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母親は怖い


なぜ真夜中の闖入者は顔つきが変わったのだろうか。私は不思議でした。理由として考えられるのは母親の登場です。真夜中の闖入者は母親の言うことを気かないで、母親を引きずって歩き回っていました。母親に対してわがままに振舞った真夜中の闖入者は母親が登場したことで彼の気持ちが傲慢になったのではないだろうか。そうだ。母親への甘えが傲慢な態度を取るようになったのだ。そう考えると、「この甘ったれめが。」といい気持ちになり、私は真夜中の闖入者への怒りが湧き起こってきました。私は真夜中の闖入者の傲慢な気持ちをへし折ってやることにしました。

私はラーメンを掴んでいる闖入者の手首を掴みました。そして、

「ラーメンをここに置きなさい。」

ときつい声で言いました。真夜中の闖入者は私の命令を無視して、私の手をふりほどいてその場から去ろうとしました。しかし、私は手を離しません。

「ラーメンを元の場所に戻しなさい。」

私は強い調子で言いました。しかし、真夜中の闖入者は私の命令を無視しています。私は、私から離れようとしている真夜中の闖入者の手首を強く握り締めて腕をねじりました。闖入者は、

「ああ。」

と悲鳴を上げラーメンを離しました。私はラーメンを取り棚に戻しながら、手首をきつく握り締めたまま、

「これは売り物だから勝手に取ったら駄目だよ。」

と厳しい声で言いました。私は母親の代わりに真夜中の闖入者をしつけたのです。

「いいね。店の商品は売り物だからね。自分が買う商品だけを取るのですよ。」

と、今度はやさしい声で言い、真夜中の闖入者の手首を掴んでいる手を離しました。すると真夜中の闖入者は私の傍から離れ、今度はお菓子コーナーに行きかっぱえびせんの袋を取ろうとしました。私は真夜中の闖入者の手首を掴みきつく締め上げました。闖入者は、「うう、うう。」と悲鳴を上げました。

「これは売り物と言っているだろう。勝手に取ったら駄目だよ。」

私の厳しい声を避けるように闖入者は背を曲げて、

「うう、うう。」

と言いました。手を離したら闖入者は別の陳列棚に行き、新たな商品を取るだろう。

私は商品を取ったら痛い目に合うことを思い知らせるために、真夜中の闖入者の腕を

強くねじりました。闖入者は、

「ああ。」

と悲鳴のような声を出しました。


母親が近づいてきました。私は掴んでいる真夜中の闖入者の手首を母親に握って

もらおうとしました。母親に一礼して、真夜中の闖入者の手首を母親の前に差し出しました。しかし、母親は真夜中の闖入者の手首を掴もうとしません。母親が真夜中の闖入者の手首を掴まないので私は戸惑いました。私は、

「あのう、これ。」

と言って、真夜中の闖入者の手首を母親に掴ませようとしましたが、母親は私を睨んで、

「手を離してください。」

と言いました。私は真夜中の闖入者の横暴を止めたことで母親に感謝されると思っていました。ところが母親は私を憎むように睨んでいるのです。私は思ってもいなかった母親の態度に、

「え。」

と言ったきり体が硬直しました。

「手を離してと言っているでしょう。早く、手を離してください。」

母親は明らかに怒っていました。可愛い息子の手首を締めあげて悲鳴を上げさせた私を罵倒したい気持ちが顔にありありと出ています。私は母親の気迫に押されてうろたえました。

「し、しかし、手を離すとこの子はまた暴れますよ。」

と私は言いましたが、母親は、

「とにかく手を離してください。」

と私を睨みつけました。母親の表情は、

・・・あなたに私のかわいい息子を痛めつける権利はありません。・・

と言っているようです。私は仕方なく真夜中の闖入者の手を離しました。

 母親は真夜中の闖入者の手首を揉みながら、

「痛くないかい、謙吾」

と、とてもやさしい声で言いました。

 母親の態度を見て、真夜中の闖入者が強気の表情に変わっていた原因が分かりました。真夜中の闖入者にとって母親は我がままができるだけでなく、自分を迫害から守ってくれる存在でもあるのです。母親という強力な援軍が登場したので真夜中の闖入者は強気の表情に変わったのです。


 真夜中の闖入者をやさしい愛で包んでいた母親は、一転して憎しみの顔に変わって私を睨みました。私を睨みながら、

「謙吾ちゃんはかっぱえびさんが好物なんだよね。」

と言うと、かっぱえびせんを棚から取って真夜中の闖入者に渡しました。私が真夜中の闖入者を痛い目にあわせながらかっぱえびせんを取り上げたことに対する怒りが込み上げているのだろう。母親にとって私は愛する息子を虐待した非道な人間なのでしょう。私は母親の鋭い視線にうろたえ、母親から目を反らして、逃げるようにレジカウンターに戻りました。

母親は真夜中の闖入者を連れてレジにやってきます。真夜中の闖入者は私に痛めつけられた性なのか元気がなく、母親に素直について来ます。母親は私を睨みながら、真夜中の闖入者が抱えているお菓子をカウンターに置いて、

「いくらになりますか。」

と言いました。母親の私への怒りはまだ収まっていないようです。私はみっつのお菓子のバーコードにスキャナーを当てました。ビッビッビと電子音がして、レジのモニターにみっつのお菓子の名前と値段が表示され、下の方に合計の請求額が表示されました。

「な、七百六十円です。」

母親に睨まれて私は緊張し、どもってしまいました。母親はバッグからサイフを出し、千円札を出しました。

「に、二百四十円のお、おつりです。」

私はつり銭を渡してから、ビニール袋にお菓子を入れて母親に渡しました。母親はふんだくるように私からビニール袋を取ると、

「謙吾ちゃん行きましょう。」

と言って、母親はおとなしくなった真夜中の闖入者の手を引いてコンビニエンスを出て行きました。


 今も、真夜中の闖入者は深夜にたまにやって来ます。私は、「ああ、またやってきたか。」とつぶやき、警察に電話します。しばらくするとパトカーがやってきて真夜中の闖入者を連れて行きます。

 真夜中の闖入者が登場した最初の夜もパトカーを呼べばあんなに苦労することはありませんでした。

朝のパートのマリエさんに真夜中の闖入者がコンビニエンスにやってきて大変だったことを話したら、「パトカーを呼べばよかったのに。」と軽く言われてしまいました。マリエさんに指摘されてはじめて警察を呼べば真夜中の闖入者の問題は簡単に解決することに気づきました。私は機転のきかない初老の男です。

私は今夜もコンビニエンスの深夜パートをやっています。

暇でしたら、ぜひ一度は寄ってください。


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