エスカレーター
ぐるぐると同じところを一定のスピードで回る赤い手すり。
その手すりがとんでもなく汚いものに見えて仕方がなかった私はそれが手すりであることを知っていながらその手すりにつかまらなかった。
はるか遠くの上の階へと私を乗せて運ぶ小さな段の半分を誰かが素早く横切った。
その誰かの肩がぶつかってバランスを崩した私は真っ逆さまに落ちていく。
私の後ろには同じように段に乗って運ばれていく人々が並んでいて、その人々の上に私は落ちてく。
落ちていくなかで私は私に問いかけた。
こうなったのは誰のせい?
そしてすぐに答えは返ってきた。
未知のウイルス、あなたのせい。
見知らぬ人々の上に落ちていく私は狂っている。
何が正しいのか何をするべきなのかはこうなった今もまだわからない。
でも、それでも、手放してはいけないものがあることを忘れてはいけなかった。
あの赤いてすりは決して手放してはいけないものだったのだ。
やっと正気に戻った私は見知らぬ人々の上に落ちていく。
だが今、私は赤いてすりに手を伸ばす。
間に合いはしないだろうかと手を伸ばす。