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酔いどれ女子対真夜中の闖入者


とにもかくにもムータンとミータンの二人で真夜中の闖入者から真夜中の闖入者が抱えているお菓子を取り上げることになりました。

「いい子だから、おねえさんにお菓子を渡しなさい。さあ。」

とムータンが近寄ると真夜中の闖入者は恥かしそうな表情をし、もじもじしました。不思議なことにムータンとミータンには真夜中の闖入者は抵抗しようとしません。ひとつの袋は真夜中の闖入者の抵抗がなく難なく取れました。二つ目は少し抵抗しましたが取れました。しかし、最後の袋になると真夜中の闖入者は取られまいと強く抵抗をしました。

「こら少年、無駄な抵抗は止めなさい。」

ミータンが怒ってお菓子を無理やり取ろうとしたら、「うーうー。」と言いながらお菓子を強く抱えて後ずさりしました。

「聞き分けのない子だねえ。さっさと渡しなさい。」

ミータンが真夜中の闖入者に迫りました。


キーンコーン


タバコを買いに客がひとり入ってきました。私は真夜中の闖入者をムータンとミータンに任せて、レジカウンターに戻りました。


 真夜中の闖入者はミータンに肩を捕まれながらお菓子コーナーまて後ずさりしました。

「泥棒は駄目ですよ。さあ、ちゃんとここに戻して。君はおねえさんの言うことが聞けないの。言うことを聞かないならね、やーちゅーするよ。」

ミータンが怒り出しました。どうもミータンは短期な性格のようです。

「ミータン、怒ったら駄目だよ。この子は知的なんとかなんだから。ねえ、いい子だからそのお菓子をおねえさんに渡しなさい。」

ミータンとムータンが代わる代わる真夜中の闖入者のお菓子を取ろうとしましたが、お菓子を取ることはできませんでした。

「もう、あんたは根性が悪いわね。やーちゅーをしようね。ちょっと外に出ようか。」

やーちゅーとはお灸のことですが、ミータンのいうやーちゅーとはタバコの火を腕にくっつけることです。不良少女たちがやきを入れるのに利用する方法です。ミータンはやーちゅーをするために真夜中の闖入者をコンビニエンスの外に連れ出そうとしました。

「やーちゅーは駄目よ、ミータン。この子は知的なんとかだからやさしくしてあげないと。」

ムータンはミータンを引き止めました。

「反抗する子にはやーちゅーが一番よ。」

「やーちゅーは駄目だよ。」

「やーちゅーがいい。」

 ムータンとミータンが揉めている時にムータンの携帯電話が鳴りました。

「もしもし、あ、広。お前さ。今日も内の店でつけをやったね。許せないよ。え、カラオケ行かないかって。お前、冗談は言うなよな。カラオケ行く金があったらさあ、店のつけ払えよ。お前、同級生だからって甘えていないか。つけやるんだっら店に来るなよ。くそたったれ広が。しつこいなあ。誰がお前とカラオケなんか行くか。お前ひとりで行けよ。じゃあな、電話切るよ。え、俊夫先輩も一緒だって。嘘をかましているんじゃないだろうな。本当なら代わってみろよ。あ、俊夫先輩。」

ムータンの声が急に女らしい声に変わりました。

「はい、むつみです。今ですか。美千代と一緒にアパートの近くのコンビニに居ます。カラオケですか。だーい好きですよ。行きます行きます。どこのカラオケ屋ですか。はい、分かります。美千代ですか。当然喜んで行きます。はいはい。今直ぐにいきます。」

ムータンは俊夫先輩が好きなようです。携帯電話をバッグに入れると、嬉々として、

「ミータン行くよ。」

と言ってミータンの手を引っ張りました。

「ちょっと待って。こいつからお菓子を取り上げるからね。」

「もう、お菓子なんてどうでもいいの。早く行こう。」

「ええ、行くってどこに行くのよ。」

「アカミチのカラオケ屋よ。」

「ちょっと待ってよ。ミータンはもう眠いし、ラーメン買ってお家に帰りたいよ。」

「駄目。カラオケに行くんだから。俊夫先輩が来るのよ。」

「ミータン行きたくなーい。」

ムータンは嫌がるミータンを無理矢理カラオケ屋に連れて行きました。



      母親がやって来た


 午前五時。ああ、大変だ。大急ぎで商品を棚に並べても勤務が終了する八時までには終わりそうにありません。五時を過ぎると客もちょくちょくやってきます。もうまごまごしていられません。しかし、真夜中の闖入者が居ては商品を棚に並べる仕事ができません。

切羽詰った私は真夜中の闖入者を事務所の椅子に縛る決心をしました。暴れるかもしれませんが、やってみるしかありません。もし大声を出したらガムテープで口を塞ぐ方法もあります。暴れたら椅子に縛ることを断念しなければならないかもしれませんが、とにかくやってみるしかありません。

私は真夜中の闖入者を連れて事務所に向かいました。


キーンコーン。


チャイムが鳴りました。

まるで私がこれからやろうとしている残酷な行為への警告のようなタイミングのチャイムの音に私はどきっとしました。私は、「いらっしゃいませ。」と言うのを忘れて、ドアの方を見ました。

ドアには一人の女性が立ち、店内を見回しています。小柄で痩せた黒髪が長い女性です。陳列棚から顔を出している私と女性の目が合いました。

「あのう。」

と女性は言い、

「うちの謙語を見ませんでしたか。」

と言いました。そして、私の傍に立っている真夜中の闖入者を見つけると走って来ました。

「健吾。」

女性は真夜中の闖入者を名前で呼びました。ということは彼女は真夜中の闖入者の母親です。やっと母親が来ました。これで、真夜中の闖入者を事務所の椅子に縛り付けなくてもよくなりました。私は母親が来たのでほっとしました。

母親の頬はこけて目は落ち着きがありません。

「健吾、大丈夫だったかい。」

母親は真夜中の闖入者の肩を掴み、服の乱れを直し、どこか怪我をしていないか心配そうに真夜中の闖入者の頭から足の先まで点検を始めました。

「どこも怪我をしていないね。よかったわ。」

母親は息子が無事であることを確かめて、ひと安心しました。

私は母親が登場する直前に真夜中の闖入者を椅子に縛りつけようとしていました。私がやろうとしていたことを母親が分かるはずはありませんが、私は真夜中の闖入者を縛ろうとしていた後ろめたさがあり、母親が真夜中の闖入者だけを見て私を無視しているのを幸いに私は黙ってその場を離れてレジカウンターに戻りました。


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