『負け戦のプロ』だ。

 名乗った事はないが周りからそう言われちまっている。


 俺は親の顔を知らない。

 物心ついた頃には俺は盗賊団に所属していた。

 周りの大人達は俺が盗賊だとわかっていながら、俺を微笑ましく見守ってくれていた。

 俺の入っていた盗賊団は『義賊』と呼ばれていた。

 街の連中は俺が盗賊だと知りつつも、受け入れていた。

 俺が『黒いリスト』に名前を残さなかったのは「街の連中に守られていたから」だ。

 政府にとって盗賊団は目の上のたんこぶだった。

 政府は盗賊団の殲滅を計画する。

 しかし「この国を良くしよう」という連中は盗賊団の味方だった。

 この『盗賊団殲滅計画』は二ヶ月前に盗賊団に伝えられていた。


 しかし殲滅計画は大掛かりな物だ。

 かつて盗賊団の被害を受けた貴族、商人が全面的にバックアップしている。

 そいつらはこの国を牛耳っていて、そしてこの国を腐敗させている。


 いくら義賊とは言え、国相手には戦えない。

 負け覚悟で戦ったとして、盗賊が闘うのは自分らの味方をしてくれた下っ端戦士達だ。

 彼らの親兄弟は街の仲間達だ。


 「逃げよう」

 これが俺の初めての逃亡戦になった。


 逃げた。

 逃げた。

 仲間のほとんどが命を落とした。

 俺は仲間達に護られた。

 こうやって、俺は逃げる術を覚えた。

 「強くなりたいな」思わない日はなかった。

 もちろん剣の扱い方も少しは覚えた。

 けっこう器用で投げナイフの扱い方などは、なかなかのものだ。

 しかし上がるのは『逃がし屋』としての腕ばかりだった。


 俺は大人の仲間入りする年頃だった。

 仕事は『逃がし屋』。

 訳あって、今の環境から遠くへ逃げようとしているヤツらの手助けをする仕事だった。


 逃げる理由は『駆け落ち』『借金』など色々だが、共通点は「逃げる時は財産を持たず身体一つで逃げる」という事だ。

 つまり、ソイツらの味方をしても大した金にはならない。

 「これは母の形見のネックレスです」と震える手で渡そうとされても、俺はソイツを受け取れない。

 思わず「ソレは大切にしまっておきな」なんて格好つけて内心「俺のバカ!」なんて叫んでしまう。


 わかってる。

 綺麗事じゃない。

 金は大事だ。

 でも俺を庇って命を落とした連中にとって、『俺』は、『正義』は金より重かったはずだ。


 受け取った金額より、逃がすのにかかった費用の方は高いなんてしょっちゅう。

 結果的に報酬を受け取らずに「それはアンタが将来幸せになったとしたら三倍受け取るよ」なんて、受け取らない言い訳を口にしたりする。

 内心「受け取れよ、明日からどうやって暮らすんだよ!」なんて思ってたり。

 情報集めなんて言って夜の街で働いていたり、男娼の真似事をする。

 本音は金が必要だからだ。

 だが金は弱者から奪わない。

 これは死んだ仲間達と約束した決まりだ。

 「強くなりてーな」

 弱いから逃げなきゃいけない。

 

 ただ自己評価と他人の評価は全く別だった。

 『逃亡成功率68%』

 この数字を俺は恥じている。

 一度仕事を受けたからは絶対に逃がさなきゃいけない。

 しかし逃亡成功率が50%を越えている逃がし屋なんてほとんど存在しない。

 その上、正体がバレていない実績を残している逃がし屋など俺以外には皆無だった。


 でもそんな事は俺は知らない。

 俺と同業者らしきヤツを酒場で見る。

 『逃がし屋』は身分を明かさない。

 だが、時に当局に連行されるヤツがいて『アイツが逃がし屋だ』と噂される。

 逃がすだけで連行される場合は多い。

 逃がした相手が犯罪者だった場合、連行の対象になるのは当たり前だ。

 それ以外にも連行される場合は多い。

 罪には問われないケースでも正体がバレてしまうのは商売上、うまくない。

 俺が『逃がし屋』だと知っている者は少ない。


 だから、時々信じられないくらい大きな仕事が入る。

 他の『逃がし屋』がどんな仕事を受けているのか、わからない。


 そんな俺でも今回の仕事が特大なのはすぐにわかった。


 「何で俺なんだよ?。」

 「先方さんの指名なんだよ。

 『逃がし屋』としての成功率が高くて、名前がバレてない・・・って、ウチに出入りしてる『逃がし屋』じゃお前しかいないからな。」

 「・・・にしても俺弱いぞ!?。

 自分で言うのも情けないが。」

 「戦闘力は問わないらしい。

 一人で中原最強の軍隊と世界最強と言われる男を倒せるのなら闘っても構わないらしいが。」

 「大体、ソイツらを敵に回す仕事は俺には荷が重いって!。」

 「お前に荷が重かったら、もう誰にも受けれない仕事だぞ?」 

 「しかし隣国のお姫様だぞ?。」

 「『元隣国』な?。

 もう彼女がお姫様だった『ヘイムダル』は亡国だ。」

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