番外編 第1話 1年前の新入生クエスト
カレンは苛立ちを覚えていた。
今日から新入生クエストなのだが、一緒に組むという2年生の先輩と、同期1人が待ち合わせ時間に来ていないからだ。
「たく、アイツら何を考えてるんだ」
3年生が苛立ちを覚えているのが伝わり、カレンは怒りの気持ちが引っ込んだ。
「ちわーっす」
そんな気まずい雰囲気の中、カレンとアリスの真後ろから、マグナ・ゼロ・モノが姿を現した。
「お前ら、本当にいい加減にしろよ!?
いつも周りを巻き込みやがって!成績が多少いいからって調子に乗ってんじゃねーぞ」
そんな3年生の言葉にマグナはパチンと手を合わせる。
「すまん、先輩!
人生に迷った、ばあちゃん見つけてな!」
「いい加減な嘘をつくな!」
ケラケラと笑うマグナを傍に、ゼロはカレンたちに話しかけた。
「おい、もうクエスト内容は発注されたのか?」
「え…えぇ、スカル湖に住むラプカスの牙を10kg持ち帰ること…だそうです」
その言葉にゼロはふむ…と考え込む。
「ラプカスか…そうだな、釣具を作って釣るか」
「お、いいねー。餌は現地調達でいいか?」
「なら、ボクの雷でこんがりジューシーだね。」
3人がそんな話を皆に提案すると、3年生の先輩たちは、怒りが爆発した。
「お前ら、ふざけてんのか?
時間通りには来ないわ、クエストには真剣に取り組まないわ。
ラプカスは魚じゃなくて魔獣だぞ?
それを釣るとかバカにしてるだろ。
真剣に取り組まないなら、せめて邪魔をしないでくれ!」
そう言い、先輩たちはカレンとアリスを呼び、作戦会議を始めた。
「アイツらは邪魔だ。 こっちはこっちで作戦会議をするぞ。
カレンとアリス…と言ったな。俺はアルでコイツがナナ。よろしくな。」
ナナと呼ばれた少女は笑顔でぺこりと頭を下げる。
「ラプカスは湖龍の一角だから、まずは湖から引き出す。引きずり出せればこっちのものだからな。
カレンとアリス、お前らどこまで魔法使えるんだ?特待だし、魔力付与ぐらいまでは使えるか?」
その言葉に2人は頷く。
「はい、領域変動と魔力付与までは使えます」
「わかった。じゃあ、俺とナナが魔法で湖からラプカスを引き出す。
2人は出てきたラプカスの動きを止めてくれ。湖龍とはいえ小型だからこれで仕留められるはずだ」
カレンとアリスは真剣な表情で頷いた。
「おいおい…その作戦は危ないぞ」
そうマグナは言い放つが、3年生は相手にせずスカル湖に向けて進み始めた。
カレンとアリスもマグナたちを見下しつつ3年生について行った。
「ま、俺たちも行くか」
「仕方ないな」
「にぃにが行くならボクも行くー!」
3人は他のメンバーの後に続いて歩いていった。
「あ、この木の枝、竿に丁度よくね?」
「釣り糸は今錬成している。」
「針はリーボーンの骨が使えそうだね!」
そんな会話に特にアルがイライラしていたが、ナナに宥められながら、何とかスカル湖に到着する。
荷を下ろす3人にアルはビシッと指を指す。
「お前ら、そんなふざけたことをするなら向こうでしろ!
俺たちにこれ以上迷惑かけるな!」
その言葉に「はいはい」と返し3人は別場所に移動して行った。
「おい、ゼロ。ラプカス釣り対決な!」
「いいだろう。負けた方が1週間学食おごりだ」
モノはウキウキと2人のやり取りをキャッキャと喜び声をあげ2人について行った。
「アイツらは完全にお荷物だ。
こっちはこっちで行くぞ」
4人もまた荷物を置くとそれぞれ武器を構える。
「いくぞ!領域展開:昇火炎天
術式・炎獄飛翔」
アルが術式を唱えると半径10m程の炎の球が湖に沈み、湖は少しづつ温度が上がり、ふつふつと水泡が上がっていく。
「来るぞ!」
その言葉と共に、ラプカス3体と、そのラプカスを飲み込む程の大きさのあるドラゴンが姿を現した。
「「「あれって…」」」
「リヴァイアサンだ…なんで古龍がこんな所に…」
カレンとアリスは完全に腰を抜かしてしまう。
アルとナナは震えながらも覚えている魔法を叩き込むが、一筋の傷も入らない。
リヴァイアサンの瞳孔が細長くなり、アルにギロリと向く。
「お、お前ら逃げろ!」
勝ち目のないことを悟ったアルは、3人を逃がそうとする。
「クソッ!術式・神羅不知火」
アルの手から放たれた2本の炎の槍はリヴァイアサンに向かうが、刺さることなく消失する。
「全く役に立たないのかよ!!」
「いや、よくやった」
「あぁ、後は任せろ!」
アルがリヴァイアサンと対峙している間、カレンとアリスは急いでマグナ・ゼロ・モノに助けを求めに行っていたのだった。
SOSを受け取った3人は瞬時にリヴァイアサンの元に駆けつけた。
「マグナ、最悪のことは考えとけ。」
「あぁ、最優先はみんなの命だ。
モノ!お前は俺らのサポートと、みんなの守備だ」
「うん!」
モノは頭から狗面を外して顔に着け、マグナはホルスターに、ゼロは刀の柄に手を添え戦闘体勢に入った。